第31話 新たな餌食

 数分後、悲鳴を聞きつけたオーナーがやって来た。オーナーは落ち着いた雰囲気を持つ中年男性で、茶色の髪とやや疲れた表情を持つ。さらに、金色の眼鏡をかけており、細身の体型である。年齢は45歳から50歳くらいだろう。

「田中君!」

 オーナーがタイルに転がってるシェフに向かって叫んだ。後で被害者が田中健一ということが明らかになる。

 田中健一の死因は刺し傷による出血多量が考えられた。彼の体には明らかな傷があり、その傷からの出血が致命傷となった可能性が高い。

 大浴場のガラスドアの向こうは露天風呂、犯人は外部から侵入したんじゃないかと朝倉は推理した。内部に犯人がいないとは限らないが、多くの人間が行き来する内部から侵入するより、外部から侵入した方が殺人を達成しやすい。

 

 朝倉は大浴場で田中健一の死体を見つけた後、静かにその場に立ち止まった。彼は犯人が露天風呂から侵入したという事実を頭に置きながら、状況を推理し始めた。


 まず、大浴場の露天風呂からの侵入ということは、犯人が周囲の状況を熟知している可能性が高いと考えた。彼は外の山道からのアクセスを探り、犯人がどのようにして現場に近づいたのかを考えた。


 次に、田中健一の死因について考えた。死体を見て、彼が刺し傷による出血多量で死亡した可能性が高いことを推測した。しかし、犯人の目的や動機についてはまだわからないことが多い。

 夕食のときにクレームをつけていたあの老人が一番怪しい。

 今の時代はナイフがスマホみたいに至極当然に使われてる。市民は個々の権利と自己責任を重んじ、ナイフを使うことも含めた自己防衛や生活の一部として受け入れられている。


 街角では人々がナイフを持ち歩き、日常生活で使う様子が見られる。料理や工作などでナイフを使うのはもちろんのこと、自己防衛やスポーツの一環としてもナイフが活用されている。


 警察や治安機関も市民の安全を確保するために努めているが、基本的には個々の自己防衛や自由な行動を尊重する方針を取っている。犯罪が起きた場合も、適切な手続きと証拠に基づいた対応が行われる。


 この自由な社会では、ナイフを使うことが一般的な行動として受け入れられ、個々の責任と権利を重んじた生活が営まれている。


 また、暴力行為や殺人を抑制するために射殺は絶対に許されないルールが定められている。しかし、刺殺に関しては特定の条件下で許容されることがある。


 刺殺を行う際には、以下の条件が必要とされる。

1. 自己防衛や防衛のための行為であること。

2. 直接的な危険や攻撃があることが証明されること。

3. 刺殺を行うことで他の手段では回避できない危険があること。

 

 つまり、宿泊客の誰でもナイフを持っている可能性が高い。

 朝倉は手掛かりを探すために、田中健一の近くを探り始めた。その中で、彼のポケットからあるメモを見つた。それは急な打ち合わせのスケジュールが書かれているもので、朝倉はこのメモが事件に関連している可能性を感じた。


 一方で、露天風呂からの侵入やメモの発見など、まだ解決すべき謎が多く残っていた。朝倉は冷静に状況を整理し、さらなる手がかりを見つけるために行動を続けることを決意した。

 

 翌朝、午前6時

 七星館のオーナー、永田拓哉ながたたくやは頭の中で整理をはじめた。

 七星館には永田を含め11人の人間が滞在していた。しかし、1人殺されたので現段階では10人だ。さらにそれぞれの部屋に泊まってる人物と職業を脳内に表示させた。 


 ドゥーベ 島原茂友(管理アシスタント、原島)

 メラク 吉豊秀臣(派遣社員)、岬百合(小説家)

 フェクダ 明石智光(フリーター、垣内)

 メグレズ 加藤康夫(スナック経営者)、加藤あやか(職業欄記入なし)

 アリオト 山本正太郎(医師)

 ミザール 朝倉正次(公務員)

