はじめてのギルド

「早速冒険に行きましょー! クエストはギルドで受けられますよ!」


 ゲームを始めてから一向に静かになる気配がない魔剣は早く冒険に行きたくてうずうずしているようだがレミは剣を無視して村を見て回る。

 クエストも確かに気になるようだがまずは村の様子を見て回りたいらしい。

 村にはギルド、鍛冶屋、宿屋、薬草や食料が売っている店など魔剣の言うように冒険に必要な設備が一通りあるようだ。


「私の言ったこともしかして信用してないんですかー!? あなたもしかして自分の目で見ないと信用しないタイプなんですか〜?」


 不機嫌そうに尋ねる魔剣に視線を落として首を振る、確かに冒険には出たいがその前にまずは村を見て回りたいようだ。


「なんだ村を見て回りたかっただけなんですねーそれならもういいでしょ! 早く冒険行きましょ〜!」


 剣が冒険に行きたいと駄々をこね、その声を聞いた冒険者達がレミ達の方に視線を向けてくる。

 あまり注目されるのが好きではないレミはその場を離れて食べ物屋さんに向かった。

 魔剣の相手をしていたからか夕食を食べてからまだそんなに時間が経っていないのに疲れてお腹が空いてしまったようだ。


「ちょっと! なんでゲームの中でお腹空いてるんですかー! 確かにこのゲーム現実味を持たせるために一定時間経つとお腹が空いたように感じますけど早すぎますよー!」


 そんなこと言う魔剣に向かってお腹が空いたと訴えかけるような視線を送り有無を言わせずに歩いていく。

 そもそもプレイヤーはレミの方なのでいちいち魔剣の言うことを聞く必要はないのだが……。


「……わかりましたよー……腹が減ってはなんとやらって言いますしね〜早く食べて冒険に行きますよー!」


 余程冒険に行きたいのか魔剣が急かすように話しかけてきて少しめんどくさいと感じつつレミは早足で歩いていく。

 遠目からでもわかるように大きな看板が設置された木造のコンビニ風の建物に入る。

 入るとコンビニ特有の入店音のようなものが鳴った。


「いらっしゃいませー」


「……」


 ここまで再現しなくてもよかったのでは?そもそもなんでコンビニ?など色々と疑問を抱きながらも目の前に広がる美味しそうな食べものを見たレミはそんな事すぐに気にならなくなり目を輝かせながらじっくりと選んでいく。


「さっきまでとはまるで別人ですねー! どんだけお腹が空いてたんですか〜? もしかして食いしん坊さんなんですかー?」


 剣が呆れるように言うのを聞き流しながら何を買うか決めたレミはおにぎり二つとおはぎを手に取り初めにもらったお金から代金を払う。


「ありがとうこざいましたー!」


 この中世風の世界観の中だと少しだけ浮いている様にも感じるコンビニを後にしつつ村を見て回った時に見つけた広場に向かう。

 広場には椅子やテーブルがいくつか置かれており何人かがのんびりとした一時を過ごしていた。

 空いている広場の椅子に座りさっき買ったおにぎりを頬張ると自然と笑みが溢れる。


「おにぎりとおはぎですか? 私は人間の食べ物はよくわかりませんが美味しそうですねー! どんな味なんですか〜?」


 暇だったのか魔剣がレミに質問をするが元々あまり喋らないのもありレミは無言のままおにぎりを頬張っていく。


「もー! さっきから無視ばっかりして酷いじゃないですか〜!」


 あまりにも無視されて少しばかり機嫌を悪くした魔剣が文句を言うとレミはおにぎりを食べるのをやめて魔剣を膝の上に置いた。


「……食べる?」


 そう言ってまだ食べていない方のおにぎりを半分に分け始め魔剣に差し出すレミは側から見れば完全に変人だ。

 魔剣は目の前の少女のよくわからない行動に驚いたのか少しフリーズした後。


「私……剣だから食べられませんけどありがとうこざいます! それにしても剣におにぎりを分けようとする人なんてあなたぐらいしかいませんよ〜レミさん!」


「……喋れるなら食べれると思った」


 ケラケラと笑いながら剣が喋る。

 流石に恥ずかしく感じたのか少し赤面したレミは魔剣を地面に思いっきり突き刺し半分に割ったおにぎりを口に放り込む。


「ちょっとー! やめてくださいよ! こんなことで怒るなんて器が小さいですよ〜レミさん! ……まぁおにぎりを剣に食べさせようとする変な人なので普通の人とは器の基準が違うかもしれませんけど〜」


