病弱な私がプロゲーマーになってしまった

北條院 雫玖

第1話 私の第二の人生がスタートした

 私の名前は岩崎美咲いわさき みさき。13歳。

 んで、地元の中学校に通うごく普通の中学生。

 だけど、ちょっとみんなとは違う一面もあったりする。それは……私がプロゲーマーだと言うこと。

 何で中学生の私が、プロゲーマーになれたかというと、それは10歳の誕生日のプレゼントでパパとママからVRゲーム機を買ってもらえたことがきっかけなの。

 私は生まれた時から体が弱くって、激しい運動をすることをお医者さんから止められて、お家以外での移動は車椅子がほとんど。

 一応、学校には通っていたけど、移動手段が限られているから途中で通信教育に切り替えてもらった。そんなんだから、学校の友達は少ないし、遊んだことはあんまりない。

 だから、小さい時はパパと一緒にたくさんのボードゲームをして遊んでいた。パパのお仕事はお家ですることが多かったから、常にパパと一緒だったしいっぱい遊べて嬉しかった。あとは、気分転換で外に連れて行ってもらって、運動はあまり出来ないけど、散歩をしたりちょっとした運動をすることが出来た。

 もちろん、ママがお仕事から帰ってきたら3人でゲームをしたりして遊んでたりもしてたよ。

 ママが休日の時は、家族でお出かけをして、凄く楽しい時間を過ごしていた。でも、あんまり身体を動かしすぎると、すぐに息切れをして胸が苦しくなるから、ちょっとだけしか歩けないけどね。

 だから私は、心の何処かで満足は出来てなかった。パパとママも私の顔を見ると、時折悲しそうな顔をしていたから、何となく私の気持ちを分かっていたのかなって時々思う。

 けどね、私が10歳の誕生日にVRゲーム機を買ってくれたの。今までこういったゲームはやったことがないし、ボードゲームだけしかやってこなかったから何でだろうって不思議に思った。

 だけど、パパとママの表情を見るとすっごい笑顔だったから、私は気になってVRゲーム機を頭に着けたの。

 眼を閉じたまま音声アナウンスに従って、次に目を開けた瞬間、私は自分の目を疑ったわ。

 だってそこには、自然にあふれていて素敵で大きな公園が広がっていたの。

 私は、戸惑いながら頭の中で地面を歩くイメージを膨らませて一歩、また一歩と足を交互に動かしていって歩くスピードを少しずつ上げた。

 最後に、自分の足で走ったのはいつ以来だろう?

 バーチャル空間とはいえ、私が思い描いた通りに身体を動かすことが出来た。

 私はすごく感動して涙を流した。

 だって、走れたんだよ!

 思いっきり身体を動かすことが出来たんだよ!

 私が思った通りに、動いたり、走ったり、ジャンプ出来たり!

 驚いたのは、どんなに激しく動いても胸が苦しくならないし、息切れもしないの!

 今までやりたくても出来なかったことが出来るようになって、初めて心が満たされた感じになった。あの時に見た景色と体験は今でもよく覚えている。嬉しすぎて、パパとママに抱きついて大泣きしちゃったけどね。ゲーム機を付けたまま抱きついたから、パパとママの顔を直接見ることは出来なかったけど、二人とも声が震えていたから多分、私と同じように泣いていたのかも。

 それからの私は、ありとあらゆるVRゲームを遊んだ。ゲームソフトもたくさん買ってもらった。ゲームが上手になっていくと、パパの提案でゲームの大会にもたくさん出場した。

 最初の頃は初戦で負けちゃうことが多かったけど、繰り返し練習をしている内に、何度か優勝をしたこともある。

 あ、でも勘違いしないでね?

 一日中、ゲームをしている訳じゃないからね?

 学校の勉強も、ちゃんとしているからね?

 ゲームはあくまでもゲームで楽しむものであり、私の心を満たす物。一番は、パパとママと一緒にいる時間の方が好きだから。

 私が好んでプレイしていたゲームのジャンルは、主に知力ゲームや身体を思いっきり動かせるゲーム。

 いかに早く障害物を避けて、一位を目指してゴールするものだっり、用意された謎を解読して、脱出するアトラクションゲーム。

 謎解きで分からないことがあると、物知りなパパに教わりながら知識をつけて攻略していったし、時にはサバイバルゲームのような銃撃戦や格闘ゲームにも挑戦した。

 銃撃戦や格闘ゲームを初めてやったときは、正直怖かった。

 だけど、銃の構え方や敵の見つけ方、敵の倒し方、敵からの攻撃に反撃する方法や制圧する方法はママから教わった。

 教わる場所はもちろんゲームの中。私の練習用に、ママ専用のVRゲーム機をパパが買ってくれて、時間があるたびに銃の使い方やや合気道を教わった。

 なんで私のママはそんなことを出来るのか。

 だって私のママは、カッコいい現役の女性警察官だもん。

 実際にママから教わった合気道の技で、何度か格闘ゲームの大会で優勝したことがあるよ。

 数ある格闘ゲームの内、私が好きなゲームの1つ「エレメントフィスト」という格闘ゲームがある。

 エレメントフィストは、リアルの格闘技を疑似体験出来るストリートファイト式の格闘ゲームで、プレイヤーにダメージ判定が発生すると、その強弱に比例してアバターの硬直時間が変動する仕組み。んで、決定打をもらうとアバターが完全に動かなくなるの。

 だけど、実際の身体に痛みや精神的苦痛を感じることがないから安心してプレイ出来るのね。だから、病弱な私でもゲームを楽しめるのだ。

 仕組みは……よう分からん。不思議だ。

 だからこそ、このゲームは他と違ってシステムがリアルの格闘技思考だから、リアルで格闘技の経験者でないとプレイ出来ないって条件があるんだけど……一部の人は注意事項を守らないので熟練プレイヤーからボッコボコにされて辞めていくプレイヤーが一定数いる。まぁ、中にはこれをきっかけにリアルで格闘技を始める人も一定数いるみたいだけどね。

 それに、リアル思考だからこそ、三カ月に一度、大規模な大会が開催されているのだ。

 結構有名な大会だから、私は腕試しにと思って過去にこの大会へ出場をしたことがあるの。

 おまけに、VRゲームの大会では便利な部分があって、直接会場には行かないで自宅にいながらゲーム大会にエントリー出来るので、これは私にとってはとても有難い。

 しかもこの日の私はすごく調子が良くて、1回戦、2回戦、3回戦と順調に勝ち進むことが出来て、遂にあと1回勝てば優勝と言うところまで進めることが出来た。

 多分、私の両隣でパパとママが応援してくれているからかも。てか、きっとそう。

 それにこの日は、今後の私の人生を決めた大事な決断をした特別な日。今でも鮮明に覚えているよ。


 エレメントフィスト全国大会、当日。

「さぁ、全国のエレメントフィストのファンのみなさん! 遂に決勝戦だ! 総勢200名の中でここまで勝ち進んで来たのは今、話題のゲーマー。インシュリッド選手! 対するは、サディクション所属の現役プロゲーマー。セフィラム選手! どちらも実力はほぼ互角と言っても過言ではない! 勝利の女神はどちらに軍配が上がるのか!」

(さて、いよいよね。相手は現役のプロゲーマー。だけど、私だって負けてられない。ママから教わった技で絶対に勝つ)

(ふむ。相手はプロではない。だが、実力は俺やチームメンバーにも匹敵する。おまけに、このゲームはリアルの格闘技とほぼ同じシステムでストリートファイト寄りのルール。それなのに、合気道の技だけでここまで勝ち上がってきた実力者。ただのゲーマーではないな。恐らく、リアルでは相当訓練を積んだ有段者。それに、合気道ってのは実践向きじゃないと思っていたが、決勝まで勝ち上がってきた。心して挑まなければ)

「それでは、両選手の準備が整ったようです! 思う存分お互いの技術をぶつけてくれ! アバター転送開始! レッツ、レディーファイト!」

(よし、最初は相手の様子をみる。それからどう技をかけるか、見極める!)

(ほぉ。転送された場所から動かずに、こちらの様子を伺っているのか。……ならば、あえて誘いに乗ってみるか)

「おっと! 開始早々、セフィラム選手が先手を取ってインシュリッド選手との距離を縮めていく!」

(早くも仕掛けてきた!? 上等。受けきるまで!)

「シッ」

「早いっ!」

 セフィラムは右足でインシュリッドの腹部をめがけて前蹴りを繰り出すが、身体を半身にして蹴りを躱す。その後、インシュリッドは右手でセフィラムの右足を掬い上げて投げ飛ばした。だが、インシュリッドは間合いを詰めることはせずに、その場で次の攻撃に備えて構えた。

(くっ、完全に捉えたと思いきや、吹っ飛ばされたのは俺の方……。これが合気道ってやつか……面白い。しかし、距離を詰めてくる様子がないな。あくまでも反撃に徹するか。だがな、これでも一応空手の黒帯。ここからは全力でやらせてもらう!)

(ん? 何だか相手の雰囲気が変わった……? って、早っ! もう間合いを詰めて来た! 焦るな私。しっかり、相手を見るんだ!)

 ……来たっ。右の上段蹴り。ここは、左腕で受け流しながら入身で相手の背後に回り込む。よし、捌けた。次は左の突き。ここは受け流して小手返しに繋げる。よし、イメージ通り。相手の動きがはっきりと分かる!

 だけど技への反応が早い。私の小手返しにしっかりと受け身を取られてしまった。今度は……前蹴り。これもさっきと同じで掬い上げて吹き飛ばす! って、フェイント!? しまっ、狙いはお腹!? ダメ! 防御!

「がはっ!」

(……次で終わりだ)

 インシュリッドは辛うじて防げたものの、強烈な左の中段蹴りをまともに喰らってしまい地面に片膝をつく。

 クリーヒットを受けたアバターは数秒間、硬直状態になる。

 

 この体勢は危険。早く逃げないと! ヤバ! まだ、身体が動かない! 早く、硬直終わって! って、頭を掴まれた! しかも、顔に目掛けて膝蹴り!?

 ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! 早く動いて、私の身体! ……よし、動いた!


(ふぅ。間一髪。何とか避けることが出来た。それにしても、容赦ないな。女の子の顔に目掛けて膝蹴りをするなんて……。でもまぁ、ルール違反じゃないから、ちょっと複雑。だけど、不思議と怖くない! これもママのおかげかな? ん? そうだ。ママから教わったあれ、やってみよう)

 (ちぃ。今ので完全に終わったと思ったんだが、ギリギリのところで躱された。……相変わらず、相手は攻めてくる気配はない。どうするか……って、距離を詰めて来た? おいおい、この近距離は完全に俺の間合だぞ? コイツ一体何を考えて……ん? 右腕を掴ま……れた?)

(まさか、あっさりと右手首を掴ませてくれるなんて。後は、あなたがどう動くかによって行動に制限を加えるだけ。全神経を集中させるんだ)

(どうする。コイツは何を企んでいる? ……って、考えるだけ無駄だな。掴まれたままでいい。攻撃あるのみ!)


 よし、誘いに乗った。右の膝蹴りか。左手で太ももを抑えて、バランスを崩して……投げる! でも、右手首は離さない。ダメ。投げられなかった。しかし、バランスは崩れている。ここは、入身投げで地面に叩きつける! よし! この後、腕関節を極め、って、受け身をされた!? どうなってるのこの人の反射速度。

(仕切り直しか。どうすればあの人に勝てる? 今までは腕関節を極めて勝ってきたけど、ちょっと通用しないかも……投げても受け身で回避される。どうしよう。って、息つく暇もなく攻めて来た!)

 右の上段蹴り、狙いは顔。ここは、少し後ろに下がって回避する。そのまま回って、後ろ回し蹴りか。これも後ろに回避。続いて、右の前蹴り。ならば、入身で捌いて極める! って、フェイント! 本命は左足での中段蹴りか。同じ手は喰らわない。これを半身で避けて背後から投げ飛ばす。って、え、何? 何が起きたの? 足が動かない。何で私の右足が硬直しているの? あっ、前蹴りが来る。ダメだ。足が動かない。避けられない。手で防御。よし、辛うじて防げた。それに、右足の硬直が解けた。ここは一旦、距離を取って体勢を整えよう。

(逃がすかよ!)

 え、その距離から蹴り? 流石に届かないよ? えっ、一気に距離が縮まった。何が起きた? でも防御は出来た。それに、威力はほとんど無い。よし、次こそ体勢を整えよう……あっ、左足の上段蹴りがくる。今度こそ見極めて捌いて見せる! え、あっ、嘘。蹴りの軌道が変わった……。防御! だめ、身体の反応が追い付かない。そっか、さっきもこれにやられたんだ。しかも、もう次の予備動作に入っている。逃げ、あ、だめだ、右足が言うことをきかない……正拳突きこれはは避けられない。

「……っ!」

 ドサっ!

「押忍!」

 セフィラムは上段蹴りを放ち、相手が防御したことを見ると蹴りの軌道を上段から下段に変えて、インシュリッドの右足にクリーンヒットさせた。その後、渾身の正拳突きを相手の腹部に打ち込んだ。

 この一撃が決定打となり、セフィラムの優勝が決まった。

「決着! セフィラム選手の渾身の正拳突きが炸裂し、勝利を手に入れました! 優勝はセフィラム選手! おめでとう!」

 セフィラムは、右腕を空に向けて高々と誇らしく突き上げてた。

 しばらくして、セフィラムは床に寝込んでいるインシュリッドの元へと駆け寄った。

「よう。アバターの調子はどうだ?」

「ふん。あなたのせいでまだ硬直しっぱなし。流石に、最後の突きは効いた。……優勝、おめでとう」

「あ、あぁ。ありがとな。それにしても、お前の合気道は凄かったぜ。なぁ、何処の道場で稽古しているんだ? あれだけの技術、そう簡単に会得出来ることはほぼ無理だ。差支えがなければ教えて欲しい」

「悪いけど。その質問には答えられない」

「そ、そうか。すまんな、野暮なことを聞いてしまって」

「ごめんなさい。って言っても私は何も出来なかったわ。あなたの蹴り、早すぎよ。でも、次は負けない」

「ほぉ、嬉しいこと言ってくれるじゃんか。またやろうぜ!」

「えぇ、約束よ。……よし、そろそろ大丈夫そう。硬直が解けた。よっと」

「お、回復したようだな」

「えぇ。いつもより時間がかかったけどね」

「なぁ、ちと質問があるんだが、いいか?」

「ええ。でも、内容によっては答えませんから」

「おっけ。んじゃ、普段ゲームをするときにボイチェンボイスチェンジャーを使っているか。仕様するアバターは女性だけか。キャラ名はずっと固定だったか。これについて、教えて欲しい」

 ん? やけに変な質問をしてくるな。けど、個人情報を聞いてる訳じゃないからまぁ答えてもいっか。

「えっと、女性アバターしか使っていませんし、ボイチェンも使っていません。キャラ名も固定です」

「おっけ。ありがと。くどい様だがその返答に偽りなないな?」

「えぇ。ありませんけど?」

「ありがと。これで事実確認が取れた」

「ん? 事実確認? どういうことですか?」

「なぁ。インシュリッドさん。この後、少し時間あるか? 俺が所属しているチームの監督があんたに会いたいと言っているんだ」

 ……今、何と?

 サディクションと言えば、ゲームをやっている人なら一度は聞いたことがある有名なプロゲーマーチームの1つだ。

 そこの監督が私に会いたいと?

 例え、会ったとしても何を話す?

 夢なら覚めてくれ。

「インシュリッドさん?」

「あ、うん。大丈夫。ちょっと驚いただけだから、気にしないで。時間は大丈夫だから」

 二人が雑談をしていると、口を挟むかのように司会のアナンスが聞こえて来た。

「さぁ、ここからは表彰式の始まりだぁ! 上位三名のプレイヤーは壇上に移動してくれぇ!」

「おっけー。分かった。じゃあ、また表彰式の後で」

「は、はい!」

 この後、一時間程で表彰式終わり、上位三名には専用のトロフィーが贈られた。ゲーム内ではバーチャルで実態はないが、本人が望むなら、後日自宅に本物を届けてくれるそうな。

