第26話

 僕は、先輩に身体強化魔法から習った。

 なんで裸なのかというところは、もはやツッコまないで欲しい。


「いいぞ、いいぞ! そのまま魔法を自分の身体にそわせていくイメージだ!」


 ……僕の身体に。

 ……魔法を沿わせて。


 ピチピチのTシャツやパンツを履くイメージだろうか。

 びっちりと身体に密着させて。


「そうだそうだ。まだ腹回りが足りないぞ? ここだぞここ。人間にとっての弱点でもあるからな。しっかり強化しろよ」


 先輩は、そう言いながらお腹を撫でてくる。


「い、いや、先輩。どこ触ってるんですか……」

「ちゃんと強化されてるか確認だろ? まだまだ柔らかいな、お前。ほらほら、ちゃんと固くしないと、折られちゃうぞー?」


「うぅ……」

「なんといえばいいのかな? もうちょっとな、力を込めてだな」


「い、いや! 先輩どこ触ってるんですか!」

「あ? 力入れるポイントをだな」


「……先輩のエッチ!!」

「いや、待て待て。お前が一人でいる時に、あんなモンスターが出たら、不味いだろ。俺はお前を死なせたくないだけだから」


 魔法の練習にかこつけて。

 色んな所を触ってきて。

 職権乱用っていうやつだよ。


 きっと今まで寮に来た後輩にもあんなことや、こんなことをしてたんだ。

 だからきっと、この寮には人がいつかなかったんだ。


「いや。決めたんだ。俺は、俺のやりたいようにやる! ここだここ! 力を入れるのは、ここ!」

「いやーーーー!! どこ触ってるんですかーーーー!!」



 僕の身体の大事な部分のファーストタッチは、先輩に取られてしまった。


 ……毎回ながら、嫌という訳じゃないけれども。

 ……心の準備というものが。



「おいおい、君たち。何を裸でやっておるんだ……」

「今の若者は、貞操観念というものが無いのか……まったく……」



 伐採された森の中から、声が聞こえてきた。

 そう思ったら、先生たちが出てきた。


「この森をこんなにしたのは、君たちかな?」


 緑色のローブを着ている先生が話しかけて来た。


「あぁ。それをやったのは俺だ」

「少し、職員室まで来てもらおうか」



 ◇


 一緒にいた僕も、もちろん連帯責任だ。

 何か悪いことをした生徒がいると、寮ごと罰せられる。


 職員室へ、僕も呼び出しを食らってしまっている。

 学校の職員室のような、事務机やらが並んでいる部屋。

 前世では、素行は悪くなかったから呼び出されたことはなかったのにな。


 職員室に立たされて、緑色のローブの先生が尋問するように聞いてくる。


「どうして、そんなことをしたんだ?」


 先輩は、反抗期を迎えた不良少年のような目で先生を見ていた。


「ドラゴンが出てきて、危険な状態だったんだ! 仕方なく魔法で倒してただけだ!」

「いや、ちゃんと確認はしたのかな? あのドラゴンは特に害を及ぼさない種族だ」


 そう言えば、森のドラゴンの危険性は低いと、どこかで聞いたことがある。


「授業でもやるだろう。危険な種族の見極め方」


 そうか、授業で習ったんだ。

 食料も豊富にあるような森では、ドラゴン特有の破壊行動はせずに、共存を選ぶように進化したっていうのを習った。


 先生は、淡々と続ける。


「これは、やりすぎだと言わざる負えない」

「そんな事ねぇだろ。ドラゴンだぞ! やらなきゃこっちが危険だっただろ!」


 そばにいた赤色のローブを着た先生も話に入ってきた。


「今までにも、こういったことが何度もあった。その度に、校長先生が庇って揉み消していたが、ここは一度仕置きをしておくべきかと」

「確かにそうだな。それが良いやもしれない」


 青色のローブも加勢してきた。

 寮には、それぞれ顧問となる先生がついている。

 各寮の先生たちが、一斉にうちの非を攻撃してきているようだった。

 寮同士の争いは、先生たちにもあるようだ。


「ノワール寮にはほとんど予算が下りていないとはいえ。こういう生徒がいる寮には一銭たりとも予算は必要ないだろう」

「確かにそうだな。その分を他の寮に回してもらえるとありがたい」

「そもそも、寮制度は三つで十分でしょう。良い機会だから寮ごとなくすというのは、いかがだろうか?」


 先生たちの話がヒートアップしてきた。

 話が聞こえていたのか、隣の校長室から校長先生が出て来た。


「まぁまぁ。君たちの言い分もわかるが。大事な生徒の学び場を、そう簡単に壊してしまうのは良く無いぞ?」


 校長の言葉に、先生たちは口をつぐんでしまった。


「そうは言っても、君たち。やり過ぎは良くないからの。仕方ないから罰則を与えよう。これも教育だと思ってしばらく寮を出て、自宅に戻るように。君は、しばらくの間、停学だ」

「はっ? ふざけんなよ! 俺はこいつを守ろうと」


 校長は、先輩を窘める。


「もちろん、君の言い分も分かる。痛いほどにな。けれども、やりすぎた面も多いのじゃ。君の魔法で他の生徒たちが危ない目に合うかもしれないのじゃ。他の先生や生徒にも示しがつかない。しばらく、反省せい!」


 校長先生の威厳のある態度に、先輩は反論しなかった。

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