第29話

 森に住むドラゴンである『フォレドラゴン』は、危険性のある種族だということが認められた。

 知能がとても高く、人間の目を欺くことができるようだ。

 天敵である人間がいるところでは、大人しく害がないドラゴンのように振る舞う性質があるらしい。

 だが、一方で食料に困ると人間でも容赦なく食べる。

 自分が勝てそうな人間を見つけ、バレないように食べていくらしい。


 それが、先輩が発表のためにまとめた論文の内容だ。


 先輩は、学問についても成績優秀のようで、その論文をすぐにまとめて校長に渡したらしい。

 校長から、学会へ発表されると、先輩の停学はすぐに却下された。


 フォレ・ドラゴンを倒した時。

 僕のピンチを察知して戻ってきてくれていたらしい。

 倒し終わった後は、僕の頭を撫でて姿をけしてしまったから、僕はまた幻でも見ていたかと思ってしまったけども。



 論文が認められるまでの一週間。

 僕は、一人でノワール寮で過ごし、部屋の掃除やら、露天風呂の整備やらを行っていた。

 いつ先輩が戻って来ても良いように。



 そんなにすぐ先輩が寮に戻ってくるとは知らなかった僕は、先輩が戻れそうという知らせを聞いた時には、喜んでしまった。

 なんでかなんてわからないけれども。


 僕は、先輩がいないと学園生活が楽しくない気がしたんだ。



 先輩が帰ってくる日に、ゲルプたちも僕の寮に遊びに来ていた。

 帰ってくる日くらい、前もって言っていてくれればいいのにさ。

 そしたら、僕一人で待っていたっていうのにさ。


 他の寮の生徒がいるのを見ると、先輩はムッとした表情で見ていた。


「なんだなんだ。人の寮で楽しくパーティでもしているのか?」

「せ、先輩。おかえりなさい! 帰ってくる日くらい、先に言ってくださいよ! 準備したのに!」


「俺は、お前を驚かせようと思ったのに」


 怒っていた先輩は、ゲルプ達を見ると、顔を和ませた・


「あぁ。お前たちか。ヴァイスを助けてくれていたやつだな。あの時はありがとうな」


 優しく、一人一人の頭を撫でていく先輩。

 やっぱり、先輩は優しさに溢れているようだった。


「どうだ? 俺と一緒の風呂入っていくか?」


 急な勧誘を受けたゲルプ達は慌てて断っていた。


「そんな。寮長を裏切る形になると、どう言われるか」

「硬いことは気にするなよ。その時、誰と風呂に入りたいかってことだろ」



「それなら……」


 ゲルプは少し考えながら返事を返した。


「僕たちは帰ります。今日は二人で水入らずでお風呂に入ってください」

「そうか」


 そう言うと、本当にゲルプ達は帰ってしまった。


「結局、お前と二人だな。まぁ、これからも、よろしく頼むな」

「はい」


 先輩は早速、荷物を置くと、露天風呂へ浸かる準備を始めた。

 僕は、先輩が真面目なうちに聞いておきたかった。


「風呂に入る前に聞いておきたいです。あのドラゴンのこと、知っていたんですか?」

「ああ、俺が森に住むことにした理由だよ。昔、友達をドラゴンに食われちまってな……」


「寮って、新しく立ち上げられるらしいんだよ。成績や魔法の実力が認められて、研究の成果が認められたらな」


 優しく答えてくれる先輩。


「先輩って、実はすごい人なんですね」

「今更わかったのかよ。もっと早くわかってくれよな」


 僕はあらためて、先輩に頭を下げる。


「これから、僕の方こと、よろしくお願いします」

「おう。お前は、筋があるからな!」


 僕の気持ちがわかっていないのか、もう一度。

 ちゃんと、僕の思いが伝わるまで……。


「毎日、僕と一緒に、お風呂入ってください!……先輩寂しそうなんで」


 少し恥ずかしくなってごにょごにょと付け足してしまったけども。



 先輩は、ぱちぱちと瞬きをした。


「はは、いいぞ! 俺が洗ってやるよ」

「い、いや……。洗うのは自分で」


「遠慮するな。はは!」

「もう、先輩! もう少し、僕を意識してください!」




 了

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一匹狼の凄腕魔導師の先輩と、二人で寮生活をすることになりまして……。不束者ですが、僕をよろしくお願いします! 米太郎 @tahoshi

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