トレジャーケイヴ
@uminokaigyo
第1話 扉を開く者
今から約200年前、日本は江戸時代末期頃、人々は時代の移り変わりに混乱していた。そんな頃、江戸や他の栄えた地域で行方不明事件が多発、何故か地域住民に「夜逃げするような人じゃなかった」や「明るい活発的な人でした」など言われる生気の溢れる大人ばかりが狙われた。時を同じくして、人々の中に強い遺物(いぶつ)を持つ者たちが現れた。従来までの遺物よりも攻撃性が強くなった事が当時の遺物研究者の資料から読み解け...
「...カギ」「...みかぎ」「御鍵!」「いつまで寝ておるんだ貴様は!」と日本史の教師が声を荒らげ生徒を起こそうとしている。
「は、はい!すみません!」と起こされ驚いている生徒は御鍵 真守(みかぎ まもる)。高校三年生だ。
「...ったく、せっかくお前の好きな遺物関連の話なんだ。ちゃんと聞いてなさい。」「えっとどこまで話したかな...あっそうそう、ここの行方不明事件を起こしていたのは最新の研究では...」教師が話してすぐに御鍵はまた夢の中に落ちた。
この世界には昔から「遺物(いぶつ)」と呼ばれる物を手にする者がたまに現れる。遺物が発現する条件は未だ定かではないが、「物に愛情を注げば、その物が遺物化する」と昔から言われている。200年以上前までは日本も他の国と同じ様に、生活を豊かにする物や水を生み出せる神の御業ようなものまで多種多様であったが、200年前日本で起こった行方不明事件通称「ネクリアー事件」をきっかけとして武器や兵器など攻撃性のあるものが増えた。ネクリアーとは200年前の行方不明事件を起こした謎の生命体の事であり、「このネクリアーが日本の遺物の変化を起こしたのでは?」と最近は物議を醸している。
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
放課後、御鍵 真守は目をこすりながら部室へ向かっていた。
『遺物研究部』真守が先輩と2人で作った部活であり、その名の通り遺物についての知見を広げ、考察するための部活。ただし遺物を持つ人間自体がかなり限られている事や、いたとしても最近は対ネクリアー特殊部隊組織である『トレジャーケイヴ』に集められ、日夜忙しく働いているため取材なども滅多に取れない。そして、新学期が始まってからから2ヶ月を過ぎた今、遺物研究部に部員が居なくなることを機に廃部が決まった。
「はぁ川崎先輩、俺にはとうとう後輩は出来ませんでしたよ...」と独り言を呟き、真守は荷物をまとめていた。それほど大きな荷物も無かったため、片付けに時間はあまりかからなかったが、思い出に耽っているといつの間にか夜になっていた。
~約1年半前~
「御鍵君はさ、ずっと大切に持ってるものとかないの?」川崎が真守にふと質問していた。
「いきなりなんすか先輩」「いやー私そう言うのないからさ、あったらワンチャン遺物化したりして?」川崎はうずうずしながら真守に詰め寄っていた。「ん〜、昔じいちゃんから貰った謎の鍵は持ってますよ。」そう言うと真守はカバンを漁り始めた。「えー、なんか面白そう!」真守はカバンから鍵を取り出し先輩に渡した。「なんか、じいちゃんが昔『肌身離さず持っておきなさい、お前がじいちゃんの世代になったら孫に渡すんじゃ』って渡してきて、俺もなんかずっと持っちゃうんですよね。」「うわ、めっちゃサビサビじゃん。何年前の物なの?てかなんの鍵?」川崎は不思議そうに聞いた。「数年前にじいちゃんが亡くなってもう知る術なんてないですよ、ばあちゃんは鍵の存在自体知らなかったみたいですし。」「なんか!パンドラの箱的な物開けれちゃったりして!」...
「あ、なんか思い出に耽ってたらこんな時間に!急がないと学校しまる!」
運動部ももう帰り静まり返った学校内、先生達も帰り支度をしている中、真守は急いで階段を降りていたその時、御鍵の鍵が光出した。「え、なんだこれ!?」わけも分からず足を止める真守に追撃の大音が彼を襲った。ガシャーン
「え?え?何?」焦って振り返った御鍵の目の前には割れた窓ガラスがあった。
音に気づいた先生達が職員室から出てきた。「何事!?」と国語の女性教師の村上先生。「御鍵?なんでこんな時間に」とよく真守を叱る日本史教師の斎藤先生。「こんな夜中に窓を割るとはいい度胸だな」と生徒指導の体育教師山田先生が言った。
真守は弁解をする余裕が無いほど混乱していたが、山田は真守へ怒りながら向かっていた。が、それは斎藤によって制止された。「山田先生、御鍵はそんな事をするような生徒じゃありません、それに窓ガラスは内側に散らばっています。おそらく外から何かが突っ込んで来たんじゃないですか?」斎藤はそう弁解すると、すぐさま御鍵の元に駆け寄った。「御鍵、俺はお前が窓を割ったりするような生徒じゃないと知ってる、だから知ってたら教えてくれ、なんで窓が割れたか知ってるか?」斎藤が話終わると同時に村上の叫び声が鳴り響いた。「キャーーーッ!!!」村上の目の前にはグチョグチョの黒くて大きな物体が蠢いていた。夜の暗闇でよく見えないもののそれは明らかに彼らの知っている生物ではなかった。山田が村上を引っ張り、退くとそのグチョグチョは動き出し教師達に飛びかかろうと追いかけてきた。山田は村上を突き放すと、そのままグチョグチョにのしかかられてしまった。「グッ...」息すらままならない程の圧力に山田先生は気を失ってしまった。その時、斎藤は懐中電灯を取り出しグチョグチョに光を浴びせてやった。するとグチョグチョは「グァーッ」と叫び声を上げ、光から下がって行った。その隙に真守と斎藤は倒れた山田を抱えて村上と共に職員室の方まで走っていった。
「山田先生、山田先生、私なんかのために...」今にも泣きそうな村上を放って斎藤はグチョグチョについて考えていた。「あれはネクリアーだな」斎藤はそう言うと真守を見つめた。「御鍵、お前もしかして何かあってこんな時間まで居たんじゃないか?」
真守は今日の放課後の事、鍵が光った事を話した。
「なるほど、鍵は今どこに?」真守は自分の手を見た「え、ない」ずっと握っていたはずの鍵が無くなっていた、何処かで落としたようだ。「まずいな、おそらく光ったのは鍵がもうすぐ遺物化するからだな、しかしその反応にネクリアーも気づいたんだろう。ネクリアーは遺物になる前の物や、遺物を手にする寸前の人間を好んで捕食するらしい。」斎藤先生がそう言うと「だから俺は食べられなかったと...」と山田が起き上がって言った。「遺物を食えばネクリアーは力を上げてしまう、それより前に遺物を取り返さないとな。」斎藤はそう言うと電話の受話器を持ち上げ何処かに連絡した。「カチャッ、もしもし、こちらトレジャーケイヴ序列9番ガーネット、リーダーの神木が対応致します。」電話先から若い女性の声が聞こえる「宝先学園教師の斎藤と言います。今学校内にネクリアーと思われる物が発生しました。対処願います。」「なるほど、かしこまりました。」と言うと斎藤は電話を切った。その後「よし、俺は鍵を探してくる。大丈夫だ、学校内の電気は全てつけたんだ、奴らも迂闊には動けないさ」と斎藤は職員室を飛び出した。「斎藤先生!?待ってください!」と御鍵は声を上げるが斎藤は廊下に消えていった。「待て御鍵、お前は生徒だお前を危険に合わせる訳には行かない、ここは俺が...うっ...」「山田先生は無理しないでください、村上先生山田先生をお願いします。」御鍵はそう言うと斎藤を追って廊下をかけた。
一方その頃、ガーネット事務所では「リーダー!大変だ!先程の電話先の学校に大量のネクリアー反応あり!!20は居るよ!」と背の高い好青年が叫んでいる。「やっぱりね、レーダーに映らないわけだ。おそらくこれは知能犯による計画的な攻撃ね」神木と呼ばれる少女がそう答えた。「目的は分からないけどまぁ大丈夫でしょ、向かわせたの界人だし」と少女はミルクコーヒーをゴクリと飲んだ。
「意外と薄暗いから油断は禁物だな」斎藤はさっき通った道を引き返し、真守の鍵を探していた。すると階段の踊り場に光る鍵を発見した。斎藤は階段を駆け下り、鍵を取り上げようとした時、「グォォォッ」階段の下から先程のネクリアーが飛びかかってきた。間一髪で避けたのも束の間「うぉっ!?」階段の段差に足を取られ転んでしまった、次の飛び掛りで終わると覚悟したその時。
「うおぉぉ!」と階段の上から真守が飛び降りてきた。それを見た斎藤は微笑んで真守に向かって鍵を投げた。真守が鍵を受け取った瞬間、鍵の光が強くなり鍵は剣へと姿を変えた。「御鍵!片付けちまえ!」その掛け声に真守は頷くと、ネクリアーめがけて剣を振り下ろした。「グォォォォ」と鳴き声を上げて消滅するネクリアーを見て安心した2人であったが、その瞬間周りからザワザワと気配が立ち上ってきた。
「御鍵!早く職員室へ逃げるぞ!」と手を差し伸べる斎藤の背後には包丁を持った女性のようなネクリアーが。
驚いて声も出せない御鍵の目の前でネクリアーに気づかない斎藤は「何してんだ?怪我でもしたならおぶってやろうか?」と呑気な様子。その後ろで包丁が振り下ろされそうな瞬間。廊下内を暴風が吹き荒れた。
