第14話 ルアという少女
「ルアといいます。助けていただいてありがとうございました」
そう言って深々とお辞儀をするのは。淡い橙色の髪を持つ少女だ。肩口まで伸ばした髪に、少し垂れた目元、年は俺と同じか少し上だろうか。フード付きの半袖に、ショートパンツ。左肩から下げられたベルトには、何のためのものなのか、大きな木製のボードが取り付けられていた。だが、それよりも彼女の容姿には目を引いてしまう部分があった。
ルアさんには左腕がなかった。左の袖口から伸びるはずの腕が存在せず、お辞儀に合わせて袖が揺れているだけだ。
「まあ、あれだけのことが突然起きたんだから、助け合うのは当然だよ。それより怪我はないかい? こちらとしても結構手荒に助けてしまったからね」
師匠は、
「大丈夫です、怪我はありません…………」
「ん?」
「あなたは…………」
ふと、体を起こしたルアさんがこちらをじっと見ていることに気がついた。
…………何かしてしまっただろうか? まさか、左腕を見すぎて気を悪くしてしまったとか? それは流石に俺のデリカシーがなさすぎる。
「…………すいませんでした!」
俺は思わずルアさん目掛けて思いっきり腰を折って謝罪した。
「えぇっ⁉︎ どうしたんですか⁉︎ 何で謝ってるんですか?」
「いや、ルアさんの左腕をまじまじと見てしまったんで気を悪くさせたかなと……」
「……ああ、そのことですか。大丈夫ですよ、慣れてますから……」
と、彼女は右手で左肩を抱き、目を伏せて小さく笑う。
嘘じゃん。その笑い方は絶対、気にしてるけど相手に気を遣うときにでるリアクションじゃん。完全に初手のコミュニケーションを間違えてしまった俺は、心の中で思いっきり悶え苦しんでいた。
「では、私はここで失礼します。ありがとうございました」
「あ、そうですか。じゃあ気をつけてください」
すると、ルアさんは改めて俺たちにお礼を言って、
うーん、最悪の初対面になってしまった。今度会えた時は、彼女の目をしっかり見て話そう。…………………って。
「待って待って待って待って待ってください!」
俺は慌ててこの場を去ろうとするルアさんの肩を掴んだ。
「きゃあ、な、何なんですか一体⁉︎」
どうやら引き止められると思っていなかったらしく、ルアさんは驚いた顔をみせる。
だが、そんなことを気にしている場合じゃない。
「ここで失礼って……、一人で『
「そ、そうですけど…………」
「そんなの無茶ですよ! ここは協力して『
「で、でも…………」
俺は当然のことを提案しているつもりだった。だけど、ルアさんの顔は戸惑いの表情で染まっている。一体、俺の何が彼女を困惑させているのか、本気わからなかった。
だが、彼女は。
「私は、あなたたちの役には立ちませんよ?」
「え?」
と衝撃の一言を言い放った。
「私は
驚き固まってしまう俺をよそに、彼女は残った右手の甲を見せてくれる。そこには、青黒い逆三角形の
「だから、私はあなたたちの役に立ちません。むしろ迷惑をかけてしまいます。だから、私はいなくなった方があなたたちも生き残る可能性が高いはずです」
「そんなこ────」
「おーい、ちょっといいかい?」
そんなことはない。と、言い終わる前に、師匠の声。
何事かと思い、俺は師匠の方へと振り返った。するとそこには、俺たちがいる場所のさらに奥を指さしている師匠の姿があった。
「お取り込み中で悪いんだけど、どうやら周りを警戒した方がいいみたいだよ」
師匠の警告を受けて、俺はすぐさま師匠が指差す方向を見た。
切り替わった視界の先、炎ではなく、今度は水を咲かせる木々の合間から、飛び出してくる五つの影。その影を指差しながら、師匠は落ち着いた声で囁いた。
「魔物たちのお出ましだ」
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