バーチャル転生皇女

手垢

プロローグ 絶許

 ここ日本に住んでいれば、起きたら朝日が昇る。蛇口をひねれば水が出る。実家に住んでいたらもしかすると帰ってくればご飯ができている、なんていうことも、もしかしたら当たり前かもしれない。

 そんな当たり前であるはずの、少なくともそうであってほしい行動と結果の関係が一瞬にして消えることなんて、僕は想像していなかった。

 いや、これは誰にでも起こることだし、同時に誰も想像できないことかもしれないな。


 

 僕の推しが、消えた。



 大学から帰れば通学やら人間家系で揉まれた体には疲労がたまっているから、本能的に癒しを求めてしまうのは当然だろ?僕だってもちろんいろいろ探した。

 アニメが好きだったから原作を今度は漁ってみたり、あるいは、自分で何か作品とまではいかなくても創作物を生み出そうとした時期もあったし、男の本能として求めるものだっていくつか手を出してみた。

 でもどれも完全に僕の癒しにはなり得なかった。

 相互のコミュニケーションがほしかったんだろう。もっと俗な言い方をすれば、可愛い女の子と仲良くお話ししたかったんだよね。

 ふと動画サイトでASMRを漁っている時に出会ったのがVtuber、つまり、バーチャルユーチューバーってやつだった。

 僕がその存在をちゃんと意識したときにはもう、配信が主流になっている時だったからまさしく「可愛い女の子と仲良くお話しする」という願望をかなえてくれる媒体そのものだった。

 ハマるのに時間は要さなかった。いろんな事務所のタレントや個人勢と呼ばれる企業には所属しない配信者も色々見た。

 


 再推しができた。



 最初はいつも通り「初見です」の挨拶だけして、しばらくしたら来なくなる枠かもって思ってた。でも全然違った。彼女は元気に笑い、際どそうなコメントも割と拾う、かなりありふれてそうな配信者だったんだけど、僕の心に足りない何かにスッと収まる、パズルのピースのような存在だったんだ。もうほぼ魔法と言ってもよかった。

 でも彼女は消えたんだ。ちょうど目標にしていた登録者100万人を達成した直後に。

 個人勢だったのもあってか調査は遅れたし、調査したうえで本当に跡形もなく消えてしまったらしい。


 犯人は何となくわかっているんだ。


 僕は許せない、あの「ダイコク」と名乗るリスナーを。

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