WORLD X BREAKERS/ワールド クロス ブレイカーズ
@TAKUMIN_T
01:Part1「あとで(自主規制)してシバいてやる‼︎」【A-Part/1】
無機質な機械音声と赤い文字は、突然におとずれた。
――
「エマージェンシーねぇ……」
スポーツバイクみたいに前傾姿勢で小さな戦闘機を飛ばしているわけだが、なにやら物騒な言葉が
機械音声は〈ビービー〉な警告音と一緒に繰り返されて、目に悪そうな赤色文字の点滅も繰り返されて。
緊迫をもたらしてくれる数々の素晴らしき機能を遺憾無く発揮しているこの状態でも、彼女はどこか他人事のようにポツリとこぼすだけで。
『何があった』
『わかりません、おそらく防衛装置が作動したかと!』
無線越し。
静かでも存在感がある妙齢たる男の声と、まだまだ落ち着いていない若々しい女の声。
その場にいなくとも状況把握に全力を注ぐその姿勢。素晴らしいオペレーターであること間違いなし。
……まあ。平穏無事に見つからずに事が運ぶ方が、誰しもが展開としてはありがたかったのだけれども。
「……見つからないんじゃなかったの」
『その問題は後に回せ。目の前に集中しろ。――計画を変える、作戦開始だ』
唐突だ。『荷電粒子砲が来ます!』の若い男メカニックの声がしたのは。
「……カウント省略っ、作戦開始ぃ‼︎」
光の速さで飛んできて、〝こんがり〟どころか〝消し炭〟。はたまた何もかも全部を〝気体〟にして宇宙の循環の一つに仲間入りさせようとしてくるなぞ、誰からプレゼントされようが、謹んで願い下げなわけで。
座席下。〈
瞬間、その身は座席ごと勢いよく打ち上げられる。
乗ってきた小さな戦闘機が、操縦手がいなくなりながらも雄大に飛んで。下に広がりし、光さえも遮ってなにもかもを飲み込んでしまう紺色の海。
ちょうど日の出の時間で、戦闘機と海がキラキラ光を反射し始める。
それはもう。手にデジカメや一眼レフとかのカメラを持っていないのを悔やむほどには、パシャリと一枚撮って、おっきな写真としてプリントアウトして、展覧会に意味深なタイトルと共に出展したいくらいだ。
ほんの刹那。
荷電粒子が、戦闘機を貫いた。
空気が焼ける、音がした。匂いは感じる暇もなかった。
「やべ」
あの子、目の前で爆散するじゃない。てへぺろっ。
座席を押し出してパージ!
「くっそ――!」『ファイター破壊されました!』
誰が好き好んで「爆発するよっ♪」とあたりに言いふらしているやつに突撃かますバカがいるか。
今まで乗ってきた、狭くて怖くて、うるさくて怖くて、
そいつはもう荷電粒子に貫かれて、爆発して。もはや、鉄クズ屋はいくらで買い取ってくれるのだろうか、くらいになってしまった。
その変わりに、まだまだうっすら宇宙が見えるお空が屋根であり壁であり、偶然にも色が近い海が床で、ところどころ可燃物の匂いを感じながら風を味わう、素晴らしい
名前をつけるなら……「スリリングスカイダイビング」。売り出せば完売御礼大絶賛間違いなし――。
くそったれ。
「
『再発射準備確認!』
残骸が青白い粒子となって溶けていく爆炎から、彼女の背中で長いひし形で構成される青白く光っている翼が広がっていた。
ただのパラシュートなしスカイダイビングは、その翼のおかげで普通のスカイダイビングになった。
――荷電粒子がぴゅんぴゅん飛んできて、煙がもうもうと舞う中で、普通と位置付けるのはだいぶ勇気がいるが。
「アイツか‼︎」
それは、ワタシナニモヤッテナーイと言わんばかりに健在している洋上のおっきな建物。
その屋根には、ナニやらでっかい砲身がこちら側を向いている。というか、追っている。
すると、半透明な板がくるくる回りながら飛んできていた。
……来てい
『もう
「回避ぃ‼︎」
半分自由落下しているのに飛んできている板と正面衝突するとか、その瞬間、誰もが処理に困る前衛的アート作品が生まれてきてしまう。
と、どんどん妨害障壁がフォンフォン唸りながらのんきに飛んできている。
それはもう、たくさん。たくさん……。
「多い‼︎」
『
その先では、施設の周囲から表面が波打っている半球で透明な青色の膜が形成された。あれは誰がどう見ても施設防衛用のやべーやつだと答えるだろう。100人が100人、言い方は違えど同じ回答をして、インタビュアーとディレクターを困らせるくらいには。
「物騒なッ――‼︎」
『フォースフィールドは3回までは!』
「違うぅ‼︎」
言葉が簡素になれば、悪態もつきたくなる。3回まで、じゃぁない。ある程度安心させるために言ったのだろうけれども、そもそも【1回】がフォースフィールドがなければ「アウト!退場!」というわけ。
どう安心しろと。
『でも荷電粒子は無理です‼︎』
オペレーターよ、聞きとおなかったそんな事実。
『発射まで‼︎』
『目標までは
なにやらメカニックの物騒なカウントダウンが始まった。アイツか?またアイツか?
