第51話 可愛らしいところを伝えるのって難しい


 スイーツ巡りをした翌日は、前日のように早い時間に目が覚めてしまった。


(……昨日も似たような時間に起きたな)


 侍女達の入室後身支度を整えて朝食を済ませた。自室に戻ると、無意識に図書室に足が向かってしまった。スイーツ巡りを迎える前までは、ずっと図書室で計画を練っていたので、その名残でスイーツ関連の本に手を伸ばしてしまった。


(このスイーツはまだ食べたことないな。……こっちはギデオン様好きそう)


 そんなことを思いながら、パラパラとページをめくっていった。もう計画を立てる理由はないのに、自然と読み込んでしまう。


(もし、次があるなら……昨日よりもっと楽しんでもらえるように)


 甘い物が好物という訳ではないが、ギデオン様と一緒に食べるスイーツは美味しかった。



 その後、自室に戻って休んでいる間も、昨日のスイーツ巡りを思い出しながら時間を過ごしていた。日が沈み始めると、ドーラが手紙を持ってきてくれた。


「お嬢様、アーヴィング公爵様からお手紙です」


「本当か!」


 受け取ると、すぐさま封を切った。ソファーに座りこんだ状態でじっと読み込む。


「……ふふっ」


 ギデオン様は昨日という一日を満喫してくれたようで、忘れられない時間になったという内容だった。三枚の便箋にびっしりと褒め言葉が並んでおり、それが嬉しくて何度も読み返してしまった。


(時間をかけて準備をした甲斐があったな)


 楽しんでもらいたい一心で立てた計画が無事成功したことに安堵に包まれていた。ソファーに沈み込みながら笑みを深める。


(駄目だ。顔がにやける)


 心の中で喜びが広がるのと同時に、思い浮かぶのはギデオン様の楽しそうな姿だった。


「お嬢様が幸せそうで、私も嬉しいです」


「ドーラ。どうしたんだ急に」


「どうしたもこうしたもありませんよ。お嬢様の幸せはずっと願っていたことですからね」


「それは……ありがとう」


 ドーラの隣に控えていたレベッカとミラも力強く頷いていた。


「ちなみにお嬢様。お相手のことはどう思われているんですか?」


「えっ」


「ミラ、直球過ぎよ。お嬢様が困っていらっしゃるわ」


 突然のミラの発言に、レベッカがそっと諫めた。


「失礼いたしました」


「いや、問題ないよ。……どう、か。一緒にいてとても楽しい人だと思う」


「まぁ!」


 嬉しそうな声で反応するミラに、心なしか笑みを浮かべるドーラとレベッカがいた。


「あと……可愛らしい一面もあるし、凄く素敵な人だよ」


 ギデオン様の魅力はたくさんあるが、いざ言語化して説明しろとなると恥ずかしくなってしまった。


「可愛らしい一面」


「想像つきません……」


 ドーラとレベッカが不思議そうな表情で返されるが、その気持ちはわからなくはない。本人も気にしていたが、かなりキリっとした男らしい風貌のギデオン様から〝可愛らしい〟という印象はなかなか抱きにくいものだろう。


「公爵様の整った顔立ちからは想像できませんけど、どんなところが可愛らしいんですか?」


「そうだな……」


 ミラの声色は非常に明るく、興味津々のようだった。こうやって興味を持ってくれること自体には、全く抵抗がなく、むしろギデオン様が魅力的だということを知ってほしいとさえ思った。


 ミラの要望に応えるべく、可愛らしい姿を思い出していく。


「流行のスイーツの列に並んでみたかったというところ、とかか?」


「「「……?」」」

 

 微妙な空気と沈黙が流れてしまった。そして三人の反応を見てすぐにわかった。これは伝わりにくい魅力だったようだと。


(今の駄目だったか。……貴族なら代理を立てることもできるし、並ばなくても手に入る方法があるにもかかわらず、並んだ上で手にしたいという姿がなんだか可愛く思えたんだよな)


 思い返せば色々ふっとばして伝えてしまったと反省し、根本的な部分を伝えることにした。


「今のはわかりにくかったな……そうだな、甘い物を嬉しそうに食べる姿は凄く可愛らしかった」


 感慨深くなりながら伝えれば、今度は三人に笑顔が見られた。良かった、今度は伝わったみたいだ。


「あの凛々しいお姿からはとても想像つきませんが、それだけお嬢様に気を許されているということなのでしょうね」


「私に……?」


 微笑むドーラに素直な声が漏れてしまう。気を許してもらえているということを考えたことがなかったからだ。


「そうですよお嬢様。先程の列に並ぶというお話もそうですが、他の人に見せないであろう姿をお嬢様が見ているということが物語っているかと」


 なぜか誇らしそうに語るレベッカと、力強く頷くミラ。つまりどういうことなんだと困惑していれば、ドーラが挟んでくれた。


「つまりはお嬢様。アーヴィング公爵様と素敵な時間を過ごされているようで、私達まで嬉しいということになります」


「そう、なのか?」


 そう問いかければ、レベッカとミラは即座に頷いた。そしてそのままミラが口を開いた。


「お嬢様、またお話聞かせてください。公爵様のお話されてるお嬢様、とても幸せそうだったので」


 そんな風に見えていたのかと驚く半面、侍女達の想いに触れて私まで嬉しくなるのだった。



 そして翌日、ギデオン様から今度はお誘いの手紙が来るのだった。


▽▼▽▼

 

 いつも読んでくださり誠にありがとうございます。

 更新を止めてしまい申し訳ございません。不定期になってしまいますが、なるべく高頻度で更新できるように努めますので、よろしくお願いします。

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