文学少女ちゃん好きっっっ!

助部紫葉

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俺は文学少女が好きである。


あれは小学生の頃だった。親に隠れてこっそりと見た恋愛ものの深夜アニメ。


それに登場したサブヒロインの1人に文学少女が居た。


地味で目立たず友達も居ない。教室の片隅いつも1人で本ばかり読んでいる。そんな文学少女。


その子は主人公との出会いをきっかけに自分を変えようと努力を重ねるも、結果として主人公にフラれた。仕方ない。だってサブヒロインだもの。


しかし、当時の俺にはそれが理解出来なかった。


なんであの主人公は彼女を選ばなかったのか。あんなにおまえの為に必死に努力していたんだぞ?


最悪のバットエンドを見せられた気分だった。


だから俺は誓ったのだ。もし彼女みたいな子が居たら絶対に俺はその子を幸せにして見せると。そう心に固く固く誓った。


これがきっかけ。


こうして俺は文学少女好きをごじらせるにごじらせていくことになる。



◇◇◇



中学時代。俺はまだ見ぬ運命の文学少女ちゃんの為にありとあらゆる努力をした。


結果として成績は学年1位、頭を鍛え、更に身体も鍛える。運動部からは助っ人要請で引っ張りだこ。顔の作りはわりと平凡ではあるが、身なりに気をつけ、明るく笑顔で誰とでも分け隔てなく話し、クラスの人気者。


そして何よりあらゆるジャンルの本を片っ端から読み漁った。当然、文学少女ちゃんとの話題作りのためだ。


一切の隙もない。まさにパフェークト超人とでも言うべき男になったと思う。めっちゃモテた。


しかし、その隙の無さが仇となる。


俺のクラスに文学少女ちゃんは居た。一目見たときからもう恋に落ちていたと思う。何とかして仲良くなりたかった。


だがカースト上位の俺に対して、文学少女ちゃんは地味で暗くてコミュ力皆無で友達もいない当然クラス内カーストはぶっちぎりのワースト。


そんな俺に文学少女ちゃんが近寄ってこれるはずもなく、逆もまたりしかり。


過度に接触を試みればどうしたって角がたってしまう。他の女子からのやっかみをうけるのは明白。最悪、イジメなどに発展する可能性も低くはない。


文学少女ちゃんを愛する俺に文学少女ちゃんの平穏をぶち壊す事が出来るはずも無い。泣く泣く文学少女ちゃんとの接触は控えた。


そんな理由で手をこまねいていた中学2年の夏休み明け事件は起きる。


文学少女ちゃんはギャル化した。


夏休み前には白く透き通った如何にも日に当たってなさそうな至高の白肌を小麦色に焼き。艶やかな黒髪をチャバネ色に染めてクラスのヤンキー崩れの頭の悪い男ら数人と仲良さげにしていたのである。


女に興味はあるものの、美少女には当然、普通の子にすらまともに相手にされてなかったヤンキー崩れの馬鹿どもが目を付けたのはカースト最底辺に位置したコミュケーション弱者の文学少女ちゃんだったのは必然だったのかもしれない。


夏休みの間に呼び出された文学少女ちゃんはあれよあれよ黒く染められていったのである。


幸か不幸か文学少女ちゃんはそれを楽しんでいた。


そも友達もおらずぼっちだった少女に突然群がる男数人。見た目はアレ、中身もアレな連中ではあったが、彼女は自分がモテると勘違いしてしまうのも仕方の無い話。そも文学少女ちゃんにそういった素質もあったのだろう


結果として文学少女ちゃんは勘違いギャルと化し、青春を桜花するのであった。俺の心情など露と知らずに。


失恋、足元がガラガラと崩れ、俺の心は奈落へと落ちた。


これが所謂BSSってヤツですか?それともNTR?


脳破壊され心に深い傷を負った俺ではあったが文学少女ちゃんへの熱は冷めることはなかった。むしろ逆に強くなった。


この失敗(?)を糧に今度こそは理想の文学少女ちゃんと仲良くなると心に誓う。



◇◇◇



そして俺は地元を離れ偏差値高めの文系の高校に進学する。


人間関係、そして自分の立ち位置をリセットしたかったからだ。


中学時代に何がいけなかったのかと考えた結果。自分は目立ちすぎたのだという結論に落ち着く。


カースト上位に居たのがそもそもの間違い。平々凡々であれば普通に文学少女ちゃんと会話し波風立てずに仲良くなれていたのではないのだろうかと。


あと自分の立ち位置を守るための保守的な行動もよくなかった。周りのことなど気にせずガンガン文学少女ちゃんに攻め込んでいればよかった。


まわりのモブ女子共のやっかみ?嫉妬?そんなもの自分が跳ね除ければいいのである。何故自分にそれが出来なかったのか。純粋に覚悟が足りなかった。文学少女ちゃんへの愛を貫くという覚悟が。