 アルカイド 永田拓也(オーナー)、小林美咲(フロント)、✕田中健一(コック)

 

1. 七星館の管理者:永田拓也(ながた たくや)

かつて垣内にイジメられていた。垣内の妻子を誘拐し、スタッフたちを殺させる

2. フロントデスクのスタッフ:小林美咲(こばやし みさき)

3. 調理人:田中健一(たなか けんいち)

4. 宿泊客 朝倉正次 (ジャギ)山梨県警

5. 宿泊客1:山本正太郎 クレーマー

6. 宿泊客2:加藤あやか(すずき あやか)

7. 宿泊客3:加藤康夫(かとう やすお)逃げようとしてガンカメラに殺される

8 垣内

9 原島 母親を加藤たちに保険金目当てに殺される 決定的瞬間を目撃され、朝倉と戦う。 


 午前7時、朝倉正次は殺害現場にやって来た。彼は山梨県警捜査部の捜査員だ。階級は警部補。スマホで上司である風間勘介かざまかんすけに連絡しようとしたが、『外部に連絡したら殺すぞ』と幻聴が聞こえた。(ステルス迷彩になった垣内の仕業)朝倉は鳥肌が立つのを覚えた。死霊だか生霊だか分からないがこの館には異形の者がいるようだ。

 

 朝食を終えた美咲はフロントに移動した。『小林』というネームプレートをスーツにしたふくよかな女性が電話応対していた。彼女が受話器を置いた。コックの田中が死んだ為に彼女が朝食を作った。

「警察には連絡されました?」と、美咲は尋ねた。

「それが、警察に連絡したら殺すって空耳が聞こえて怖くなったの」

「こんな状況じゃ仕方ないわよ」

「ねぇ、アナタってあの有名な岬百合なんでしょ!?」

 小林は急に話を変えた。

 岬百合は美咲が使ってるペンネームだ。

「梨田印刷は面白かったわよ」

 推理作家、岬百合のデビュー作『梨田印刷殺人事件』は、静かな田舎町で起こる複雑な殺人事件を描いたミステリー小説だ。


 物語は、町で有名な梨田印刷社の社長が何者かに殺害されるところから始まる。現場には誰もいないはずの無人島のような状況が広がり、岬百合はこの事件を取材するために町にやってくる。


 岬百合は事件現場を詳しく調査し、被害者の周囲には多くの謎や動機があることを突き止める。そして、梨田印刷社の社員や関係者たちの証言を聞きながら、事件の真相を解明しようとする。


 複雑な人間関係や裏の動きが絡み合う中、岬百合は巧みな推理と洞察力を駆使して事件の真相に迫っていく。最終的に、岬百合が犯人を見事に暴く展開が読者を引き込む。


「それはどうも……」

 美咲はペコリと頭を下げた。

 小林は一瞬、肩を叩かれたような気がして後ろを振り返った。だが、誰もいない。

「気のせいか……」(まさか、田中君の亡霊!?)

 

 朝倉和也は最近、死者の持ち物に触ると生い立ちが分かるスキルを身に着けた。北杜市に来る途中蟹坊主って妖怪に遭遇した。

 山梨県山梨市万力の長源寺には、以下の伝説が伝えられている。かつて甲斐国万力村にあった同寺の住職のもとを雲水が訪ねて問答を申し込み、「両足八足、横行自在にして眼、天を差す時如何」と問うた。答に詰まる住職を雲水は殴り殺し、立ち去った。その後も代々の住職が同様に死に、とうとう寺は無人となった。話を聞いた法印という旅の僧がここに泊まったところ、例の雲水が訪ねて来て同様の問答を仕掛けたので「お前はカニだろう」と言って独鈷を投げつけると、雲水は巨大なカニの正体を現し、砕けた甲羅から血を流しつつ逃げ去った。以来、寺には何も起こることはなくなったという。このカニの大きさは2間四方とも、全長4メートルともいわれる。


