第63話 予期せぬお客様
急ぎ足でやってきた人は、騎士の姿をしていた。パッと見で、直感的に実力者だろうなと思いながらギデオン様と一緒に視線を向けていた。
ギデオン様から副団長と紹介があると、軽く挨拶をした。
(副団長ってことはギデオン様の右腕で、次に強い方ってことだよな? どうりで……なんだか強者のオーラを感じたんだよな)
一人納得している隣で、副団長の声がわずかに漏れて聞こえた。
「団長。念のためお耳に入れたいことが――」
「そうか……気にしなくていいが、問題のない範囲で見ていてくれるか?」
「わかりました。報告は以上ですので、私はこれにて失礼します」
ギデオン様は即座に答えを出すと、副団長は一礼してきた道を戻っていった。。
「すみません、アンジェリカ嬢」
「いえ。それよりも大丈夫でしたか? 何か急ぎの用だったんじゃ」
「大丈夫です。申し出のない貴族がいらしてるという報告でした。もしかしたらお忍びかもしれないので、直接何かすることはありませんが、万が一に備えて見張りをつけるよう伝えました」
「そうだったんですね」
(正直、お忍びでも連絡はいると思うんだが……確かに追い出して騒ぎになるよりは、監視しときゃいいもんな)
どうやらマナーの悪い貴族がいるようだ。
ギデオン様は動揺することなく、終始穏やかな雰囲気で説明してくれた。
それが終わると、私達は再び訓練場に視線を戻した。
「アンジェリカ嬢。こちらに椅子もあるので、よろしければ」
「ありがとうございます」
ギデオン様の案内で用意されていた椅子に着席した。視界良好な場所だったので、訓練場がよく見えた。私達の反対に子ども達が見えた。まだ五歳くらいの幼い子から、背の伸びた十代前半の子まで見られた。
「子ども達たくさんいますね」
「良かったです。多くの子が見にきてくれて」
表情までは見えなかったものの、訓練開始まで楽しそうに待機する声は聞こえた。
「早く始まらないかな! 楽しみだなぁ……」
(わかる、楽しみだよな……わくわくするよな)
子どもの声に頷きながら私自身も期待を膨らませていた。
「今日は何が見られるんだろう? 模擬戦も見たいなぁ」
(良かったな、今日は見られるぞ!)
可愛らしい声の主の声に、にこにこしながら内心で答えた。
(にしても……随分はっきり聞こえるな。距離はだいぶ離れてるはずなんだが……)
反対側から聞こえたのは、あくまでも賑やかな様子だった。それにもかかわらず、今私が心の中で対話した女の子の声は、随分鮮明に耳に届いた。
「まだかなぁ」
耳を澄ませれば、もう一度声が聞こえた。声はギデオン様側の奥から聞こえた。ギデオン様を見上げれば、彼もおかしなことに気が付いたようで、目が合った。頷き合うと、そっと席を立って、ギデオン様は奥にある台座を指さした。
女の子に気が付かれないように、手振りで意思疎通を図った。ギデオン様は私を見て首を振った。そして、自分をトントンと二回叩いて、再び台座を指した。
(自分が見に行くってことか)
意図が理解できると、私はすぐさま頷いた。
ギデオン様はすぐに気配を消して、音を一切立てずに台座に近付いた。
(すげぇ……やっぱり実力者だな。私は視界にいれてるから、そこにいるってわかるけど、これ背後取られたら勝てないぞ)
戦闘思考になりながらギデオン様を見守っていた。すると、彼はピタリと足を止めたかと思えば、すぐさましゃがみこんだ。
「そこで何をしているんだ?」
あくまでも優しい声で、怖がらせないようにという気持ちがひしひしと感じられた。
「わっ! 見つかっちゃった……」
その声の反応で、姿を確認できていない私でも、そこに女の子がいるのだと確信できた。
「ごめんなさい、領主さま。でも私、どうしても訓練が見たくて」
「大丈夫。訓練場から追い出すなんてことしないから。そこは暗いから、ひとまずこっちへ」
差し伸べたギデオン様の手を小さな手が掴んだ。彼が立ち上がってこちらへ戻ってくると、横には小さな女の子がしょんぼりした様子で立っていた。
ギデオン様の対応を見守ろうかと思ったが、表情から困惑した様子が見られた。
(泣きそうな子どもの相手って、どうしていいかわかんないよな。……よし、ここは私に任せてくれ)
ギデオン様と目が合うと、私は力強く頷いた。そして、今度は私がしゃがみ込んで女の子と目を合わせる。
「初めまして。私、アンジェリカって言うんだ。君はなんて言うんだ?」
「エミリア……」
「エミリアか、いい名前だな」
まずは簡単に名前を名乗り合うところから始めた。
「ありがとう……! お姉さんも素敵なお名前だね!」
しょんぼりした表情から一転し、少し明るい笑顔になった。
「ありがとう。エミリアは今日、訓練を見に来たんだよな?」
「うん」
「皆は向こうで見てるけど、一緒に見なくていいのか?」
どうしてここにいるんだと責め立てるのは簡単だが、直接的な言い方だと怖がらせてしまう。ここは優しい言葉遣いが肝心だ。
子どもの接し方にコツがいるのは、前世での経験から得た知識だった。
(前世で仲間の弟とか妹とか、意外と子どもと接する機会多かったんだよな)
赤ちゃんまであやしたことがある。仲間が多かった分、色々な子どもと遊んできた甲斐があってか、接するのは得意だったりする。
エミリアは少し黙ったかと思えば、首を横に振った。
「……向こうは駄目。お父さんとお母さんに見に来てるのバレちゃう」
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