第7話 彼女を探して(ギデオン視点)
翌日、俺は珍しく連日社交場に顔を出していた。
王家以外が主催のパーティーには、周囲に怖がられることもあって参加しないのだが、今回は別だ。
どうしても、もう一度彼女に会いたくてパーティーに参加して見つけることにした。
残念なことに、簡単には彼女は見つからなかった。連日意味もなくパーティーに参加するだけとなっており、心なしか周囲の視線も痛かった。
社交界シーズン最終日、もうこれでだめなら諦めるしかないと思って入れば、ようやく彼女を見つけることができた。
……いた。あの赤髪は彼女だ。
見つけられて嬉しくなると、彼女のことをじっと見つめてしまう。
(……また目が合った)
どこかで、目が合ったのは気のせいかもしれないと思ってしまう自分がいたので、もう一度目が合ったのは非常に嬉しいことだった。しかし、彼女は目を逸らしてその場を離れようとしてしまう。
(……駄目だ、行かないでくれ)
名前が知りたい、その一心で俺は急いで彼女に近付いた。
彼女の目の前まで来た。しかし緊張で、何から話していいかわからなくなってしまう。
どうしようかと焦っていれば、彼女は可憐に微笑んだ。
「ごきげんよう」
なんて綺麗な瞳だろう。
身内や親しい人以外で、こんな至近距離で自分のことを見つめてくれる人は今までいなかった。
柔らかな笑みと声は、初めて向けられたものだった。嬉しさのあまり心が浮つきそうになるものの、どうにか気を引き締める。
見つめるだけじゃなくて、微笑みかけてくれることに俺は敬意を払いたかった。
「いい度胸をしてますね」
何年も女性とまともに会話をしたことがなかったので、何を声に出せばいいかわからなかった。褒め言葉と適しているかはわからないが、咄嗟に出た言葉だった。
自分の発した言葉に不安になっていれば、彼女はさらに笑みを深めてくれた。
「あら、光栄ですわ」
その笑みのおかげで、失言ではなかったのだろうと安堵する。そして勢いに任せて目的を達成しようとした。
「お名前は」
「アンジェリカ・レリオーズです」
「……レリオーズ嬢。ギデオン・アーヴィングです」
レリオーズ侯爵家の令嬢だとわかると、自分も名を名乗った。
相変わらずじっと見続けてくれる。サファイアのように青く澄んだ美しい瞳は、驚くほど視線を逸らさなかった。とうとう恥ずかしさが込み上げてしまい、自分から目を逸らしてしまう。
「……またお会いしましょう」
そう伝えると、俺は逃げるようにその場を後にした。
一足先にパーティーを抜けて屋敷へと戻ると、なぜか屋敷にはヒューバート殿下が来訪していた。
「ギデオン! お前の心を射止めた令嬢には会えたか?」
「……はい。何とかお会いすることができました」
「それはよかったな……!」
殿下を迎え入れると、どんなことがあったのかと聞き始めた。レリオーズ嬢と話せたことが嬉しかったこともあり、殿下にありのままの出来事を話した。
最初は微笑ましく聞いていた殿下だが、どこか困惑した表情を浮かべる。
「……ギデオン。お前〝いい度胸をしている〟って言ったのか」
「はい。……自分でもこの顔は怖いだろうと思いますので。それでも関係なしに見つめてくださることに、敬意を払いたくて伝えました」
詳細を話せば、殿下は複雑な表情になった。
「ギデオン、だとしたらその思いは伝わってないぞ。〝いい度胸している〟という言葉は、あまり褒め言葉では使わない」
「……そう、なんですか?」
「あぁ。それどころか、皮肉になる可能性がある」
「そんなつもりは……!」
まさか、自分の意図しない意味の言葉だっただなんて。
浮ついていた心は一気に砕け散り、衝撃を受けた俺は放心状態になってしまう。
(……これは、嫌われてしまっただろうか)
きっと光栄だと言ったのも、ああ言うしかなかったからだったのかとわかると、俺の心はどんどん沈んでしまった。
これでもう終わりなのかと絶望を感じるが、これで終わりにしたくはなかった。
「殿下。すみません、やらなくてはいけないことができました」
「みたいだな。……大丈夫だギデオン。一度の失言なら、きっと許してもらえる」
「ありがとうございます」
殿下を見送ると、俺はレリオーズ侯爵家宛てに手紙を書き始めた。
受け入れてもらえるかはわからなかったけど、傷つけてしまったのなら謝罪をするべきだ。そう思うと、俺はすぐに動き出した。
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