 数日前、朝倉和也は、重要な情報を手に入れるために蟹坊主のアジトに潜入していた。周りは敵の手で満ち溢れ、彼は一人で敵に立ち向かう覚悟を決めていた。


 激しい戦闘が繰り広げられる中、朝倉は銃撃を交わしながらも巧みな身のこなしで敵を翻弄する。蟹坊主の手下たちは朝倉の技術に驚き、それでも蟹坊主は冷静さを保っていた。


 最終的に、朝倉は蟹坊主との一騎討ちに持ち込む。激しい打撃と剣術が交錯する中、朝倉は過去の修業と経験を駆使して蟹坊主を追い詰めていく。彼の身体能力と戦術の組み合わせが、蟹坊主を圧倒していく。


 最後に、朝倉は巧みな一撃を放ち、蟹坊主を倒すことに成功する。その瞬間、アジトは静まり返り、朝倉の勝利の歓声が響く中、彼は深い満足感と共に任務を果たしたことを感じる。


 蟹坊主を倒すと不思議な力がみなぎるのを感じた。 

 朝倉は殺害現場にやって来た。遺体には毛布が被せられてある。オーナーが被せてくれた。朝倉はおそるおそる毛布を剥ぎ取った。白目を剥いた田中の遺体がそこにはあった。指紋がついたらマズイからいつも持ち歩いてる軍手をしてある。右腕の辺りを触れた。膨大な情報が脳内に入ってくる。

 

 田中健一は、苦労を重ねながらも夢を追い求めていた。彼は家族の期待を一身に受けながら、コックとしての道を歩んできた。若い頃は厨房での仕事に悩み、給料も少なくて生活が苦しかった。しかし、彼は料理への情熱を失わず、厳しい状況の中でも技術を磨き続けた。


 七星館に就職する前は、地元の小さなレストランや居酒屋で修業を積んでいた。そこでは遅くまで働き、厨房の中での緊張感や料理のテクニックを身に付けていった。同時に、お客様とのコミュニケーションやサービス精神も重要だと学んだ。


 田中健一はその経験を活かし、七星館での仕事に臨んだ。新しい環境での挑戦はあったが、彼の努力と情熱は周囲から認められ、次第に評価を得ていった。彼の苦労話は、料理人としての成長と信念を感じさせるものだった。


 午前11時

 フェクダの部屋で明石智光はボーッとしていた。また雨が降り出した。

 フェクダはひしゃくの水汲みの側から3番目に位置する。北斗七星の星は、ポラリス(現在の北極星)に近い方から順にバイエル符号をつけられたため、3番目のγが与えられた。


 回転するガスが周囲に円盤状の雲を形成している。非常に速い自転速度が星を取り巻く回転するガスを生み出す原因となっている。この星を取り巻いている水素ガスによりスペクトルに水素の輝線が見られ、そのためにスペクトル分類に輝線 (emission line) を示す接尾記号eがつけられる。接尾記号eのつけられる星は大概がB型のスペクトルを示し、A型のスペクトルを示すものは稀で、100個ほどしか見つかっていない。


 この恒星はおおぐま座運動星団と呼ばれるグループに属している。北斗七星の星は、α星、η星以外はこの星団に属している。この星団に属する星は、宇宙空間において、同じ方向に動いているとみられている。 


 明石は、ある日突然、仕事先で長倉という男から連絡を受けた。電話の向こうからは冷たい声が聞こえ、長倉は田中健一を殺すように依頼してきた。


 最初は驚きと困惑が入り混じったが、長倉はその背後に圧倒的な力を持つ人物であり、断ることも難しい状況だった。明石は葛藤の中で、なぜ田中を殺すように依頼されたのか、そしてどう対処すべきかを考える。


 長倉との会話では、田中に関する過去の出来事や情報が明らかになり、その裏には複雑な思惑や陰謀が渦巻いていることが示唆される。明石は自分の信念と行動を見つめ直した。


 明石はラスボス、ビリー・ザ・キッドに苦戦していた。ビリー・ザ・キッド(Billy the Kid、本名:ウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア(William Henry McCarty, Jr.)、1859年11月23日? - 1881年7月14日) は、アメリカ合衆国・西部開拓時代のアウトロー、強盗。