こうして俺は文学少女好きを拗らすに拗らせていく。



俺はクラスで空気であることに徹底した。しゃしゃり出ず、かといって暗くもなりすぎず。


モブ。まさにモブとなったのである。



その裏で俺は理想の文学少女ちゃんを探した。残念ながら同じクラスには居なかった。


となれば、学校の図書館。市営の公共図書館。普通の本屋から穴場の古本屋。あらゆる文学少女ちゃんが居そうな所に入り浸った。



そして俺は出会った。理想の文学少女ちゃんと。



出会いは市営の公共図書館だ。その図書館の奥の方。人目につかない端の端に位置するテーブルに彼女は居た。



髪はボサボサ、長い前髪は目にかかっていて表情はあまり見えない。鬱屈とした雰囲気を醸し出し、彼女は1人で黙々と読書に耽っていた。



好きっっっ!!!



思わず叫び出しそうな想いをなんとか飲み込んだ。


急に叫び出すとか明らかに不審者。



よし。告白しよう。



いや待て、急に告白とか。落ち着け、俺。耐えろ。無策で突撃し玉砕したら元も子もない。というか嫌われたら自室で首吊って死にたくなる。


出逢った瞬間即告白とか不審者極まりない。泣け無しの理性。かろうじて残っていた常識に俺は告白を思いとどまる。



そして、文学少女ちゃん攻略作戦が始まった。



それからというもの俺は図書館に入り浸った。


文学少女ちゃんは決まって同じ席に座っている。俺はその席から少し離れつつも、文学少女ちゃんが見える位置を自身の指定席とした。


自分も本を読みつつ、ひたすらバレないように文学少女ちゃんを観察する。



文学少女ちゃんは祝日土日は大体図書館に来ている。昼頃から夕方まで本を読んでは帰っていく。


平日は火曜日と木曜日。放課後、学校帰りに立ち寄ってる様子。それ以外の日も不定期に来ているようだ。


ちなみに俺は毎日図書館通いしている。祝日土日は開館してから閉館するまで入り浸り。平日は学校終わりに直行して閉館まで入り浸る。受付の司書さんとはすっかり顔馴染みになった。



次に文学少女ちゃんの読んでいる本のジャンルだが有名どころのファンタジーモノに恋愛小説がメインだ。


なんとも根暗っぽい文学少女ちゃんらしいチョイスである。


きっと異世界で冒険したり、淡く切ないラブロマンスを自分もしてみたいとか思っちゃったりしているんだろう。妄想が捗る。


俺もそれと似たようなジャンルを読み漁った。図書館にあるそのジャンルは読み尽くす勢いだ。


しかし、ながら俺はそれらを読んでもあまり心は動かされなかったのはちょっと悲しい話。


だってなぁ。俺にとっての最強のラブロマンスが現実に目の前にあるのだからフィクションの世界に思いを馳せる必要が無い。


そもそも俺は読書を好きでも嫌いでも無かった。あくまで文学少女ちゃんと仲良くなる為のひとつの手段としてしか認識してない。


例えるなら野球は好きだがキツい練習は好きじゃないみたいな感覚と言えば分かりやすいだろうか。わからんか。


でも、いずれ訪れる文学少女ちゃんとの話題作りの為に読まねばなるまいて。



そんな具合に文学少女ちゃんを観察する事、約半年。未だに文学少女ちゃんとの接点は無い。



そろそろ頃合か。半年も文学少女ちゃんが図書館に来る度に居たのだ。目立つアピールだなんだをした訳では無いが俺の存在に気がついては居るはず。



仕掛けるッ!



俺はタイミングを見計らい文学少女ちゃんが図書館に入るドンピシャのタイミングに偶然を装いバッタリ接触した。



「あ、こんにちわ」


「…………ッ!?!!あっ、あっ、あ、こ、こここ、こんにち……わ」



挨拶。



なんの捻りもないただの挨拶。


たったそれだけの接触。今まさにバッタリ出くわしたので挨拶したと言わんばかりの簡素なものだ。


声が聞けた。それだけでまさに天にも登る気持ちだった。なんか驚いて滅茶苦茶どもってたけど、それがまた可愛すぎる案件。


もっと声が聞きたい。もっと会話したい。もっと触れ合いたい。心が昂る。


しかし、留めた。


俺は断腸の思いで文学少女ちゃんと別れて図書館の中に入る。


これからだ。これからこうして少しづつ接点を増やし、仲良くなって、いずれは文学少女ちゃんを俺のモノにしてみせる。



こうして俺は文学少女ちゃん攻略の為の1歩を踏み出したのだった。









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