菊池秀行氏の著作は、殆ど読んでいなかったのですが、少年チャンピオンの「魔界都市ハンター」は読んでいました。
当時のノベルスは菊池秀行と夢枕獏が席巻していましたが、当時の私は若気の至りで「流行りものに手を出すのは悔しい」と、おそらく思っていたのでしょう。
今だにまともに菊池秀行氏の長編シリーズを読んだことはありませんが、クトゥルー神話のアンソロジー本に収録されていた短編を読んで、ビジュアルを想起させながら読ませる文章力の高さに舌を巻いた覚えがあります。タイトルは忘れましたが、防衛庁のコンピュータが、北海道のある地点に未曽有の危機が迫っているという予測を弾き出し、その予測に基づいてその地点に集結した自衛隊の部隊を襲う恐るべき現象を描いたお話でした。
あれを読んだのは2000年代に入っていたと思いますが、その時に他の長編も手に取って読んでおくべきだったかな、と今は少し後悔しています。
この評伝を読んで一番感じたのは、最盛期の原稿の生産量が人間離れしすぎているということでした。
本当に書きたいキャラクターとストーリーが次々に湧き出でて、尚且つそれを表現する文章の構成力と語彙力がしっかりしていないと為せない仕事量だと思います。
時代を席巻する作家というのは、人並外れた才能が必要なんでしょうね。
作者からの返信
桁くとん 様
拙作を丁寧にお読みくださり、ありがとうございます。
私は菊地秀行氏と夢枕獏氏がノベルス界を席巻していた時代を知らず、完全な後追いなのですが、当時の様子を伺えて大変嬉しいです。
菊地氏はラヴクラフトに影響を受けたと語っています。
日本において、クトゥルー神話の基本書籍が揃うタイミングだったことも、この作家に大きな影響を与えたと考えています。
また、頭の中にある映像を小説にしているとも語っているので、ビジュアルを想起させる文章になっているかと思いますが、読者に的確にそれを伝えるには、桁くとん様がご指摘のとおり、極めて高い能力を必要とするのだと感じます。
最盛期の原稿生産量はただただ驚異です。毎日30枚の原稿を書いて、ようやく月のノルマに達する状況を、何年も続けたのは尋常ではありませんね。
面白かったです。
ただ、個人的には短編か「狂戦士シリーズ」しか知りませんでした。
なお、「狂戦士シリーズ」の主人公・醍醐さんは私の小説に出てくる平野平秋水の中身のモデルになっています。
新宿には年一で行くのですが、内心「魔界都市になりませんように」と願い、モデルガンを密かに鞄に潜ませていました。(今は、モデルガンの携帯はしていませんが・・・)
80年代90年代、時代は熱かった・・・
作者からの返信
隅田 天美 様
御礼の返信が大変遅れまして申し訳ありません。
お読みいただきありがとうございます。
応援コメントまで頂戴して恐縮しております。
戦士シリーズ(『暗黒街戦士』『魔人戦士』『狂戦士』)の主人公〝死なずの醍醐〟は魅力的なキャラクターでした。
おっしゃるとおり、1980年代~90年代は独特の熱さがありましたね。
面白かったです。最後まで読ませていただきました。
僕が生まれる前、菊地秀行氏が活躍されていたということですが、おそらく今に至るまで、先生の影響は色濃く残っているんだろうなと推察できます。
僕はラノベはあまり読まないのですが、カードゲームやテレビゲームの“魔界”的なダークな概念は元をたどれば先生の功績が大きいのかなと思いました。
今後の創作活動について、先達が生み出した潮流に目を向けるということを心がけていこうと思います。
作者からの返信
鷹仁さん、最後までお読み下さり、ありがとうございました。
深謝いたします。
菊地秀行氏の影響は大きいと思います。
菊地氏の影響を受けた小説家・漫画家の作品があり、またそれらの作品から影響を受けた小説家・漫画家をはじめとするクリエイターが今日まで活躍しているという流れだと思っています。
私もラノベはあまり読まないのですが、例えば、菊地氏以前に、吸血鬼と人間のあいだに産まれたダンピール(混血・ハーフですね)という存在は、小説や映画において、悪役で登場した試しはありましたが、ヒーローとして書かれることはありませんでした。
そんななか、菊地氏は『吸血鬼ハンター"D"』において、ダンピールである"D"を主人公に据えて、貴種流離譚の物語にしてダーク味のあるヒーローとして描きました。これは1983年発表という時代を考えますと、非常に斬新だったと考えます。
しかし、この『吸血鬼ハンター"D"』の物語構造と主人公造形も、柴田錬三郎氏の『眠狂四郎』シリーズ(1956年連載開始)に見ることができます(また、古い作家の名前と作品を出してすみません)。
菊地氏は、自身が山田風太郎の小説や洋画ホラー、そして漫画好きということもあって、先達が作った作品にインスパイアされて、自己流にアレンジして、模倣ではない新しい角度からの作品を創作することに秀でていたのだと思っています。
長々と失礼いたしました。
すごく面白かったです。
学生時代、自分ではなにを読んでいいのかわからず、いつも友達のオススメを借りて読ませてもらっていました。
まさにこの流れにのっていたので、友達は流行りを押さえていたんだなぁと。
(私は途中でもっとライトに流れたり、純文学に行ったりしたけど、それは学校が変わったから本を貸してくれていた友達と離れただけで、あの友達はずっと読んでいたのか、今も読んでいるのか、読んでいるなら借りたいなというか、話したいと思いました)
それにしてもやっぱりなにより量産量が凄すぎる!