とはいえ、避けなければ天国行きだ。
『|降下目標はテ
妨害障壁に向かって手を挙げると、手のひらからSFチックな青白いヒモらしきモノ飛んでいく。
「かんったん
ヒモらしきモノが妨害障壁に突き刺さる。すると、今まで伸びていたヒモが伸びるのをやめた。そして末端にいる彼女を振り子のように振った。
「グラップリングビームっ――‼︎」
『0!』
荷電粒子が、彼女が振られる前の場所を通った。
グラップリングビームで振り子になっていなかったら、あそこで気体になってたわけだ。
冗談じゃない。
「ッ――あいつカタログより精度高い‼︎」
『防衛装置稼働! 実弾の機関砲が展開!』
悪態ついて一息つく――そんな間なんてあったもんじゃない。
『弄られてるのは想定内だ。避けろ』
「やりゃぁいいんでしょやりゃぁ‼︎」『目標物の機関砲――
機関砲が唸り始める。
一瞬で真横を通り過ぎていく
だけども、問題はそこじゃぁない。
機関砲は、当然の権利のように弾丸をズガズガ連射してくる。
そこへフォンフォンのんきに飛んでくる妨害障壁が、避ける行手を妨害してくる。
『人を精密射撃はできない。冷静に行け』
「音は聞こえてんのッッッッ‼︎」
近くを通り過ぎるたび、ビュンビュン空気を切り裂く音が絶え間なく聞こえてくるのは、もはや拷問の一種に足り得る苦しみだろう。
身の安全を護ってくれているフォースフィールドがある。それを頭で理解していても、誰もが弾丸になぞ当たりたくはない。というか、狙い撃たれたくもない。
スカイダイビングによる弾丸との真ん前からの相対速度も、それはそれは考えたくもないくらいにエッッッッゲツないものに化けていることだろう。
ピンピカリンのキラキラな金属の塊たる銃弾を
なんて表すか? 決まってる。
掠ったら〝お魚の餌〟になるぞ。
「障壁を盾にっ!」
ただのおじゃまでしかない妨害障壁だが、もしかしたら弾丸を防げるかも。
妨害障壁を、狙い撃ちしつづけてきやがる機関砲との間に挟むように避ける。
これなら機関砲の脅威度を下げられる。
建物に近づくほど、機関砲の精度が上がってくる。単に偏差射撃せずに撃ちまくってるだけだから、なのだろう。ハイテクのくせしてそこがお粗末なのは地味にはらだたしいことこのうえない。
『あと20秒!』
『緊急! 目標からドローンの発射を確認!』
ドローン。意味、遠隔操作か無人機の飛行物体。
物騒な防衛装置持ってる発電所だ。絶対頭ごなしに一直線バビューンなロケット軌道じゃない。
ちくしょう。
「聞いてねぇわあんなの!」
目標の屋上には、隠していたんだろうと明らかに小さなナニカの発射台らしき穴がよっつ。そこからパシュパシュ発射されているのは、人間サイズの白い飛行物体。赤い光の軌跡を残しながら、回り込むように向かってきているではないか。
ご丁寧に、バリアに、一時的に、穴開けてやがんの。
『無駄口はいい、避けろ』
「あとでシメてやる‼︎」
あんな大袈裟な軌道をするからには、妨害障壁を回り込んで目標物に突貫してくる気だろう。
せっかく機関砲の対策をしたのに、もういらない脅威が増えた。
悪態をつきながらも、次の一手。
彼女の手元に青白く光る粒子が次々と集まってくる。それらが寄り集まってなにかが形作られると、青色をアクセントに白を基調とした銃が出来上がっていた。
形状を軽く言えば、片手でも扱えるぐらいではありながらも、ライトマシンガン系だ。
「堕ちろクソ鳥‼︎」
十二分に憎しみが込められているライトマシンガン特有の大口径から、こいつはただの銃ではないとばかりに青白く光る銃弾が軌跡を描いて飛んでいく。
スカイダイビング中の狙い撃ちということもあって、正確さはそこまで。でも、ばら撒かれる無数の銃弾は〈下手な鉄砲も数打てば当たる〉を体現してくれる。
発射されたいくつかが、突進してくるドローンを掠めていく。そして貫く。
動力源をぶち抜いたか、その場で爆発四散するやつ。
至近距離まで近付いてから爆発するやつ。
「大人しく遠くで堕ちろよバカァ‼︎」
『残り1000!』
せっかく銃を使って遠くで
ぷっつん。
「くっそあんなバリア貫いてやる‼︎」
『えぇ⁉︎』
こんなことしてられない。防御に徹しているくらいなら一直線にぶん殴りにいく。
一定だった落下速度を加速させる。掠っている弾丸とドローンも相対的に速くなる。
「邪魔ぁ‼︎」
避けて避けて、撃って撃って。
「骨で一番硬いのはかかと‼︎」
『かかと⁉︎』
自分自身を鼓舞するかのように、悪い笑顔でゲキレツに叫んで。
華麗な空中一回転を披露して。
「ドロップッ、キック――――――――ゥ‼︎」
バリアと靴のかかとが正面からぶつかり合った!
バリアはヒビが入った!
かかとはなんともない!
バリアは砕けた!
『嘘でしょぉ⁉︎』
オペレーターの悲鳴は、当然としかいえない。
地球の最新科学技術で鉄壁を誇る防衛装置であるバリアに打ち勝ったのは、人間のかかと。
立証されてしまったその事実に、バリア製造に関わった全ての人々が口から泡を吹いて気絶してしまいそうだ。
スーパーヒーロー着地をしている彼女の眼前には、荷電粒子砲がある。
うらみを込めて。
「御礼参りといこうかっ」
WORLD X BREAKERS/ワールド クロス ブレイカーズ @TAKUMIN_T
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