 私は、身バレするのが嫌だからバーチャルで十分。

 でも、正直、私はこの表彰式の出来事を全く覚えていなかった。

 だって、表彰式の後に行われる緊急イベントの方が気になって、頭が真っ白だったからだ。

 私は気持ちを落ち着かせながら、セフィラムさんに監督の元へと案内された。


「監督、連れてきましたよ」

「は、初めまして! わ、私! インシュリッドってキャラ名で……えっと活動! いや、大会? とにかく頑張ってます!」

 私はぎこちない挨拶をしながら、深々とお辞儀を何回も繰り返した。

 やっば、あのアバター、ゲーム雑誌で何度も見たことがある。めっちゃドキドキするよぉ。

「んじゃ、監督。俺はこの後、用事があるんでログアウトしますねぇ」

「おぉ。サンキューな」

「さてと、インシュリッドさん。そんなに緊張しなくてもいいよ。さぁ、頭をあげて」

「は、はい!」

「さてと、早速本題に入ろうか。まずは準優勝、おめでとうございます。サディクションの監督を務めさせて頂いているグリニーシュと言います」

「あ、ありがとうございます!」

「今日の大会の戦い方や、過去に出場をしたゲーム大会での成績やプレイ内容は見させてもらった。ハッキリ言って、ウチのチームに所属しても十分に活躍できると判断した。これは他のメンバーからも同様で合意も得ている。そこでだ、君を我がチームに迎え入れたいと思っている。どうかな?」

 監督の話を聞いて、私は耳を疑った。

 ただ会うだけだと思っていたら、あろうことか、プロゲーマーの勧誘だったのだから。私は頭が真っ白になり、その場から動けなくなった。

 しかも、過去に出場した大会も見られてたぁ!

 さっき、セフィラムさんが言ってた事実確認ってこのことか!

 確かに、一致していなければ会うことも、ここに呼ばれていなかったかも。

 正直に答えて良かったよぉ。

 ……でも待って……私まだ13歳だよ!

 ただただ、好きなゲームを楽しんでプレイしていただけだし。プロゲーマーになりたいという夢みたいなのはなく、私の心が満たさられるからゲームをプレイしていただけ。

 でも、高難易度コンテンツをクリア出来るようになると達成感を感じるようになって、次第にゲームが好きになっていったのは確か。

 かと言って、興味がなくはない。

 そこで私は、監督にいくつか質問をしてみることにした。

「あ、あの、プロゲーマーってどういったことをやるんですか?」

「んー、そうだなぁ。ウチの場合だと、プロチームが集って開催される大会で、賞金獲得と知名度を上げるために優勝をするとか、ゲーム配信をする。ぐらいかな?」

 あれ、思ったよりも活動内容が少ないかも。

「ちなみに、年齢制限ってあります……か?」

「年齢はとくに設けていないよ。ウチは年齢よりも、カリスマ性やゲームのスキルを重視しているからね。だけど、リアルでの性別だけはネットに公開させるよ。これはウチだけじゃなくて、プロゲーマー全体に言えることだ」

「そうなんですね。でも、なんで性別だけは公開するんですか?」

「そうだな。今のVRゲームは、ボイチェンボイスチェンジャーが導入されているし、アバターも自分好みに作成出来るし自由自在。だから、理想の自分でゲームをプレイ出来る。でも、プロゲーマーは違う。今まではゲームは遊び。だが、プロになればゲームが仕事になるしそれ相応の結果を求められる。まっ、自分を偽らず、プロとしての自覚を持つ一種の決意表明と思ってもらえればいいよ」

「んー、決意表明ですか」

「そそ。例えば、自分の好きなプロゲーマーがいて、プロフィールが男性なのにアバターが女性だったらどう感じる? 逆でもいいよ?」

「ん-、なんかちょっとイメージ崩れるかもしれません。中には、気にしない人もいそうな感じがしますけど」

「まぁね。感受性は人それぞれだから、その人の考え方を否定することはしないし、する権利もない。でも、性別を偽らず公開すればファンは付きやすいと思うんだよね。実際、ウチのチームは男性4人で女性1人の計5名なんだけど、男性メンバーのファンは女性が8割で、女性だと男性ファンが9割なんだわ。ゲームじゃなくて、音楽グループや芸能人に例えた方が分かりやすいかな?」

「あっ! それなら納得ですね! しかも、女性の方もいるんですね!」

「そそ。お、よかったよかった。じゃ、次の説明をしようか。約束事として、チームに所属した場合、君専用のIDアドレスとパスワードの作成、君が望む専用アバターの作成とキャラクター名を固定にしてもらう。完成したらどのVRゲームをプレイするのにも、専用のIDでプレイすること。それ以外のIDでプレイしたり、違うアバターやキャラ名を使用した場合は即刻除名だ」

「えっ! 私専用のアバター作ってもらえるんですか!」

「あぁ。これはプロゲーマーになれた者だけの特権だな」

「えっと因みに、それって一度作ったらもう変更は出来ないのですか? 例えば、アクセサリーを増やすとか、髪型を変えてみるとか。衣装を変えてみるとか」

「あ、それぐらいだったら問題ないよ。でも、申請は必要だから必ず俺に報告してから手続きすること。モデリングを変更したら、SNSで必ず報告すること。頻繁に変更しすぎないこと。だけど、キャラ名と身長や顔のパーツなどはあまり変更してほしくないかな。さっきも言ったけど、プロとして活動するとなるアバターが君自身になる訳だ。それと、どのVRゲームも専用アバターとキャラ名を使用するから、反映させるのに時間がかかりすぎる。もちろんその間は、ゲームをプレイ出来なくなるから監督の意向としてはしてほしくないかな」

「わかりました! 他は何がありますか?」

「お、いいね! 後は、ゲーム内でのギルド等に所属することを禁止しているのと、野良PTに参加するのはいいが固定PTに参加するのは禁止。でも、自分でギルド等を設立なら問題はない。だが、注意しろよ? プロが設立したギルドにはみな加入したいものだ。必ずと言っていいほど、厄介な奴らも出てくるだろうし、ギルド内で揉め事も起こるだろう。だが、そんな問題を解決するのもギルマスの仕事。これは、自分がリーダーとして、プロとしての資質を試さるからな。まっ、監督みたいた立場になるだけだ」

「うわぁ、大変そうですね……」

「大丈夫。ウチのメンバーは全員、健全なギルドを運営しているからさ」

「それ、逆にプレッシャーですよ……」

「あはは。まぁ、やってみてからだな。他に聞きたいことはあるかい?」

「えっと、チームのみなさんはどのくらいの年齢なんですか?」

「悪いけど、その質問には答えられない。俺は監督だから全員の個人情報は知っている。だけど、たとえ同じチームと言えども俺からは個人情報の開示はしていない。ただし、本人に直接聞くのはありだけど、教えてくれるかはまた別だ」

「失礼しました。そうすると、ごめんさない。実は私、まだ13歳で……中学生になったばかりで……大丈夫ですか?」

「……へっ? 13歳? 中学生? マジ?」

「マジです」

「……しょ、将来が有望じゃないか! 若干13歳でウチのエースと互角に近い戦いを出来るなんて、逸材以外、何物でもない! ゲームの熟練度はどうやって上げたの? あの合気道は誰から教わったの? 道場とかに通っているの?」

「ちょ、ちょっと、落ち着いてください。ちゃんと質問には答えますから!」

「あ、あぁ。すまない。つい興奮してしまってな」

「えっと、合気道はママから教わりましたけど、道場には通っていません」

「ほう。じゃぁ、まだまだ発展途上だな。」

「あとは……」

「ありがとう。答えてくれて。でも、いいよ。そこから先は答えなくて。まだ正式加入していないから。でだ、俺からの誘いは受けてくれるかい? 君が加わってくれれば、このチームはより強くなれる。もちろん、今すぐ決めなくても構わない。今後の君の人生を左右させちゃうからね。一旦ログアウトをして、ご両親に相談して決めて欲しい」

「ちょっと聞いてみますね」

 私は監督にそう言って、一時的に仮想空間からログアウトをしてから、パパとママに自分の気持ちをぶつけた。

「パパ、ママ、お願い。私、さっきの話を聞いているうちに、プロゲーマーになってみたいと思ったの。学校の勉強はしっかりやって、成績が下がらないように頑張るから! 私がパパとママに出来ることは限られているけど。それに、プロゲーマーになったからといっても、ゲームばかりすることはしない!」

「…………」

「…………」

「あと……私は現実だと歩くことも、走ることも、運動することもぜーんぶお医者さんから止められている。だから、仮想空間という特別な場所だと私がやりたかったことを実現出来るの! 現実だと動けない身体だけど、仮想空間ならどんなに遊んでも平気なの! 今の私にとっての仮想現実は、もう1つの現実であり私の特別な場所。それだけの理由なら、今まで通り家にいてゲームをやればいいじゃん。って言われた終わりだと思う。だけど、私を勧誘してくれた監督さんはとてもいい人で信用出来ると思ったし、こんなチャンス一生に一度あるか分からないの! だから、お願いします! 私、プロゲーマーになりたいです!」

「美咲。あなたの熱意は十分に伝わったわ。成長したね。あなたは、常に笑顔で接してくれていたけれど、どこか寂しげな表情をしていたわ。でも、VRゲームで遊んだあとは、楽しかったぁって言いながら、普段見せてくれる笑顔よりもとても輝いて見えていた。だから、美咲がプロゲーマーになりたいのであればママは全力で応援するから、あなたが進みたい人生を歩んでほしい」

「ありがとう! ママ!」

「なぁ。美咲。さっき美咲はゲームばかりしないとか言っていたけど、それは違うぞ?」

「え、そうなの?」

「そうだよ。例えゲーマーと言えどもプロだ。だから、これからの美咲はゲームに携わることでお金を稼ぐ職業になるんだ。今までは自分の心を満たす目的でゲームをやってきた。自分の好きな時間、自分の気持ち次第で。だけど、今度からは如何なる状況でもゲームをするんだ。チームのため、ファンのためにね。パパはあまりプロゲーマーのことは知らないけど、美咲が思っている以上に過酷な世界かもしれないが、美咲がなりたいと思ったのなら反対はしない。だけどね、いくつか約束して欲しい」

「な、何! どんな約束?」

「途中で投げ出さずに最後までやり遂げること。いつか美咲のことを応援してくれるファンが出来たら、その人たちのことを大切にすること。チームのみんなに迷惑をかけないこと。プロゲーマーとして頂点を目指すこと」

「が、がんばる! ありがとうパパ! 私、早速監督のところに報告してくるね!」

「あ、待って。まだ伝えることがある」

「ん? なぁに?」

「将来、美咲の思い通りに行かない場面にも出くわすだろう。だけど、プロを名乗る以上、どんなに苦しい状況になっても結果を残し続けなければならない。その時になったら、一旦休んで、一番最初にVRの世界に降り立った頃を思い出すといい。パパは美咲にとって、その場面が原点でもあるし出発地点だと思っている。だけどこれだけは言っておく、プロの世界はとても厳しい。天狗になっているとすぐに鼻を折られてしまう。だから、常に相手を敬い謙虚な姿勢を保ちなさい。パパもママと同じように全力で応援するから、自分で選んだ道を楽しみなさい」

「ありがとう! パパ! 行ってくる!」


「監督。お待たせしました」

「いえいえ。それで、ご両親はどうだった?」

「私がプロゲーマーになることを賛成してくれて、応援してくれると言ってくれました。なので、サディクションに加入させてください!」

「そっかぁ。ありがとう! では、今度、親御さん同伴で正式に加入手続きをしなければな」

「はい。でもその前に、監督に伝えなきゃことがありまして」

「ん? 何だい?」

「じ、実は私、1つ問題がありまして、生まれつき身体が弱くて、車椅子での生活を――――」

「ちょっと待ったぁ! そこから先は言わなくてもいい!」

「えっ……」

「失礼。少々、取り乱した。君も知っての通り、今はネット社会だ。ネット環境とVR機器があればどこでもゲームをし放題。大会が開催されても、都会や地方に遠征することもない。仲間内で集まると言えば、仮想空間の中だけ。素顔を明かすのも良し、素性を隠すのも良し、リアルで会うのもよし。まぁ、一番最後はお勧めしていないけどね。みんな色んな事情を抱えて生きているだろうから、俺はチームの仲間のプレイベートのことまで深入りはしていない。それに、君のことを一番良く知っているご両親が許可を出したんだ。つまり、君が抱えている問題はプロゲーマーになっても活動に影響がないこと。だから、必要最低限の情報だけを教えてくれればそれでいいと思っている」

