第23話 王子妃主催のガーデンパーティー
クリスタ姉様に指導を受けた二日後。
王子妃主催のガーデンパーティーが開かれるので、姉様と一緒に参加することになった。今回はヒューバート殿下の婚約者であるハルスウェル公爵令嬢主催のもので、クリスタ姉様とは旧知の仲とのことだ。
「今回のパーティーは令嬢の交流の場よ。いつもと大きく変わる部分は男性がいないということだけど、お淑やかに振舞っていれば問題ないわ」
「お淑やかならいけます」
社交界シーズンで身につけたことを思い出せば、失敗することはなさそうだ。
「姉様。ガーデンパーティーのような令嬢同士の集まりは初めてなんですが、何か気を付けることはありますか」
「普段とあまり変わらないわ。ただ、女性だけと言うこともあって多くの令嬢と接触することになるでしょう。その時に注意してほしいことは、挨拶かしらね」
「挨拶、ですか」
「基本的に私達は侯爵家。オブタリア王家に姫はおらず、格上の身分となるのは主催の公爵令嬢のみ。上の身分の人を前にしたら、基本的に下の身分から名乗るのが礼儀なのだけど、その辺は気にしなくて大丈夫よ」
「なるほど」
前回の社交界シーズンでは、クリスタ姉様に紹介されながら挨拶をすることが多かった。今回は一人でいる瞬間もあるので、気を付けなくてはいけない。
以前勉強し直した三大公爵家を思い出す。アーヴィング公爵家にはご令嬢がおらず、ハルスウェル公爵家は主催で、もう一つの家は令息しかいないという状況。
「でもアンジェ。なるべく先に名乗らないようにね。貴女はよくても、相手に負担をかけてしまうから。同じ侯爵家であれば先でも問題ないわ」
「わかりました」
初めて聞いた時は、挨拶する順番が決まっているのは少し大変だなと思っていた。けれども、自分の前世を思い出して腑に落ちた。後輩は先輩に挨拶するもの。レディースに所属していた時は年功序列だったけど、今は身分重視になったというだけだ。
(偉い奴に頭を下げないといけない理論はなんとなくだけどわかる)
注意点をおさらいしていると、会場であるハルスウェル公爵邸に到着した。既に何人もの令嬢方が到着しているようで、いくつかの馬車が並んでいた。
今日は公爵家の広い庭を貸し切ってお茶会が行われるようで、馬車から下りると屋敷に入ることなく庭を進む。
(凄い綺麗に花が整えられているな)
色とりどりの花に囲まれた会場は圧巻で、他の令嬢方も見とれているようだった。
「さすが、カトリーナ様ね」
(カトリーナ……今日の主催の方の名前だな。カトリーナ・ハルスウェル)
庭園を見て微笑むクリスタ姉様。あの姉様が〝さすが〟と言うのだ。この庭園は余程凄いのだろうと、改めて実感した。
「さ、アンジェ。主催に挨拶しに行くわよ」
「はい、姉様」
主催の元へ向かえば、既に多くの令嬢方に囲まれていた。しかしクリスタ姉様に気が付くと、すぐにこちらに来てくれた。
「クリスタル、来てくれたのね。ありがとう」
「お久しぶりです、カトリーナ様」
「様だなんてやめてちょうだい。私と貴女の仲でしょう」
「そうですか? 主催への敬意をと思ったのですが」
「ふふ。それはありがたく受け取るわ」
楽しそうに話すクリスタ姉様を見ると、何だか私まで嬉しくなってしまった。
「カトリーナ。妹を紹介させてください」
クリスタ姉様の視線に頷くと、私はカーテシーをした。
「レリオーズ侯爵家次女、アンジェリカと申します。本日は素敵なお茶会にご招待いただき誠にありがとうございます」
「貴女がアンジェリカさんね。クリスタルから話は聞いているわ。是非楽しんでいって」
「はい」
さすがは公爵令嬢。一つ一つの所作が洗練されており、表情までも上品に感じる微笑みだった。
主催への挨拶を終えると、クリスタ姉様と私はそれぞれの知り合いの元へ話をしに向かった。
「アンジェリカ様、お久しぶりです」
「お久しぶりです、皆さん。元気でしたか?」
クリスタ姉様を見て覚えた、複数人に対する挨拶を真似しながら会話を始めていく。以前は退屈すると思っていた趣味の話だが、観劇という新たな話題を手に入れた私は自分から話を振った。
「実は私も最近、観劇に興味があって。よろしかったら、皆さんのおすすめの演目を聞きたいです」
「もちろんです」
下手な批評家よりも、同年代の令嬢の方が感性は近いだろうと耳を傾けた。
「まずヴィオラの初恋はお止めになった方がよろしいわ」
「えぇ。あの作品は少しつまらないもの」
(えっ……令嬢の間でも不評なのか……⁉)
予想外の評価に、私は内心かなり動揺していた。聞き間違いなどではなく、その場にいた四人の令嬢は皆口を合わせて「ヴィオラの初恋はつまらない」という評価を下した。
(……私の感性がおかしいのか)
少し沈んだ気分になりながらも、令嬢達に教えてもらった演目を頭に叩き込む。おすすめを聞き終えると、私は落ち込んだ気持ちをどうにかするために、一人飲み物を取りに向かった。
「ヴィオラの初恋、面白いのになぁ……」
名前も顔も知らない批評家に批判されるのなら文句が言える。しかし、相手は自分よりも観劇を楽しんでいる令嬢方だ。人の価値観はそれぞれというが、あんなにも不評だと知ると、どうしても悲しくなってしまった。
(何か飲んでスッキリしよう!)
ここで落ち込んでも仕方ないのはわかっていたので、何か口にして切り替えようと飲み物が置かれた場所へ近付いた。他の令嬢方はお話に夢中で、このスペースは人気がなかった。
「ごきげんよう」
私が飲み物に手を伸ばそうとした瞬間、柔らかな声が聞こえた。声のする方に振り向くと、そこには美しい青髪の女性が立っていた。
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