お侍たち

   *

 カクノジョウの耳に外からの声が入ってきた。

「おい、おキク。おキクはいるのだろうなあ」

 この聚落の住人たちが言うところの、お侍たちがやって来たのだ。

 彼らは、どかどかと、キクの家に入ってきた。

 キクの世話役の男が、

「あまりにも、無礼ではございませんか」

「黙れ、だまれえ。ここに白い髭を生やした老人は来なかったか」

「来る途中で、村人たちが殴り殺してしまいました」

「本当か、おキク」

 キクは、はっきりとした声で、

「はい」

「そうか。よう正直に申した。ところで、そちらにおるのは何者ぞ」

 カクノジョウとスケサブロウのことを言っているのである。カクノジョウは、

「旅をしている者でございます……」

「ええい、ややこしい。さっさと去るのだぞ」

 お侍たちは出ていき、

「よおし。それでは、老人の亡き骸を確認しよう」

   *

 裏山に老人の死体を置いてあると聞いて、お侍たちはそちらに向かって歩いている。聚落の住人たちが案内する。

 カクノジョウとスケサブロウも、後を付いてゆく。

 お侍の一人が、

「おい、どこだ。何もないではないか」

 すると、一人の頬かぶりした老人が進み出て、

「ここに、おりますぞ」

「何。これは、どういうことだ」

 聚落の住人たちは、皆黙って引き下がるばかりだ。

「ええい。まだ生きておるなら、仕方がない。われらで斬ってやる。やるぞ」

   *

 お侍たちが、刀を抜いてミツクニに襲いかかる。すると、さっと男が出てきて、短刀で応戦する。イワサルだ。彼も、聚落の住人に紛れていたのだ。

 しかし、一人で対応できる数ではない。

 スケサブロウも、そして、カクノジョウも直ぐに剣戟に加わった。

 彼らは、実際に斬ることはしない。峰打ちである。

 或るお侍は、カクノジョウを背後から襲ったが、足音と気配に気づいた彼は素早く樹木を背にし身を守り、体勢を整えると逆に打って倒した。

 やがて、ミツクニが、

「さあ、話してもらいましょう。誰からのめいであるのか……」

 カクノジョウは、

「静かに、しずかに。皆、静かに。この、お方はミトミツクニ公にあらせられる」

 お侍たちは、しばし呆然となった。

   *

 ただの者を殺せなどという命令がわざわざくだる訳がない。

 お侍たちにも何処かに思い当たるものがあったのだろう。目標の白い髭の老人がミトミツクニであることは、直ぐに呑み込めたようだった。

 後日、調べは滞り無く進み、このミツクニ暗殺の陰謀は、時の老中格ヤナギサワヨシヤスのものであることが分かった。

 ミツクニは、江戸に向かい、解決に当たったのである。

 そうして、シュシュンスイの立派な墓の完成を、彼は見ることができた。

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御老公 森下 巻々 @kankan740

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