 ニューヨークに生まれ西部のニューメキシコ州で育ったと言われる。生年月日には、パット・ギャレット著『ビリー・ザ・キッド、真実の生涯』に記された1859年11月23日説のほかに、9月17日説と11月20日説がある。出生地についてもニューヨークのほかにオハイオ州、イリノイ州、カンザス州、インディアナ州、ニューメキシコ州、ミズーリ州など諸説ある。家族は母のキャサリーンとジョセフという兄(腹違いの弟という説もある)が1人いた。父親は研究者の間でも諸説あり、よく分かっていない。


 出生名はウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア(William Henry McCarty, Jr.)で、母の再婚によってヘンリー・アントリム(Henry Antrim)に変わった。州知事のルー・ウォーレス(『ベン・ハー』の作者)に恩赦を求めた手紙の中では、「牧場では自分は『キッド・アントリム(Kid Antrim)』と呼ばれており、アントリムというのは義父の姓である」と述べていて、雇い主のジョン・タンストールが故郷に残した手紙の中にもその名前が散見される。


 アウトローとなり放浪中にも様々な偽名を名乗ったようであるが、最終的にはウィリアム・H・ボニー(William H. Bonney)と名乗るようになり、下記の墓石にも刻まれて後代広く知られるようになり、数々のビリーを描いたフィクションの中でも本名であると扱われた。


 実際に家を出たのは母が死んだ15歳の時、最初の殺人を犯したのは17歳の時である。


 死ぬまでに21人を殺害した(メキシコ人やインディアンは含まない)とする説もある(墓碑銘に記されている)。


 アリゾナやテキサス、さらにメキシコ国境で牛泥棒、強盗や殺人を重ねた。


 リンカーン郡でイギリス移民ジョン・タンストールの売店の用心棒となったが、商売敵との縄張り争いが拡大し、リンカーン郡戦争と呼ばれる騒動に発展、過失で4人を射殺し、1880年12月に友人でもあった保安官、パット・ギャレットによって仲間とともに逮捕されたが、1881年4月18日に刑務所を脱走した。この事件が『ニューヨーク・タイムズ』で報じられ、彼の名前が知れ渡るようになった。


 1881年7月14日、ニューメキシコ州フォートサムナーでギャレットに射殺された。当時ビリーは丸腰で、寝室から食べ物を取りに部屋を出たところを闇討ちされたと言われている。寸前に発した最期の言葉はスペイン語の「誰だ?(¿Quién es?)」とされている。だが死の状況に不自然な点も多く、後に自分こそがビリー・ザ・キッドだったと名乗り出た人物などもおり、生存説も根強く残っている。


 1882年にギャレットが出版した『ビリー・ザ・キッド、真実の生涯』によれば、ビリーは丸腰ではなかったとされる。また1906年、ギャレットは『無法者の物語』の著者エマソン・ハウにビリーの死の状況について語っている。その話によれば、ギャレットはビリーが銃を構えたので正当防衛のために射殺したと主張している。


 広く知られている、伝統的なビリー・ザ・キッドは21人を殺し、21歳で殺された左利きの伝説的な早撃ち少年ガンマンというものである。


 人気のある人物だけに、鏡で銃を抜く敵を見て振り返らずに撃ち倒した、などの虚実入り混じった銃の腕前を示すエピソードは多い。


 実際、射撃と騎乗に関しては天賦のものがあったようで、馬を疾駆させながら杭に止まった鳥を次々に撃ち落としたり、空中に投げ上げた空き缶が地上に落ちる前に6発、弾倉が空になるまで撃ち当てることができた、また、様々な体勢から銃を撃てるように訓練していたといった技術を賞賛する同僚のカウボーイの証言や世話になった家族の前で見事なロデオの腕前を見せた証言が残されている。


