第25話 念願の遠乗りだ!


 遂に遠乗りに行く日がやって来た。

 バッチリと目が覚めると、私はすぐさまカーテンを開けた。


「おぉ! 絶好の遠乗り日和だ‼」


雲一つない快晴を見上げると、一目散にティアラの元へ向かった。いつもよりかなり早く起きたからか、侍女はまだ誰も部屋にいなかった。


「おはようございます、おじょ――」

「おはよう!」


 御者や使用人の挨拶を返しながら駆け抜けると、バンッと厩舎の扉を開いた。


「ティアラ! 起きたか!! 今日は遠乗りだ!」


 愛馬の元へ直行しながら問いかければ「ヒヒーン‼」という高らかな声が返って来た。


「ははっ、おはようティアラ。今日は楽しもうな!」


 嬉しそうにこちらにすり寄ってくれるので、優しく頭を撫でる。自分の身支度がまだ済んでいないが、ティアラの朝のお世話をしていく。ブラッシングまでしていると、厩舎の扉が開く音がした。


「お嬢様! ここにいらっしゃいましたか」


「レベッカ」


「驚きましたよ。起こしに行こうと思ったらお部屋にいらっしゃらないんですもの」


「悪い。楽しみ過ぎて早く目が覚めたんだ」


「それは何よりです。今までお出かけする日は眠っていらっしゃったので」


「あはは……何も言い返せないな」


 レベッカの言うことは正しく、思い返せば公爵様と食事に行った日も観劇に向かった日もこの時間は眠っていた気がする。


「本日は乗馬服ですよね。ミラがそれでも可能な限り磨き上げると言っていました」


「えっ。今日は良くないか……」


「遠乗りとはいえお誘いですので」


「そ、そうか……」


 バッサリと切られてしまったので、私はティアラに「また後でな」と伝えると渋々レベッカの後をついて行くのだった。


 自室に戻り乗馬服に着替えると、ミラが高い位置で髪を結んでくれた。前世でいうポニーテールだ。まさか今日も顔を粉ではたかれるとは思わなかったが、仕上げてもらっている立場なので黙って受け入れることにした。


(やっぱりドレスより動きやすい服が一番だよな!)


 身支度が整うと、公爵様が来るまで時間があったので走ってティアラの元へ向かった。


「ティアラ! お待たせ」


 すぐさま駆け寄ると、ティアラはブルッと頷いた。やはりティアラも楽しみにしていたようで、どこか嬉しそうな雰囲気を感じ取る。


「あ。見てくれティアラ。今日はお揃いなんだ」


 そう言いながら、私はティアラに髪の毛を見せた。


「いつもは下の位置で縛ってるだろ? 今日はポニーテールで高い位置なんだ。ティアラの尻尾とお揃いだな」


 満面の笑みでそう語ると、ティアラは嬉しそうにブルッと頷いた。意味が通じているかはわからないが、反応してくれるだけで満足だった。


 厩舎から屋敷の前まで連れて行くと、クリスタ姉様が玄関の前に立っていた。


「おはよう、アンジェ」


「おはようございます。どうしたんですか?」


「まさか手ぶらで行くつもりじゃないでしょう?」


 クリスタ姉様は肩掛けができる鞄を渡してくれた。


「その中には水筒と食べ物が入っているわ。食事は料理長にお願いして二人分作ってもらったから、公爵様と食べなさい」


「ありがとうございます、姉様。あとで料理長にもお礼を言わないとな……」


 早速鞄を肩にかけていると、クリスタ姉様はティアラに近付いてそっと撫でた。


「ごめんなさいね、ティアラ。アンジェに荷物を持たせたから少し重いと思うけど、貴女のお昼ご飯も入れておいたからね」


 ここの家に慣れたティアラは、すっかり大人しくなっていた。クリスタ姉様の手にも嫌がらず、お昼と言う言葉に反応したのか嬉しそうに鳴いた。


「本当だ、ありがとうございます」


 鞄の中身を確認すれば、遠乗りに必要な物が恐らく全て入っているようだった。


「遠乗りとは言え初めてのことでしょう? 気を付けるのよ」


「大丈夫ですよ姉様。私とティアラですから」


「……理由になってないけど、不思議な安心感はあるわ」


 クスリと笑う姉様を見ることができたところで、屋敷の門が開いたのがわかった。馬に乗った人――公爵様がこちらに向かってくる。


(凄い、黒い馬だ‼ 後で観察させてもらおう)


 黒い馬に乗る銀髪の公爵様。その姿は、非常に合っているように見えた。

 私達の前までやって来ると、公爵様は馬から下りて私の方に向き合った。


「お待たせしました、レリオーズ嬢」


「屋敷に来てくださりありがとうございます」


「お誘いした以上、当然のことですので」


 公爵様は私と挨拶を含めいくつか言葉を交わすと、今度はクリスタ姉様と挨拶を交わした。


「クリスタル嬢、ご無沙汰しております」


「ごきげんよう、アーヴィング公爵様。本日は妹をよろしくお願いいたします」


 頭をぺこりと下げ合う二人を見ながら、少し遅れてから私も頭を下げた。


「早速ですが、もう出発しても大丈夫でしょうか?」


「はい! よろしくお願いします」 


 やる気に満ち溢れている私は、即答するように頷いた。公爵様もすぐに微笑みを浮かべて頷き返してくれる。


「それでは参りましょう」


「はいっ」


 こうして私は、クリスタ姉様に見送られながら遠乗りへと出発したのだった。


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