第17話 まるで見合いだな
劇場の隣にあるレストランまでは距離が短く、本当にすぐに到着した。
レストランは観劇を終えた人で賑わっており、入口には列までできていた。しかし、公爵様は個室を予約していたようで、すぐに座ることができた。
(なんというか……スマートだな)
注文を終えると公爵様が切り出した。
「前回はあまりレリオーズ嬢のことを聞けなかったので……今日はお聞きしたいです」
「もちろんです」
確かに前回した話で覚えているのは、年上は恋愛対象に入るかというものだけだ。
緊張感が漂っていたこともあり、お互い上手く話すことができなかったのもある。私は会話より「見極めるぞ」と観察ばかりしていたので、今日は私も公爵様との会話に力を入れようと心に決めた。
「ありがとうございます。では。定番かもしれませんが、ご趣味は……?」
(おぉ、なんか見合いっぽいな。……やったことないけど)
探るように尋ねる公爵様に、私は端的に答えた。
「乗馬を嗜んでいます」
「乗馬……お好きなんですか?」
「はい。よく屋敷の裏にある草原で、馬に乗っているんです」
「お屋敷の……それでは遠乗りに行かれたことはまだないのでしょうか」
遠乗り。
それは私がずっと憧れを抱いているものだ。実はずっと、ティアラと遠くまで走ってみたいと思っていた。クリスタ姉様を誘うことも考えたのだが、ゆったりとした遠乗りなら好みと違うと思って諦めた。
母様は基本馬車を使うし、父様は仕事に忙しくて遠乗りに行く余裕がない。私の夢はまだ叶わずにいた。
「実はまだなくて。興味は凄くあるのですが」
「でしたら、次は一緒に遠乗りに行きませんか」
「えっ……いいんですか?」
「はい。私も馬に乗るのが好きなので。遠乗りに最適な場所をいくつか知っているので、もしよろしければ」
「是非ご一緒させてください」
私は食い気味で頷いた。少し早口だったかもしれないが、それくらいずっと遠乗りをしてみたかったのだ。
「よかった。それでは一週間後はいかがでしょうか」
「行けます、よろしくお願いします」
私は嬉しさのあまり、深々と頭を下げた。公爵様に顔が見えないのをいいことに、にやけがあふれでてきた。
(遠乗り……遠乗りだ……! ずっとやりたかった遠乗りができる……‼ 駄目だ、これ以上にやけたら。単純に気持ち悪いだろ。今は家じゃない。品よくだ)
顔を上げた後はどうにかにやけを隠そうとしたが、気を抜いたらすぐに口角が上がりそうだったので小さく息を吐いて気持ちを入れ替えた。
「では一週間後、よろしくお願いします」
「はいっ。……公爵様は、遠乗りはよくされるんですか」
「そうですね。趣味の一つなのですが、かなり好きな方です。多い時は、毎月遠乗りをしていて」
(これは趣味が合いそうだな……趣味が合うって最高の条件じゃないか?)
次々と見つかる婿への判断要素。どれも良いものばかりで、ますます公爵様の印象が上がっていく。
「やはり遠乗りは楽しいですか?」
「乗馬が好きな方なら楽しめるかと。のんびりと走ることも出来ますし、駆け抜けるように走ることもできるので。景色を楽しみながら馬と走るのが、とても気持ちがいいんです」
「お話を聞いたら、ますます楽しみになってきました。早く公爵様と一緒に走りたいです」
一人で駆け抜けるのはもちろん好きなのだが、誰かと一緒に走ることも同じくらい大好きだ。それを実現できることが嬉しくて心が躍る。
「私も同じ気持ちです。来週が待ち遠しいなと」
公爵様の笑みに釣られて、私もにやけを抑えられなくなって頬が緩んでしまった。
(今日の公爵様はよく笑うな……何だか打ち解けられてる気がしていいな)
ミラにはアタックしてこいと言われたが、次の約束までできれば十分だろう。侍女達に良い報告ができると思うと、まだ口角が上がったままだった。
遠乗りの約束をしたところで、食事が運ばれてきた。
今回の食事も当たりしかなく、どれも絶品の料理ばかりだった。
(デザートまで美味しい。お客さんがたくさん来るのがわかるな)
先程の列を思い出しながら、食後のデザートを味わった。デザートはチョコレートケーキで、甘すぎない味が個人的に凄く好みだった。
(公爵様も美味しそうに食べてる。……やっぱ美味しいよな、このケーキ。姉様達にも食べさせてあげたい)
今度家族でこのレストランに来るのもいいなという想像が、頭の中を過るのだった。
「今日の食事も凄く美味しかったです」
「楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです」
食事を終えた所で、私達は馬車に乗って帰路に着いた。
前回の緊張した空気とは違って、今日は終始和やかな雰囲気で会話ができた。
屋敷に送り届けてもらうと、一週間後の遠乗りに関して再度確認してから公爵様を見送るのだった。
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