「おじいちゃん……ご飯は一昨日食べたじゃない」
向花いかく
ご飯は一昨日食べたじゃない
「飯はまだかのう……」
介護用ベッドの上に乗った高齢の男がそう言うと、隣で洗濯物を畳んでいた中年の女がため息を吐いた。
「おじいちゃん……ご飯は一昨日食べたじゃない」
女の言葉を聞いた男が首をひねる。
「一昨日? そういえば、昨日の晩は何を食べたんだったか……」
「食べてないに決まっているでしょう?」
当然のように言い放った女に対し、男は目を丸くする。
「な、なんだと? どういうことじゃ!」
「はいはい、大丈夫だからね」
飽き飽きとした様子で応対する女を見て、男の困惑は怒りへと変わっていく。
「儂の記憶が曖昧なのを良いことに、飯をわざと抜いたのか!」
「そんなわけないじゃない」
「そんなわけないじゃと? それ以外に何がある! 早く儂に死んでほしいなら、そう言えばいい!」
男は声を荒げ、ベッドから身を乗り出しそうな勢いで言い放つ。
その様子を見ていた女は首を前に垂れ、大きく息を吐いた。それから顔を上げると、渋々といった様子で話し始める。
「……おじいちゃん、何度も言ってるけど、もう昔とは違うの」
「何の話だ! 話を逸らすんじゃ……」
「聞いて、おじいちゃん!」
女は男の肩をつかみ、目を合わせながら語り掛ける。
「十年前、核戦争が起きてから、私たちはみんな地下で暮らさなきゃいけなくなったの。それから食事は配給制になって、三日に一度しか食べられないの。今はもう、毎日三食食べられる時代じゃないの。わかった?」
「おじいちゃん……ご飯は一昨日食べたじゃない」 向花いかく @No_Plan_A
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