自分も頑張ろうと思えました。
作者からの返信
高山小石 様
応援コメントをありがとうございます。
お読みいただき、大変嬉しいです。
また、お褒めの言葉をいただきまして、非常に恐縮です。
書いた甲斐がありました。
1980年代のピーク時で原稿用紙換算で月間900~1000枚。
1990年代半ばでも月産400~500枚の執筆量はすごいですよね。
1日50枚書くとか、普通だったらしいですから。
はじめまして。
菊地先生が『宇宙船』で『Xくん』と名乗ってバリバリやっておられたころから読んでました。
作家デビューから、90年代の半ばまでは何とか追っかけていましたが、追いきれなくなっていつの間にか離れてしまった読者です。
評伝、とても楽しく読まさせていただきました。
熱中していた頃を思い出しました。
良い読み物をありがとうございました。
作者からの返信
シンカー・ワン 様
応援コメントをありがとうございます。
お読みいただき、大変嬉しく思っております。
まさか、拙作が『宇宙船』のライター時代から菊地秀行氏の書かれるものに触れておられた方の目に触れるとは非常に驚きました。
お褒めの言葉をいただきまして、恐縮です。
書いて良かったです。
編集済
とても面白く拝読させていただきました。私自身は80年代ノベルス・伝奇ブームの直撃世代ではないのですが、菊地秀行・夢枕獏両氏の作品には多大な影響を受けたということもあり、当時の熱い空気感が伝わってくるような筆致におもわず息を呑みました。菊地秀行氏と彼の創作史を辿るすばらしい評伝だと思います。
作者からの返信
ささはらゆき 様
はじめまして。
応援コメントをいただきまして、ありがとうございます。
お読みいただき、大変嬉しく思っております。
私も1980年代のノベルス・伝奇ブームをリアルタイムで体験しておりませんが、現在のクリエーターにも大きな影響を与えている菊地秀行氏について、氏のバックボーンと夢枕獏氏も含めて調べた次第です。
望外のお褒めの言葉をいただき恐縮です。
編集済
春蔵さん。読破致しました。
6話なので、30分くらいで読めるかと思ったらとんでもない。エンタメ要素は全くありませんが、読み応えがありました。
これ、菊地氏に届かないのかな?
本人喜ぶかどうかは別として、真剣に読んでくれると思いますよ。
なんにせよ、春蔵さんの熱量に感服致しました。今日帰りに本屋でソノラマ文庫を見てみます。
→ 追伸 本日、帰りに割と大きな本屋に寄りましたけど、菊地氏の作品は1冊しかなかったですね。Dシリーズの42巻で、2024年初版でしたので、最新刊しか置いてなかったのでしょう。さすがにいきなり42巻もアレなので、ネットで代表作を取り寄せてみます。
作者からの返信
小田島匠 さん
最後まで読み通して下さいまして、本当にありがとうございます。
菊地秀行氏には個人的に思い入れがあり、勝手にいろいろ調べて書いたのですが、過分なお褒めの言葉、大変嬉しいです。