第36話 故郷の街

 それから数日後。彼らには軍所属の中隊として、とある指令が言い渡された。

 それは最近、頻繁に魔物の襲撃を受けるようになった西の隣国ランカニーまで出向き、その国の実情を調べてきてほしいという内容だった。

 彼らは意気揚々と故郷の国ローエンヴァリスを離れ、なじみの薄い国へと旅立った。

 そこで出くわした魔物たちと死闘を繰り広げ、現地の人々から請われて、その国を警護することを約束した。それは祖国の命に背くことになるかもしれないが、この国の内情を思えば、まして大恩ある師の教えに従うことを疑問に思う者は一人としていなかった。

 儀礼として、国には隣国の内情を知らせる書簡を持たせて兵を出した。

 都合、半年。多くの負傷者と少ないながら死者を数人出した。彼らは隣国を襲った魔物たちを見事退け、大手を振って帰国することと相成った。

 大きな喜びと懐かしさ、これと同じくらいの悲しみと寂しさを噛みしめながら、帰国の途についた彼らは、すでにいないであろう二人の男の姿を思い浮かべながら国境を越え、故郷の土を踏んだ。

 祖国自慢の南北を縦断する大陸行路を悠々と歩き、遥か遠くに懐かしの城壁を目にする。

 ……はずだった。

 けれど、どれだけ目を凝らそうと近づこうとも、白亜の防壁はどこにも見えなかった。

 訝しみの疑問が、あまりにも大きな不安に取って変わり、これが恐怖に変わるまで、それほど多くの時間を要しなかった。

 そして見る。かつてそびえた難攻不落の防壁は消え、そのなかで日々平穏な暮らしを謳歌していたはずの町並みはどこにもなく、すでに更地へと変わり果てた、その様を……。

 祖国ローエンヴァリスはあれど、故郷バルツシルト伯爵領クルムスリットの街はもう、この世のどこにも存在しない……。

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