第10話 【希少支配(レア・ドミナント)】
脅威が迫る。
屋根を走り逃走する最中、四方八方から飛来する踏破者たちの攻撃を
素早く後ろを振り返ってみれば、同じく屋根の上、こちらを猛追してくる人物が一人。
その者の名はガイアン・アルクヴァース。
白髪混じりの髪に
黒
特に、彼が持つ純白の刀へと注意を向ける。
男がガイアンに気づいた時には、すでにそこは『
男と『
ガイアンが持つ刀では、物理的には届かないはずの距離。──にも関わらず、ガイアンはその場で足を止め、刀を上段へと振り上げていた。
(間に合わん──)
距離を詰め、刀が振り切られる前に受け止めようとして、間に合わないことを悟った男は、今度は逆に距離を取ることに全力を注ぐ。
ガイアンの方を振り返り、彼を視界に入れたまま後方へ跳躍。高さを稼ぐというよりは、低く、鋭く、距離を稼ぐ。その跳躍により、ガイアンとの距離は15mにまで開く。
──だが。
「──ゥオラァッ‼︎」
『
「ッ⁉︎」
それを見て、男は自らの周りの空間に意識を向ける。
その直後、黒
上下左右、前方後方ありとあらゆる空間から同時に発生した斬撃は、様々な角度から男の体を斬り裂いていく。跳躍を終え、足が屋根へと着地した頃には、男が羽織っていた黒い外套はあちこちが裂けており、その奥から血を滲ませていた。
「……浅えな」
と、吐き捨てたのは、純白の刀を振り下ろしたガイアン。
彼は、露骨に顔を
「【
「…………あなたはこのフットレストで『
ガイアンの独り言にも近い愚痴に、言葉を返しながら、男は『
「数千、数万の剣が墓標のように突き立てられる『魔剣の墓場』。その中の一刀、『
男の突撃は、攻撃のためではない。むしろ防御を優先した結果である。
「その能力は『斬撃の拡散』。──振り切った一撃と同威力、同速度の斬撃を目視できる距離に飛ばすことができる力」
だからこそ距離を詰め、刀を振り切られる前に、始動の一撃を止める。
『
「だが、だからといって近距離での応戦も危険か」
男は、ガイアンから振るわれた『
正確に受け止めることができていなければ、間違いなく今の一撃で胴は分たれていただろう。
「そもそもが刀だ。使い手次第では遠近両用の必殺になりうる代物だな」
「さっきからテメェは何をぶつぶつと言ってやがる」
言葉を交わす最中に、二度、刀とナイフが
「確認だ」
「あん?」
「実際にやり合ってみてわかった。──やはり、あなたのが一番いい」
呟かれた言葉の意図がわからず、疑問を持ちながらも、ガイアンは『
横合いから迫る刀。しかし男は、来たる刃をナイフで受け止めることはしなかった。
受け止めきれず、回避を選択したのではない。
防御も、回避も捨てて、ただこちらへと右の手を伸ばしてきたのだ。
男の伸ばした手が、横に振るった刀よりも先に、ガイアンの肩に触れた瞬間だった。
ガイアンの手から刀を握っている感触が消えた。
「──は?」
思わず、ガイアンは声を漏らした。
黒い外套の男の胴を両断するために振り切った腕をゆっくりと見てみれば、そこにある筈の刀がなかった。信じられないことに、『
あまりの出来事に言葉を失うガイアン。しかし、異変はこれだけに収まらない。
──後方から気配を感じた。
ガイアンは、ほとんど反射的にその場から飛び退いた。後方へと振り返りながらの跳躍だ。思考をしてないにも等しい咄嗟の行動だったが、回避と確認、その両方を確立するための手段を体が勝手にとったのだ。
結果として、彼は攻撃の回避と後方の気配の確認を成功させた。
だが、振り返った視界の先でガイアンが見たものは、またしても信じられない出来事だった。
──斬撃だ。
つい先程までガイアンがいた位置に発生したものは、十数にも及ぶ斬撃だった。
「なっ⁉︎」
それは紛れもなく彼の愛刀『
その答えは、炸裂した斬撃のさらに奥にあった。
奥にいたのは、黒い
「──『
「必殺の一撃のつもりだったんだが、あれを躱しきるか。さすがだな」
驚き目を見開くガイアンをよそに、黒
間違いなく、それは『
「……テメェ、何をしやがった」
「奪わせてもらった」
端的に、男は答えた。
「奪う、だと?」
「ああ、そうだ。相手が【
言って、男は『
──斬撃が、炸裂した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます