回る愛

 その日の天気予報は、くもりのち雨だった。

 ベランダに干しておいても洗濯物が乾かないので、朝一番に、コインランドリーへ行くことにした。


 洗濯機から洗濯物を取り出している私に、ひげをそっている夫が言った。

「乾燥機を買ったらどうだい?」

「いらないわ」

「そうかい。あると便利だと思うけどね」

 それが、夫との最後の会話になってしまった。


 帰宅の途中、夫は車にはねられた。

 即死だったそうだ。



 夫を失い、何も手がつかなかった私に代わって、葬式の準備や事故の処理は、義理の両親がやってくれた。

 その頃の記憶はほとんどない。

 毎日、泣いて過ごしていた。


 そんなある日、保険会社から通知が来て、夫の死亡保険金が振り込まれたことを、私は知った。


 私は久しぶりに外へ出て、銀行のATMで通帳を記入したところ、確かに保険金が振り込まれていた。

 その数字の羅列を見ていたら、私の頬をまた涙がつたった。


 私は視界が涙でにじむまま、ATMを操作してお金を引き出した。

 家の近くの家電量販店で、乾燥機を注文するために。



 乾燥機の中で、私と夫の衣類が回転しているのを、飽きることなく、いつまでも眺めつづけた。


 やがて、乾燥機が回転をめると、私は夫のセーターを取り出し、それを着た。

 セーターは温かでふっくらとしていた。

 夫にやさしく抱きしめられているような心持ちに、私はなった。

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