詩「夕立」

有原野分

夕立

突然の夕立は汗のように

昼間の熱い町を青い嘘に変えた


木立のさえずりを前に

ぼくたちはようやく本当の夏を知る

そのときにはもうヒグラシは

生まれ故郷の田舎に帰っている


懐かしい実家の匂い

隣りの家は今日もカレーだ

夕暮れは昼を裏切る

星が夜をいつも裏切るように


少しだけ濡れた洗濯物

間に合わなかったセミの音

夕立の弱まっていく重力に

入り組んだ追憶が手を伸ばす

指先に揺れる氷のような

夕日をたっぷりと含んだ冷たい涙に

大人は少し先の死を予感する


振り返ると昼は消え

詩人はどこにもいなかった

夜は未知の言語を携えて

そこには虹も星も空もなく

ただの町が海のように凪いでいた


遠くからカラスの鳴き声が聞こえる

ぼくは窓を閉める決心をする

今日の日記に夕立のことを書き忘れな

 いように

ぼんやりとした眼差しを夏に向けて

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詩「夕立」 有原野分 @yujiarihara

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