 追い討ちをかけてくる魔剣のことを無視してレミは冒険に向けて腹ごしらえをするのだった。


「それじゃあ冒険に行きますよー! 早くギルドに行きましょー!」


 レミが軽く頷くと他の建物よりも一際大きくコンビニよりもある意味異質な存在感を放つギルドに向けて足を運んだ。

 ギルドの中には何人か冒険者らしき人がいた。

 どうやらこのギルドはクエストボードに貼ってあるクエストを自分で選んで受付に持っていく形式のようだ。


「あの中にもNPCがいるんですよ〜レミさんでは見分けがつかないかもしれませんが私はバッチリわかっちゃいますー! なんならどの人がNPCか教えてあげましょうか〜?」


 特に聞いていないことを言う魔剣のことは無視してクエストを選ぶ、薬草採取からドラゴンの討伐まで幅広いクエストが貼り付けられている。


「最初は簡単なのがいいと思いますよ〜たとえばーこれ!」


 剣が勝手に動いて選んだクエストは簡単な魔物討伐クエストだった。

 クエスト内容はスライムを10匹倒すこと、いかにも初心者ようのクエストって感じだ。


「……わかった」


 特に異論もなくレミは魔剣が選んだクエストを手に取り受付に持っていく。

 受付にはレミと同い年ぐらいの少女がクエストの受注処理をしていた。


「こんにちはー! あれ? あなたは初めてクエストを受ける方みたいですね! じゃあ自己紹介から!」


 レミが初めてクエストを受けると知った少女は自己紹介を始めた。


「私はハクムの村の受付担当! このギルドの看板娘のハルです! これからよろしくお願いします! それじゃあまずはギルドカードを作りましょう! ギルドカードがないとクエストを受けられませんからね! 早速始めましょう!」


 少し強引に手続きを始めるハルは次々と書類を取り出して目の前にドサっと置いた。


「じゃあまずは名前を教えてください!」


「……レミ」


「レミちゃん……いい名前ですね! 覚えました!」


「いきなりちゃんづけってなんか馴れ馴れしいですねー! 処しますレミさん?」


「え? 今の声誰ですか!?」


 レミとハルの話に割って入った魔剣の声に驚いたのかハルは少し後ずさる。

 レミはめんどくさそうに剣を取り出し始めた。


「レミちゃん!? 剣なんて取り出して何を!?」


 一瞬切られると思って身構えたハルだが次の瞬間剣はギルドの地面に突き刺さった。


「レミさん! ひどいですよ〜木の板って割と痛いんですよ! 魔剣ちゃんのパーフェクトボディに傷が付いちゃいますよー!」


 剣が愚痴をこぼしているのを見てハルは目を輝かせながら剣に近づく。


「け、剣が喋ってる!? なんですかその剣! すごい!」


「ふふふふ! 私はレミさんの相棒の魔剣ちゃんですよー! あなたなんかがレミさんをちゃんづけだなんて100年早いですよー! 私だってまだなのに抜け駆けは許しませんよー!」


 地面に刺さりながら謎の理論を展開し出す魔剣にレミは冷ややかな視線を向ける。

 そもそもこの魔剣ともほんの数分前に初めて会っただけなんだが……。


「……うるさい」


「そ、そんなー! レミさんひどいですよー! 私よりもそっちの女を取るんですかー!」


 レミに怒られ落ち込んだ様子の魔剣を無視してレミは話を進めるようにハルに促した。


「……続き」


「え! 魔剣さんはいいんですか?」


「……大丈夫」


「わ、わかりました! じゃあ進めますね! えっとつぎは〜」


 ハルは少し不機嫌な様子のレミに気を使いながら素早く手続きを終わらせた。


「お疲れ様でした! これで登録は完了です!」


 登録を終えたレミはカードを受け取る。

 カードにはレミの名前と写真それからステータスが書かれているようだ。

 裏面にはカードの発行場所とカード作成者の名前が書かれそれぞれハクムの村、受付嬢ハルと書かれている。


「レミさんは獣人なのでMPが低いですね〜! 私の能力はMPを消費するので少し相性悪いのかも〜? まぁ能力の相性はともかく私とレミさんは相性は抜群ですのでなんの問題もありませんねー!」


 よくわからないと首を傾げながらレミはカードを使ってクエストを受ける。


「それじゃあクエスト頑張ってください! 報酬用意して待ってますね!」


 ハルに見送られながらギルドを後にするレミははじめてのクエストに向かった。


「……それにしてもわざわざ自分に合わない武器を持つなんて何か理由でもあるんでしょうか? ほとんどの人は自分に合うものを最初から持ってますけど……ま、いっか!」

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シェイプデザイアオンライン〜無口な少女とおしゃべり魔剣の物語〜 キクル @kikuru078

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