第13話 現状確認
「さて、今の状況と今後の目的を確認しよう」
黒く長い癖毛を揺らし、氷でできた草原を歩きながら、師匠が口を開いた。
先程落ちてきた片腕の少女をおぶりながら、俺は師匠の後をついていく。
歩くたびに、パキリ、と薄氷を踏み砕いた音が断続的に響き渡る。
その音が、自分が『
「私たちは今、『
後方を振り返れば、火を灯す木々の森。そして、炎の森を縦断するように流れる風の川。 ここは、火、水、風、氷など、様々な属性が自然となって景色を彩る『
俺が昨日までいた『
『回る
「えーっと、今が11時頃だから、俺たちは
「うん、その通り。ここから見る
持てる知識を総動員して位置を推測してみたら、師匠のお墨付きをもらうことができた。
そっか、
そう、雲よりも高くに葉をつける幹が折れていない
「って、えぇっ⁉︎」
「何、どうしたの?」
「いやだって師匠! 折れたはずの
「ああ、そのことね。だって
「へ?」
さらりととんでもないこと言い切った師匠に、俺は間抜けな声をあげてしまう。
「あれは幻さ。【
「な、なるほど……」
振動と揺れ、そんなこと気にもしなかった。
「でも、なんでウォルフは俺たちを『
「勉強不足だね、ナユタ」
「え?」
師匠は俺の疑問をズバッと切り捨てた。
「【
「そうなんですか⁉︎」
「うん。そして、その効力が続くのは10日間」
つまり。
「今から私たちが死んだとしても、【
「…………」
恐らくウォルフ・テインは、そこまで計算に入れた上で俺たちを落とした。
自分が【
暗にそう言っているかのようであった。
「まあ、こんなところかな。さっきまでが簡単な現状の振り返りと疑問の解消。そして、ここからが本題だよ、ナユタ」
言って、師匠はくるりとこちらを振り返った。彼女の顔はいつになく真剣だ。
「君はこれからどうするんだい?」
問いかけは、俺の胸へと深く突き刺さった。
「さっきも言ったけど、君の夢を達成するためには、あの空に浮かぶフットレストにいるウォルフを止めて、『
それがどれだけ困難なことなのかはよくわかっていた。俺に剣術を叩き込んでくれたおやっさんを、あれだけ圧倒した相手に果たして勝つことができるのだろうか?
「言っとくけど、私はあの男と戦う気は
師匠は、自らの視線を手元にある一冊の本へと落とした。それは師匠の【
「自分の【
促されるままに俺は右手の甲に注目した。気絶している少女をおぶっているから、左腕で支えられるように体勢を整えた後で、右手を前へと持ってくる。
するとそこには異変があった。
俺の手の甲にある青い逆三角形の紋章【
「これは──」
「おそらくマーキングだろうね。確認したら私にも同じ模様がついてた」
つまり、この口のような模様がつけられた者が、10日後に【
「わかるかい? あのウォルフっていう男のことを信じるなら、私たちは後たった10日しか【
できるわけがないと、全身が叫んでいる。
「私は、夢を諦めて『
「…………」
師匠が言ってることは正しい。
それだったら、さっさと逃げ帰って、他の誰かが討ち取ってくれるのを願った方が幾分かマシというものだろう。
けど、だけど。
「いやです」
俺は、師匠の提案をはっきりと断った。
「師匠、俺は確かに弱いです。とてもじゃないけど、今のままじゃウォルフって人に勝つことはできない。だけど、自分の弱さだけで諦めるほど、俺の夢は軽くない」
俺は師匠の瞳から目を逸らさずに言葉を紡ぐ。思いの丈をありのままに。
「【
そうして、必ず──。
「──俺はウォルフ・テインを止めて、俺の野望を続けてみせます」
「…………そうかい」
誓いにも似た宣言を受けて、師匠は諦めたような顔をしながらため息をついた。
だけど、俺にはなぜか、師匠の声が弾んでいるように聞こえた。
何故そんな風に聞こえたか疑問に思っていると──。
「……ん、うぅ──」
背後から、小さな
「あ──」
「うん、起きたみたいだね」
どうやら、俺と向かい合っていた師匠には見えていたらしい。
空から落ちてきた少女が、目を覚ましたようだった
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