地獄みたいな今日
釣ール
田舎に住みたくない
普段は行かない地方の居酒屋。
あるフードポルノ番組に夢中で自分も試しに一人で居酒屋に入ってみたのだ。
予約が要らない居酒屋というだけでもありがたかったのだがある程度静かで観光客もいない場所と言うだけで安心した。
これでゆっくり飲める、と思っていたら。
「あの畑の糞婆、またうちの悪口を言いながら大声で昼間から騒ぎやがって。」
「あいつらが一番生産性ないよね。
若い物が就職に苦しんでるのに既得権益にあぐらをかきすぎ。」
「かきすぎて…テレビ見るだけの要介護人間になったわね。」
「え?それなんかの真似?
笑えないよ?」
これはごく一部の会話だ。
入ってまもない時にある客が
「ファッ〇ンクソ田舎!」
「「いぇーい!」」
とライブでも始まるのではないかと田舎暮らしの老人達の悪口を楽しそうに語っていたのだ。
え?これ、何?
なんでこんな悪口で盛り上がってるの?
下手なライブより楽しそうなんだけれど。
「なんで地方だと暮らしやすいってわざわざこんな気持ち悪い田舎に住みたがるんだろう?」
「高学歴でも馬鹿って言われるタイプのうつけものなんじゃない?
でも排他的な対応なんてしない。
やがてその子供達が故郷なんて愛してないと都会に行く姿を応援すんのよ。」
「わかる!ヤンキーみたいなことで幸せに暮らせるなら生きづらさなんかないって。
老人共お前が介護しろよって話。」
そこで一呼吸置かれ、
「ヤンキーの肩持つわけじゃないけれど、」
ここで皆の意見が一致した。
「「「都会でも介護なんかしたくねえわ!」」」
一斉に拍手する辺り闇が深い。
しかもクラクションまで鳴らしてる。
みんなどんな人生歩んできたの?
この居酒屋に一回来ただけなのに。
マスターもなんか言えよ!
気持ちよさげにシェイカーしてるのはなんかの宗教?
「俺なんて持ち金も少ないから車を手放しちまって。
もっと頭良かったら早くこんなところ出たかったよ。」
「まあまあ俺たちの過去は人様に勝たれるほど立派じゃないし参考にもならないかもしれないけれど、こうしてマスターと共にデトックスしていつ貯めた金で出ていこうか楽しみにしてるじゃないか。」
子供みたいなキラッとした願望がなかなか叶わないのがまた闇が深い。
しかも田舎の居酒屋だからか声をあげないと注文を頼めないのが余計に居づらい。
それからも悪口は続いた。
だが田舎の闇深さを聞くのは充分で二度とこの居酒屋には来ないと思うけれど何かの間違いでここに移住させられる時は気をつけようと心に誓った。
やっぱり田舎なんて住むものじゃない。
高い場所から見下ろすように楽しめればいい……のかなあ。
ただ老人は都会でも嫌なタイプが多すぎるので都会の人間も田舎の人間、そして世界中の人間がそれぞれの幸せが手に入るといいなあと生温く見守る。
もちろん自分が幸せになった後で。
地獄みたいな今日 釣ール @pixixy1O
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます