第4話 魔法

「ふんっ」

 エキドナが力強い意志を向けるたび、その指先からは人の頭ほどの火炎球が飛び出し、村を襲っていた魔物たちをまとめて吹き飛ばした。

『……すごい、これが魔法の力なのか?』

 実際に目の当たりにしては、もう否定なんてできるわけがなかった。

 ほんとうに人間は、魔法を使うことができたのだ……。

「そもそも魔法とは、魔力をエネルギーに超常的な力を行使する技術であって、その学問だ」

 周囲に人がいないのを幸いと、エキドナが声に出してそう語る。

「魔力は魔素を燃料に精製される。呼吸によって大気中にある魔素を取り込み、体内で魔力へと変換させるわけだが、このとき精製される魔力量は個人で異なる。この魔力量の大小が、その者の魔法の才能というわけだ」

『大気中にある魔素を取り込んで、これを魔力へと変換させるということは、あなたは魔力を無限に扱えるのか?』

 いってみれば、それは永久機関のようなものだ。

「ふふっ。君はなかなか筋がいい。考え方がとても素直で柔軟だ。ほんとうに魔法を知らないらしい。だが、ある意味では正解だが、基本的には間違っている。魔素は毒で、魔力は猛毒だからだ。このため魔力耐性を持たない者は、往々にして体を悪くしてしまうことがある。鍛練によって耐性を高めることは可能だが、ある者にとっては生涯を通して魔力の病気、魔病に苦しむことになる」

 いいながら、エキドナは近づいてきた魔物に向かい、なにやら苛立ちをぶつけるように火炎球を叩きつけた。

「ハルトは、その典型だな。他人の体を借りて魔法を使うのは初めてだが、まさかここまで魔法の才能がないとは驚きだよ。私が知る限り、ここまで魔力に適正がない人間は初めてだ」

『それじゃあ、どうやって魔法を……』

「魔法の才能とは、なにも魔力量だけでは決まらないということだ。魔力のコントロールもまた、魔法使いとしての強さになる。これは手があっても、より器用なほうが上手くケーキを作れるのと、よく似ている。力が強いほうが、より多くの荷物を運べるということでもある。つまり、魔力にも持久力や瞬発力、個人の性質や適正によって出来る魔法と出来ない魔法があるということだ」

 そのどちらの意味においても、本来のエキドナの体とは違って、ハルトには魔法の才能がまるでなかった。

 それでいて愚痴りながらも人の頭ほどの火炎球を連続して打ち出せるエキドナは、まさに魔法の申し子であり天才なのだろう。

 ――そのことを後に、僕は知ることになる。

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