 多くの目撃者がいた一例を挙げると、ビリーがサムナー砦に潜伏していた時、ビリーがいたサロンに流れ者のカウボーイのジョー・グランドがやって来た。ジョーは喧嘩っぱやく自慢の真珠のグリップの拳銃を抜きたがる危険な男だったが、ビリーはまず持ち味の人当たりの良さを発揮してジョーに拳銃を見せてくれるように頼み、残弾を確かめて初弾が空のシリンダーに当るように回しておいた(または弾を抜き取ってしまっていたとも)。やがて口論になり、ビリーがサロンの入口に向かうとジョーはビリーの背に向けて引き金を引いた。撃鉄が空のシリンダーを叩く音を聞くと、ビリーは凄まじい速さで振り返りながら抜き撃ちをし、ジョーの眉間を3発撃ち抜いた。何事もなかったかのように鼻歌を歌いながら去っていくビリーの後に残された死体を確かめると、ほぼ同じ場所を撃ち抜いた弾痕はコイン1枚分ほどの大きさしかなかったという。

 

 明石は何度も挑戦するものの、ビリー・ザ・キッドの巧みな戦術に対抗するのが難しい状況だった。


 その時、明石は長倉から連絡を受ける。長倉は裏技を知っており、それを教える代わりに小林美咲というスタッフを殺すように依頼してきた。


 明石は葛藤の中で、この依頼を受け入れるかどうかを考える。一方で、ビリー・ザ・キッドを倒すためには裏技が必要不可欠だという現実もあり、彼は最終的に依頼を受け入れる決断をする。

 明石は裏稼業仲間と一緒に、ビリー・ザ・キッドを倒すことに賭けることになった。賭けの内容は、ビリー・ザ・キッドを最初に倒した者が10万を手にするというものだった。


 仲間たちはそれぞれの立場や信念を背負いながら、ビリー・ザ・キッドに挑む覚悟を固めていた。彼らはそれぞれのスキルや戦術を駆使して、ビリー・ザ・キッドに立ち向かう。


 明石は秘密裏に手に入れた透明人間になる魔法を使い、ステルスモードに入った。彼は魔法の力で周囲の人々に見えなくなり、行動を隠密に進めることができるようになった。


 昼食後、小林美咲を始末するため、明石は慎重に行動する。ステルスモードの恩恵を活かし、警戒心を持たれることなく小林の近くに接近する。


 一瞬の隙を突いて、明石は魔法の力を使って小林を無力化する。彼の行動は瞬時に行われ、周囲の人々には何も起きていないように見える。


 小林は突然吐血し、その様子に美咲は驚愕した。彼女は周囲の状況を把握し、この異変について考え始めた。その時、美咲の頭に浮かんだのはハデスという言葉だった。


 ハデスとは、コロナよりも強力な感染症であり、その存在は裏社会でも知れ渡っていた。美咲は激しい恐怖と不安を感じながらも、冷静さを保ち、状況を分析しようとする。


 周囲の人々も混乱し、パニックが広がる中、美咲はハデスによる感染が広がることを防ぐために行動を開始する。彼女は迅速に対応し、周囲の人々を守るための手段を模索する。


 オーナーの永田は、各宿泊客を隔離するよう指示を出した。

 朝倉正次が「皆がバラバラになったら犯人の思う壺だ」と反対したが、永田は「コロナの時を忘れましたか? 数え切れない人間が亡くなりました。ハデスはコロナと違ってワクチンが効きません。三密は避けるべきです」と跳ね除けた。

 部屋ごとに鍵をかけ、誰も出入りさせないよう厳重に監視を行った。


 新たな惨劇が起きてるさなか、原島はドゥーベの部屋で暗い過去を振り返っていた。ドゥーベはβ星とともに指極星として用いられる。この星とβ星とを結んだ線分をα星の方向へ伸ばすと北極星へ、β星の方向へ伸ばすとレグルスへと導かれる。


 4つの星からなる連星系で、黄色巨星で2等星のA星と白色の5等星のB星とは23au離れた距離を44年かけて周回している。また、その400倍離れたところにもう一つの伴星があり、これもまた連星系を成している。