「あ、ありがとうございます! では、これからお世話になります。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

「おう。こちらこそよろしくな! 詳しい日程は決まり次第連絡するので、ご両親にも伝えてください」

「はい! 分かりました! では、失礼します!」

 私は仮想空間からログアウトすると、涙を浮かべながらパパとママに抱きついた。

「パパ! ママ! 私のわがままを聞いてくれてありがとう!」

「これで美咲もプロゲーマーね。頑張りなさい」

「さてと、美咲の新しい門出を祝ってご馳走作るか!」

「やったー!」


 一週間後。

 ついにこの時が来た。

 監督とのやりとりで、すでにアバターは完成済み。

 アバターに関しては、一切の妥協をしないで細部までこだわったし、めちゃくちゃなわがままも言った。

 だけど監督は、そんな私のわがままを受け入れてくれて作ってくれた。

 逆に、「これから君の分身になるんだから、君が納得するまで何度でも作ってやるから、どんな些細なことでもいいから言ってくれ」と言ってくれてすごく嬉しかった。

 だから、完成したアバターを見た瞬間、泣いてしまった。

 私好みの可愛いアバターに仕上げてくれて、めっちゃ嬉しくて、感動したし、感謝している。

 でも、まだ迷っていることがある。それは、キャラクター名だ。

 これから正式な手続きをするのに、未だに迷っている。

 なかなか決心がつかないのだ。

 でも、もう監督に会う時間が迫っている。

 かと言って、待ち合わせの時間に遅れるわけには行かない。

 ふぅ、よし。アバター転送!


「監督! 今日は……宜しくお願いします」

「おう。時間通りだな。じゃあ早速、登録の手続きを済ませるか。ん? どうした? 浮かない顔をして」

「あ、いえ」

「何か、気になることがあれば言ってくれ」

「それは――」

 どうしよう。

 今まで使っていたキャラ名で活動するか、新しい名前で活動するかまだ決められない。

 キャラクター名は一度決めたら、もう変更は出来ないし。

 もちろん、今まで使っていたキャラ名は好きだし愛着もある。

「インシュリッド? 何を迷っているんだ? アバターか?」

 

 インシュリッド、か。

 聞きなれた名前だなぁ。

 そう言えば、この名前は私が初めてゲームをするときに名前を決めるのに迷って決められなくって、パパとママが考えてくれたんだっけ。懐かしいなぁ。

「インシュリッド? 体調でも悪いのか? だとすると別の日にするか?」

 ……あ、そっか。

 今までの名前はパパとママが決めてくれた名前。だけど、プロゲーマーになりたいって言ったのは私自身。

 それに、アバターだって私が思い描いた物を作ってくれた。

 だったら、新しい人生のスタートには自分で考えた名前じゃないと意味ないよね!

「ごめんなさい、監督。キャラクター名をどうするか迷っていて」

「何だ。そうだったのか。迷っているんだったら、また今度にするか?」

「いえ、大丈夫です! もう決めましたから!」

「そかそか。で、何にしたんだ?」

 この新しい名前とともに、私はプロゲーマーの道を進むんだ!

「セレスディア。 これが新しい私の名前です!」

「セレスディア、か。いい名前だ。それにいい表情をしている。吹っ切れたって顔をしているぞ」

「はい! スッキリしました!」

「よし! じゃぁ、手続きが終わったらメンバーに挨拶だ」


 一時間後。

「よおし、みんな集まっているようだな。新しいメンバーを紹介するぞ!」

「ふぅ。みなさん、初めまして! サディクションに新しく加入したセレスディアと申します! みなさんに負けないよう精一杯頑張りますので、よろしく願いします!」


 セレスディア。

 これが自分で決めた新しい名前。

 私はこの名前とアバターとともに、プロゲーマーの道を歩んでいく。

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