破る

愛工田 伊名電

 

 彼とはじめて会ったのが28年前の8月頃、ひどく蒸し暑い深夜だった。父方の祖母の家に帰省して1日目の夜のことだった。


 私の下腹部に、裂くような痛みが走り、叫びと共に私を叩き起こした。寝る前祖母に貰ったハーブティーの効能は消え去り、頭の中は恐怖と不明瞭でいっぱいだった。呻きながら、叫びを押し殺しながら、肩で息をしながら、目線を痛みの元に向けた。


 友達と沢山悩んで買ったショートパンツに、可愛いパステルの水色の上に、ちょうど私のアソコの筋のあたりの場所に、血が滲んでいた。


 すぐに祖母の部屋に行って、知らせた。祖母が私の話をある程度聞いたところで、祖母が明日の昼は産婦人科に行こう、と約束してくれた。


 女性の先生が診てくれたから、安心した。長い検査の結果、『処女膜が破られている』ことが分かった。


 男性器でも指でもなく、『刃物で切られた』ように、直線的に破られていた。祖母も、父も、私も、その場の皆が信じられなかった。


 祖母の家の玄関、ガレージ、庭の3つの監視カメラ全てを確認したが、不審な人物は1人として見つからなかった。


その日の夕方、父は家の隣に昔からある古い倉から巻物を持ってきた。筆でグニャっと書かれていたからよく分からなかったが、1単語だけ何とか読めた。「妖」と書いてあった。


 父はその巻物に似合わぬピンクの付箋が挟んである所まで開いて、私に教えた。「女壊(めかい)」といって、包丁を持って不気味に笑う鬼の見た目をしていた。


 女壊はこの土地にだけ出る妖怪らしい。女壊は若い娘のいる家に、深夜、どこからともなく入り込み、娘の処女膜を手に持った包丁で裂く。次の深夜も家に入り込み、娘のアソコに指を突っ込んで広くする。その次の深夜も家に入り込み、女壊が持つ男根が娘を貫く。その数日後、娘はどこかへ失踪する。そしてその翌年、娘の家の玄関前に、土と、草と、小石と、女壊の体液で酷く汚された娘の死体が放り出される。この土地では、それが何十年周期で繰り返されてきたそうだ。


 強い性的興奮を覚えた。


 祖母と少し話し合い、父の運転する車に乗ってそそくさ帰った。今年で私の愛娘も14才になる。父には申し訳ないが、夫の地元で過ごすつもりだ。

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破る 愛工田 伊名電 @haiporoo0813

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