 北斗七星の7つの星のうち、η星とこの星以外の5つの星はおおぐま座運動星団に属している。


 5年前……加藤康夫と加藤あやか夫妻は、華やかなマンションに住み、贅沢な生活を謳歌していた。彼らの周囲には、成功と富に満ちた空気が漂っているかのように見えた。しかし、その裏には冷酷な陰謀が渦巻いていた。


 保険金殺人―そこに彼らの野望が潜んでいた。彼らは巧妙に計画を練り、自らの死を偽装することで莫大な保険金を手に入れようとしていた。その手段として選ばれたのが、原島の母親だった。彼女は無垢な存在でありながら、彼らの野望の犠牲者としての道を歩むこととなる。


 原島は母親を守るため、孤独な戦いを挑む。しかし、その戦いは絶望と欺瞞の闇に取り込まれていく。加藤夫妻の残忍な計画は彼らを支配し、その影響は家族の絆にまで及んだ。


 保険金殺人事件は、冷酷な計画と冷血な欲望によって引き起こされた悲劇の序章だった。裏切りと陰謀が交差する中、家族の絆は脆くも崩れ去り、愛は虚構の中に消えていく。


 原島の母親は、絶望の淵に突き落とされた。加藤康夫と加藤あやか夫妻の保険金殺人の駒として利用され、最期は冷酷な手によって命を奪われた。彼女の叫び声は闇の中に消え去り、無慈悲な現実がその身を襲った。家族の絆も愛も、すべては虚しく崩れ去り、彼女はただ一人、冷たい死に迎えられた。


 原島の母親は、冷たい床に縛り付けられ、恐怖に満ちた目で周囲を見回していた。彼女の身体には無数の傷があり、血が滴る音が部屋に響き渡っていた。加藤康夫と加藤あやか夫妻は、冷酷な笑みを浮かべながら彼女に近づいてきた。


「さあ、話してくれないか?金庫の在り処を……」と加藤康夫が冷静な声で言った。


 彼女は黙っていたが、彼らの手によって次第に拷問が始まった。彼女の身体は激しい痛みに襲われ、絶叫するものの、その苦しみは彼らにとっては快楽のように映った。

 原島の母親は、最後の一息をもがきながら、冷酷な現実に直面していった。彼女の心は愛する家族への思いで満ちていたが、身体は拷問によって限界を迎えていた。最後に見たのは、彼女の目から滲む悲しみと絶望だった。


「勇気…ごめんね…」彼女の声は弱々しく、言葉に詰まりながらも、最期の言葉を伝えようとした。


 彼女の息が荒くなり、意識が徐々に遠のいでいく中、彼女は心の中で家族への愛と幸せな日々を思い出していた。そして、最後の瞬間には、穏やかな微笑みを浮かべて、静かに息を引き取った。その死は、冷酷な状況の中にも、彼女の純粋な愛と勇気を示すものとなった。


 原島は島原という偽名で七星館に泊まっていた。垣内も一緒だ。


 原島は闇夜に包まれた七星館の廊下を静かに進んでいた。彼の心は憎悪と復讐の念で満ちていた。母親を苦しめ、最期まで冷酷に扱った加藤康夫と加藤あやか。彼らを見つけ出し、彼らが行うであろう悪行を阻止するために、原島は自らの手で彼らを止めなければならないと感じていた。


 廊下の向こうから漏れる微かな声が聞こえてきた。原島はそっと足音を消して進み、加藤康夫と加藤あやかの姿を見つけた。二人は陰険な笑みを浮かべながら、悪巧みを企んでいた。


 原島の手は決意に満ちていた。彼は静かに近づき、影から二人を見つめた。彼らが気付くことなく、原島は一瞬の隙を突いて、彼らに襲いかかった。闘いの中で彼の怒りと悲しみが爆発し、加藤康夫と加藤あやかは最期の時を迎えた。


 その深夜の一瞬、原島は自分の手で正義を成し遂げた。しかし、彼の心には母親の亡霊が刻まれ、復讐の果てに得られたものは何もなかった。


 

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クライムクエスト 10万以上 横溝   鷹山トシキ @1982

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