第12話 落下
「うわああああああああああああああああ⁉︎」
落ちる。ただ落ちる。
先程までいたフットレストは、やはり空に浮かんでいた。
『
(死────)
ナユタには、落下を止めることも、華麗に着地する方法もない。
為す術のない少年は、最悪の未来が待ち受けているのを予感した。──しかし。
「──落ち着いて、自分の体を地面と水平にするんだ」
ナユタの耳元で、響く声があった。ナユタの背におぶられているテルルの声だ。
「イメージは
ナユタは、
全身に力を入れ、体を地面と水平に保つ。そうして空気の抵抗を受けることによって、落下の速度を緩めることに成功する。
「よし──」
ナユタの姿勢が安定したことを確認して、テルルは行動を開始した。
自らの腰に下げているブックバンドから取り出したのは一冊の本。
彼女は、取り出した本を素早く開くと目的のページを見つけ出す。
そして、本に書かれている文字をそのまま読み上げる。
『──突風は渦を巻き、昇りながら空を掻き乱した──』
彼女の言葉通りだった。
落下先の地面に、突風が生まれた。
そうとしか表現できないほど、唐突な風の吹き方だった。
だが、生まれた風は、落下するナユタたちを勢いを見事に相殺し、その場でフワリとナユタの体が一瞬浮いた。
そして再び落下を始める。が──地面との距離は、もはやないに等しかった、
ナユタは慌てて地面に手をつくことで、着地に成功する。
「た、助かった…………?」
「……なんて思ってるようじゃ、この先やっていけないよ」
「え──?」
「周りを見てごらん」
いつの間にか、背中から降りていたテルルに促されるまま、ナユタは周りを見た。
そして、驚きのあまり目を見開いた。広がっていた光景があまりにも幻想的だったからだ。
目の前には、『炎の森』。葉の代わりに、枝の先端に蝋燭のような火を灯す木々が密集してできた幻想的な森。
その森を縦断するように流れるのは『風の川』。水は無く、一定方向に流れる風によって満たされた細長く続く窪地には、小さな
そして、着地した地面をみれば、広がっているのは『氷の草原』。薄く、短い草の形の氷が生い茂る草原が、ひんやりとした冷たさを感じさせる。
通常ではありえない幻想的な光景、間違いなくここは──。
「──『
「ああ、その通りだよ、ナユタ。どうやら私たちが先程までいたフットレストは、『
テルルが指さした先を見てみれば、遥か空の上に浮かぶフットレストの大地が見えた。
そして、その大地を大切そうに抱える巨大な魔物の存在も。
『
「さて、ナユタ。君には、『
テルルは危機的状況にも関わらず、あくまで落ち着いた口調でナユタに話かける。
「この『
「──っ⁉︎」
「つまり君は、これからこの『
師の言葉を受けて、ナユタは呆然と空に浮かぶフットレストを見続けた。
【
──と、その時。
ナユタはあることに気がついた。
「師匠! 人が落ちてきてる!」
「⁉︎」
走り出しながら、ナユタはテルルに向けて叫び声を上げた。
空から落ちてきている人物は、気を失っているらしい。
迫る地面に背を向けながら、力なく落下していく様子が見てとれた。
「師匠ッ!」
「わかってる!」
ナユタの掛け声に、テルルは食い気味に応えた。
彼女は再び本を開くと、開かれたページに綴られている文章を読み上げる。
『──横に吹いた風は、勇者の体を優しく運んだ──』
テルルの詠唱と共に、またしても風は生まれた。だが、今度は上向きの風ではない。
横に吹いた突風は落下してきた人物にぶつかる。すると落下の勢いを緩めながら、その体は横へと流れた。
それを見たナユタは全速力で距離を詰め、風で横へと流れた人物めがけ跳んだ。
その人をガッチリと抱え込むと、自らの体を下にして、地面へと滑り込んだ。
「っ⁉︎」
勢いよく滑り込んだため、背中に痛みが走るが、ナユタは必死に耐えた。
なんとか着地に成功したナユタは慌てて起き上がった。
落ちてきた人物に怪我がないか確認するためだ。
「────」
しかし、ナユタは、その人物の姿を見て、言葉を失った。
ナユタとテルルが助け出した人物は、少女だった。淡い橙色の髪を持つ、ナユタと同じくらいの年の少女。
だが、その少女には、ある部分が欠けていた。
それは左腕。
おそらく、ナユタたちと同じように、浮かぶフットレストから落ちてきた少女には、左腕が存在していなかった。
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