その衝撃でネクリアーは吹き飛ばされた。「なんだ!?」と2人で驚いていると階段の下からもネクリアーが、「うおっ、急いで逃げましょう先生!」と言った途端、下のネクリアー達も暴風に巻き込まれて消えていった。
2人が呆気に取られていると、廊下に和装に身を包んだ片目に傷のある男性が歩いてきた。「おや?お二人さん怪我はないかい?」彼はそう言うと御鍵の剣を見て一言、なるほど君が呼び寄せた訳か、と全てを悟ったかのように頷いた。「もう大丈夫だよ、全部吹き飛ばしたから」と言った途端、周りの重たい空気や気配が無くなった。
安心した反動で2人は座り込んだ、「貴方は?」と真守が聞くと彼は答えた「トレジャーケイヴ序列9番ガーネットの戦闘員 出雲界人(いずも かいと)だよ、君のその剣、遺物かい?なんだか不思議なエネルギーを感じるね」真守はその後自分の剣を握りしめ、自分が遺物を手にしたことを再確認した。すると「君その遺物出来たてでしょ?戻し方分かるかい?」彼はそう質問してきた。「深呼吸して気を落ち着かせて真上に投げてみて」そう言って彼は持っていた大きな扇子を真上に投げ、キャッチした。すると扇子は小さくなり普通サイズになった、それと同時に周りの強風が落ち着いたのを真守達は感じた。「すごい!遺物であの強風を起こしてた...んでs...」真守は遺物研究部員としての血が騒ぎ質問しようとしたが、疲れて倒れてしまった。
それから数日が過ぎた頃、真守に校長室から呼び出しがあった。「え?俺なんかしちゃったのかな」とビクビクしながら校長室に向かっていると、後ろから斎藤が肩を掴んできた。「御鍵、呼び出しか、実は俺もだ」「一緒に叱られにいこうか!」と斎藤に連れられ2人で校長室に入った。そこには校長以外に3人の男性が座っていた。混乱している真守に対して「やぁ御鍵くん、元気なようでなにより」と片目傷の大柄な男性が笑顔で声をかけた。「え?まさかあの時の...出雲さん?」真守は混乱しながらも数日前の事件の記憶を何とか引き出した。「名前覚えてくれてたんだありがとう。君も元気そうだね真守君」そんな話をしていたら奥にいたメガネをかけた細身の男性が「君が、御鍵真守君かい?」と言いながらゆっくり歩いてきた。「は、はい!御鍵真守です!」真守はその気迫に押され、思わず返事をしてしまった。するとその男性は「あぁ失礼!怖がらせてしまったね、僕は榎本 陽平(えのもと ようへい)、界人と同じガーネット所属で参謀的なポジションだね」と慣れない笑顔を見せながら自己紹介した。「榎本は顔怖いからな...」と彼の後ろから関西弁で筋肉質な男性が話した。「蓮斗だって筋肉ゴリゴリで怖いだろう!」と榎本は言い返した。すると「あぁ゛?」っと言い合いになった、2人は仲が良さげである。
その言い合いを見てしばらくすると「静かにしなさーい!」と誰かが声を上げた。少女の声だ。しかし校長室内に女の子どころか女性すら居ない、ふとソファーに目をやると、ちょこんと背もたれに届かないで顔を覗かせられないくらいの少女の頭があった。「「でも柚(ゆず)、こいつが...!!!」」と2人同時に声をあげたやはり仲がいいようだ。「大事な話してんだから喧嘩すんなら外でやれ!」「「アッハイ」」2人は少女に叱られ縮こまってしまった。
すると次はその少女が真守に話しかけた「ごめんね、真守君。私は神木柚ガーネットのリーダーをしているわ。」すると斎藤が不思議そうに反応した。「神木さん?私に電話対応してきた方の娘さんか何かですか?」斎藤がそう話した直後、男3人が「「「あ...」」」と反応した。斎藤の質問に対して神木は露骨に凹みながら「本人です...」と、さっき男2人を叱りつけていた人とは思えないほどか細い声で返答した。
すると関西弁の男が「あいつの遺物の能力は『成長』周りの生命の成長を促す異能なんやが、使ったら一定時間若返ってまう能力でな、ちょっと柚は気にしてんねん...」と小声で2人に耳打ちした。「あ、そうそう自己紹介まだやったな、俺は稲妻蓮斗(いなずま れんと)同じくガーネットの戦闘員や遺物は...」「ゴホンッ」稲妻が話している間に割って咳払いを入れたのは神木だった「そろそろ時間が無いから本題に入りましょ。」「そうやな」
神木達は真剣な症状になると真守の前に横一列に並んだ。すると出雲が口を開いた「御鍵真守君、君をトレジャーケイヴにスカウトしたい。」
〜10ヶ月後〜
高校を卒業した真守は、トレジャーケイヴの事務所『ガーネット』の扉の前で10分近く尻込みしていた。「えっと〜、初めまして!じゃなくて...お久しぶりです!だとフランク過ぎるかな...」とブツブツと独り言を言っていると扉の奥から...「新人さん遅いな...駅まで迎えに行った方がいいかな?」「なら私行くよ!!!」と男女2名の話し声が聞こえる。「いや、双葉(ふたば)さんリーダーに任された仕事あるでしょ?僕が行ってくるよ!」「わかった!気をつけてね!!!」2人が話終わると、扉の奥から人が近づく気配を感じた。
真守は迷惑はかけたくない、と扉に手をかけた。
トレジャーケイヴ @uminokaigyo
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