第27話

 そうして、先輩は唐突にいなくなった。


 処分が言い渡されてからの先生たちの対応は早かった。

 先輩は、すぐに荷物をまとめさせられて、強制的に学園内から追い出された。


 先輩は、終始不服そうにしながらも、僕のことを心配してくれているようであった。


「俺がいない間、絶対に死ぬんじゃねえぞ。モンスターは絶対に甘く見てはダメだぞ」


 真剣な表情で言う先輩。

 その顔が僕の頭の中に焼き付けられた。



 先輩が追い出されて。

 僕は、一人で先輩のいない家に残された。


 あんなことがあった後で、出歩くような気分でもない。

 寮の中で、一人で食事をとる。



 一人だけの机。

 僕の前には、いつもいた先輩の姿は無かった。


 先輩がいた時は、なんだかんだ毎回一緒にご飯を食べてたっけな……。



 先輩は、僕の作った料理には文句を言わなかったな。

 むしろ、毎回きちんと食事の感想を言って食べててくれていた。


 僕が帰りが遅くなっても、ご飯だけは一緒に食べようって言ってくれていたっけ。

 だから、無断で帰りが遅くなった日は、怒られていたっけな。

 ははは……。


 誰もいない部屋で、喋ることもなく。

 黙々と一人でご飯を食べる。


 一人でいるって、こんなに寂しいものだったんだな……。



 食べ終わると、一人で風呂に入る。

 最近、色んな寮を渡り歩いて大きなお風呂に入っていたけれども。

 ここのお風呂が一番落ち着くかもしれない。


 小さいながらも、落ち着く風呂。

 これが、僕の理想なんだろうな……。


 慌ただしい毎日を送っていても、落ち着ける場所。

 ここが僕の家なんだ。



 湯に浸かって十秒数える。

 前世から、僕がずっとやっていること。


 一人で数を数えると、僕の声がむなしく響くだけ。

 みんなで数えるのは、楽しかったな……。

 先輩とも……。



 先輩も、僕が来る前までは、こんな感じで暮らしてたのかな。

 魔力の泉の源泉が、なくとも。

 先輩の停学が明けたら、毎日一緒にお風呂入ってあげよう。



 ――ウォーーーー!



 僕がお風呂を上がろうとすると、外から獣の声が聞こえて来た。


 モンスターが現れたのか?

 これは、聞き覚えがある。

 きっとトロールの声だ。



 すぐにバスタオルを巻いて、急いで外に出てみる。

 そこには、声の主の大きなトロールがいた。


 僕は身構える。


 目の前に現れたトロールは、こちらに襲い掛かることなく、その場に倒れてしまった。

 倒れたトロールの後ろから、ドラゴンが現れた。


 このドラゴンは、先輩が倒したドラゴンと似ているぞ……。

 もしかすると、仲間なのか?


 同じ色をしてるけれども、明らかに大きさが違う。



 もしかすると、こっちは大人なのかもしれない。

 今は、先輩がいないっていうのに。

 僕だけで何とかしないと……。



 ――ギャオオオーーーーー!



 ドラゴンとの対峙。

 一瞬のうちに、緊迫した空気に包まれた。


 こちらから仕掛けるべきか……。



 そう悩んでいると、声が聞こえて来た。


「おっすー! 元気しているか?」

「聞いたぞ。あの先輩がやり過ぎて停学食らったらしいじゃん」

「寂しそうにしてないかって、心配して来てやったぞー!」


 そこには、ゲルプ達の姿があった。

 スライム討伐をしたメンバーだ。


「君たち、良いところに来てくれたよ……。いや、むしろ悪いところに来てくれたみたいだけども……」



 ――ギャオオオーーーーー!


 ドラゴンが再び吠える。

「わ、びっくりした。なんだこいつ!」

「暗くてよく見えないけれども、フォレドラゴンじゃないか?」

「あの、大人しい奴か?」


 ドラゴンは、大きく息を吸い込んだ。

 呑気にしている場合じゃないぞ。


 これはきっと危険だ。


 ――ギャオオオーーーーー!


 ドラゴンは吠えると、口から炎のような物を吐いてきた。



「危ない!」


 咄嗟に身体強化を発動させて、三人を持ち上げる。

 そのまま、炎の通過線状から移動させた。


 ドラゴンの炎が通った後は、植物が黒いチリのようになっていた。

 燃えカスさえも残らないくらい、高温の炎だ……。


 あんなのを食らっていたら、死体だって残らずにお陀仏だった……。


「なんだあいつ、全然穏やかじゃないじゃん!」



 もしかすると、先輩はこのドラゴンの性質を知っていたのかもしれない。

 このドラゴンは、危険すぎる。

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