第4話 テルル・エニートンの憂鬱
飾り気の無いカーテンが、茜色に差し込む日差しを
数々の本が散らばる暗い部屋の中で、一人の少女がベッドに横たわっていた。
少女の名はテルル・エニートン。
テルルは、その癖のある長い黒髪を揺らしながら、力なく部屋の天井を見た。
彼女は、後悔をしていた。
なぜ自分は、あの少年にもっと強く言ってやることができなかったのかと。
彼が姿を消してから、既に10日が経過している。
少年の目的はおおよそ見当がついている。
そして、その目的の達成条件が『
だから、10日も彼の姿を見ないのは当然ではあるし、帰ってくるとしたら10日間を達成した今日であろう。
──だが。
(無理だ……。生きているわけがない)
恐らく少年は、たった一人で『
彼が姿を消したその日に、テルルは彼に関わっていそうな人物全員に会って、話を聞いた。だが、誰も彼の動向を知らない様子だった。
そのことを知った時、テルルは絶望した。
なにせ、少年が挑んだのは『
数々の美しい幻想と、それに比例するだけの圧倒的な脅威がひしめく地。
そんな地に、何の力も持たない少年がたった一人で挑むのだ。
無事に生きて帰れるほど甘い領域ではない。
「馬鹿…………」
呟いた言葉は、少年に向けてのものか、自分自身へ向けたものか、少女は明確な答えが持てなかった。
心にできた
そうして眠りにつけば、少年のことを考えずに済む。
解決を先延ばしにしているだけだが、今のテルルには、そうすることしかできなかった。
考えれば、考えてしまうほど、少年を
────だからこそ、テルルは驚いた。
慌ただしい足音がこちらに向かってくると気づき、目を開け、扉の方を見た直後。
「し、しょぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうっ‼︎」
と、姿を消したはずの少年が扉を蹴破って、室内に転がり込んできたことに。
「……へ?」
いきなり響いた、扉を勢いよく開ける音と聞き慣れた声。
困惑しながら体を起こせば、そこにいるのはドヤ顔で仁王立ちしている少年。
黒い髪に、
間違いなく、10日前に姿を消した少年、ナユタ・フォッグフォルテの特徴だった。
「なんで────」
「見てくださいよ、師匠‼︎」
テルルの疑問を
正直なところ、そんなことよりも問いただしたいことが山程あるのだが、急に目の前に突き出されてしまっては注目する他なかった。
彼の右手──いや、正確には右手の甲の部分、そこに目を向けてみれば、何やら三角形を逆さまにしたような紋様が浮かんでいる。
一見すれば、青黒い
「まさか、【
「はい! そうなんですよ師匠! 俺、ついにやったんですよ‼︎」
「ええ……」
どうやらこの少年は、本当に『
それも、たった一人で。
信じられない話だが、右手の甲に浮かび上がっている紋様が何よりの証拠だ。
何故ならば、【
「これで俺も晴れて
「いや、私まだ何も言って無いんだけど……」
ナユタは見るからにハイになっていた。
どうやら【
ベッドに座るテルルに前のめりに近づいて目をキラキラさせているナユタ。
しかし、彼との距離が近づいたことにより、テルルはあることに気がついた。
「っていうか臭っ⁉︎ 泥臭っ⁉︎」
「あっ! そうなんですよ。最終日にちょっと色々トラブルがあったんですよ!」
「いやぁっ⁉︎ それ以上身を乗り出して来ないで!」
「俺も驚いたんですけど、
「私の話を聞けぇ!」
「あっ、何で
「ん?」
先程まで捲し立てるように話していた少年の口と動きが唐突に止まった。
ベッドに片手をつき身を乗り出したまま笑顔で固まっている。
一体何事かと、テルルが首を傾げたその時。
「へふぅ──」
いきなり糸が切れた操り人形のように、ナユタはテルルに倒れかかってきた。
「うわあああああああっ⁉︎ 何、なに、何、なに、どうしたの⁉︎」
突然のことに驚き、大声をあげるテルルだったが、少年の方まるで反応がない。
何事かと思い慌てて彼の顔を確認するテルルだったが、彼の顔はとても安らかだった。
「もしかして…………、寝てるだけ?」
よくよく聞いてみれば、小さいながらも規則的にリズムをとるナユタの寝息が聞こえてきた。
「うう……、何なんだよぉ……もう」
若干涙目になりながら、複雑な気持ちを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます