第28話

 ドラゴンはこちらを睨んでいる。

 こいつは、全てを焼き尽くす炎を吐くんだ。


 これは強すぎる……。

 先輩がいないっていうのに……。


「これは、不味いぞ。早く逃げた方が良いんじゃないか……」


 確かにそうだ。

 適わないモンスターがいたら、逃げるべきだ。


 けど、それだと……。

 僕たちがいなくなったら、きっとこの寮は破壊されてしまうだろう。

 僕と、先輩が暮らすための寮。


 先輩の帰ってくる場所がなくなってしまう。

 それだけは、なんとしても守りたい。


「僕は、ここに残る。ここは僕の寮だからね……。けど、さすがにドラゴンには適わないだろうから、誰か、寮長か先生を呼んできてくれないかな?」



 所属したばかりだけれども、みんな自分たちの寮に誇りを持っている。

 自分が暮らす家という以上に、先輩たちもいれば仲間たちもいる。

 その場所がモンスターに壊されるなんていう状況だったら、守りたくなるのも必然。



「わかった。この中で、飛べるのは僕くらいでしょ。すぐに行ってくる!」


 ゲルプが、答えてくれた。

 僕の手を取って、言ってくる。


「絶対に死なないでね! 寮よりも、君の命が大事なんだから」

「うん。わかった」


 僕がやってきた魔法じゃあ、どれも太刀打ち出来なかった。

 一か八か、先輩の魔法を一度やってみよう……。


 まずは身体強化だ。


 風を身に纏うイメージ。

 先輩に言われた通り。


 お腹の下の辺りに力を入れて……。


「はあぁぁーーーーー!!」


 風が僕の周りへと集まってくる。

 段々と僕の周りだけを包んでいく。


 そして、ウィンドブレードだ。、

 ありったけの風を集めて、それを結晶化……。


 風が吹き荒れる。

 寮長や先輩には及ばなくても、僕だって魔力量だけはある。


 風がまとまってきて、段々と刀身が見えてきた。

 これを、あのドラゴンにお見舞いすれば……。


「先輩がいない間は、僕がこの寮を守るんだーーー!」


 瞬時にウィンドブレードを振り抜く。

 身体強化をした僕の最高スピード。


 ……どうだ。

 ……これで、切れなかったから、万事休すだ。


 反応は遅れてやってきた。

 先輩とまでは行かないが、近くの木々が切れて行った。


 ただ、ドラゴンの身体は切れてい無いようであった。



 ――ギャオオオーーーーー!


 ……くっ。

 ……僕にはこいつは倒せないのか。


 ドラゴンは息を吸い始めた。

 これは恐らく、炎を吐く気だ。


 さっきよりも、大きく吸い込むドラゴン。

 今度こそ、不味いんじゃないか……。


 こんな時。

 いつもいつも先輩に頼ってしまっていたけれども。

 僕がどうにかしないと。


 せめて防御だけでも。

 僕は、氷の障壁を出す。

 ありったけ大きくて、密度の濃い壁。

 それだけをイメージして、全力を尽くす。


 すると、ドラゴンは炎を吐いてきた。


 僕の今の精一杯の魔法。

 これが破られてしまうと、僕も寮もここで終わりだ……。


 炎が氷の障壁まで届くと、すぐには通過できないようであった。

 先ほどの僕の攻撃が効いていたのか、最初よりも少しだけ威力が弱まったようだった。


 ただ、炎と氷。

 じりじりと氷が溶かされていく。


 せめて、寮は守りたい……。

 先輩と一緒に暮らすための寮……。



 すると、後ろから頭を撫でられた気がした。


「ヴァイス。よくやってるよ。お前はやっぱり俺が見込んだ男だ」


 魔法で精一杯の僕は、後ろは振り返れないが。

 ここにいるはずも無いのに、先輩の声が聞こえた気がした。


 そして、後ろから抱きつくようにして、僕の手を取ってくる。


「魔法は、手から出ているんじゃない。全身を使って出すんだ」


 声の主は、僕の耳元へと寄ってくる。


「お前ならできる!」

「はい!」


 僕の得意な氷魔法。

 全身に力を込めて、再度ドラゴンへ向けて放つ。


 すると、先ほど出なかったような力で魔法が放たれた。

 後ろにいる人の力も一緒に打ち出したような。


 森ごと。

 目の前の全てが凍っていた。


「上出来だ!」


 後ろを振り返ると、安心する顔がある。

 抱きついていたのは先輩だった。

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