第12話 担任教師がクズでした。二刀流の生徒会長。ヒロイン以外すら修羅場!

「佐藤君、貴方はちぇりーなのかしらァ?」

「は?」


 担任の日ノ丸節気――通称セツキちゃんと親しまれる女性教師であり、学校中の男子生徒が密かに憧れる色気のある二十代前半の美女。

 髪色は黒で、ポニーテールになっており健康的な印象だ。それでいて服装も地味でまさに先生と言った感じだ。

 しかし、隠し切れない色気がある。魔性の雰囲気とでも言うのか。


「な、何の話ですか?」


 俺はそんなセツキちゃんに問いかける。

 授業の準備――その手伝いのために俺は同行していた。

 なんでも、必要な機材があるとかで、よく分からない物置部屋に来ている。


「恋愛経験の話ね」

「あんまりないですけど……。でもまぁ、今は彼女いますね」

「あらあら、へぇ。そうなのねェ」


 そんな会話をしながら、セツキちゃんが扉の鍵を閉めた。

 カチッ、という音が静かに響く。

 いやまてどうして閉める?


「彼女を、自分色に染めたいと思ったことはあるかしらァ?」

「は、はぁ……?」

「イヒッ! そう、そうなのねェ。やっぱり、貴方はよねェ?」


 セツキちゃんの顔が、火照っているようだ。

 うっとりとしたような表情で、恍惚のヤンデレポーズをしている。

 どうしたのだろうか、病気かな?


「先生、本当に大丈夫ですか? さっきから様子が変ですけど……」

「これが素だから大丈夫よォ」

「……」


 いやいや、待って。どういうこと?

 先生は明らかにヤバイ人のオーラを出している。そしてこれが素である、と。

 俺が大丈夫じゃないやつですね、コレ。


「私はね、この日のために教師になったのよォ」

「ん?」

「純粋無垢な生徒を、調教――ゴホンゴホン、自分の色に染めていくの」

「……」

「そーしーてェ! 卒業式と同時に美味しく頂くのよ」


 俺は壁ドンされていた。

 物凄い早足で詰め寄り、勢いよく壁に手を出して俺の逃げ道を塞いでいる。

 これなら、桜ノ宮春名に台パンされた方が幾分かマシとすら思う。


「貴方はね、その記念すべき第一号なのよォ?」

「教師が生徒に手を出したらダメでしょ」

「手を出すのは、卒業した瞬間だからセーフなの。今はただじっくりと染めたいだけなのよォ? 大丈夫、天井のシミを数えていれば終わるからァ」


 この人あれだ、ダメな人だ。

 質の悪いことに、直接的な犯行は卒業してからと決めているらしい。確かにそれなら犯罪ではないし、教員としても問題はない。

 道徳的にアウトなだけで。


「学校に言いますよ? 冗談なんですよね?」

「……」

「分かったらどいてください。俺、もう教室に戻るので」

「校長、教頭、隣のクラスの男性教員」

「え?」

「私なんて可愛いものよォ? 知ってる? うちのクラスの田中さん、今朝なんて教頭の車の中で必死にしゃぶって――」

「やめてやめて! クラスの女子のそんな生々しい話聞きたくないよ!」


 てか何でアンタがそれを知ってるんだ。

 田中さん、パパ活とかする子だったんか……。マジで知りたくなかった。


「佐藤君、私はただ自分色に貴方を染めたいだけなのォ」

「最悪のケースを例にあげればイケるとでも?」


 セツキちゃんが舌打ちした。

 この学校ヤバくないか?

 イジメとかは全然ないけどパパ活で溢れてる。これが現代の闇……。


「校長なんて、12660人くらいは食ってるでしょうねェ」

「偉人かな?」

「どうしてもダメかしらァ?」

「雪ヶ原冬揺に殺される覚悟があるなら、どうぞ」

「……」


 俺がその名前を出した瞬間――セツキちゃんの顔が青くなった。

 新任教師でも怖いようだ。


「あ、あの子が、あの風紀委員が彼女なのォ?」

「いや、違いますね」


 雪ヶ原冬揺もそうだが、梅雨裏もキレるだろうし、桜ノ宮春名とか何をするか分からない。夏涼先輩に至っては、知られたらこの教師は人生からドロップアウトだ。


「桜ノ宮春名、海梨夏涼、紅葉秋歩、雪ヶ原冬揺をキープして、梅雨裏を彼女にしてるから全員を敵に回しますよ?」

「……むしろ、貴方が女の敵じゃないかしらァ?」


 なんか、逆にドン引きされた。

 セツキちゃんの顔が引きつっている。予想外にライバルが多くて困っているのか?

 そもそも、何で俺を狙うのか。


「俺以外を口説いてください。彼女いない奴なら、喜ぶのでは?」

「佐藤君がタイプなのよォ……。ハァハァ」

「落ち着け、深呼吸しろ」


 思わず、タメ口になってしまう俺。この人ヤバすぎる……。


「私は保健体育には自信あるのよォ? 佐藤君もお年頃だし、興味あるでしょう?」

「桜ノ――梅雨裏で事足りるので、結構です。あと、アンタ現代文担当だろ」

「現代の闇も担っているのよォ」

「反面教師の鑑すぎんだろ……」


 俺がどうやって逃げるか考えていると、扉がノックされた。

 誰か生徒でもやって来たのだろうか?

 セツキちゃんが扉に向かう。誰だか分からないが、マジでナイスタイミングだ。


「あらあら、誰かしらァ?」

「日ノ丸先生、僕です。生徒会長の僕ですよ。出てきてください」

「……厄介ねェ」


 扉の向こう側にいたのは、どうやら生徒会長らしい。

 流石のセツキちゃんも、諦めたようだ。

 この学校で唯一の良心かもしれないな、生徒会長……。確かイケメンだったような気がする。三年の人だ。


「私は授業があるから、失礼するわァ。佐藤君も遅れないようにねェ」


 セツキちゃんが速足で部屋から出た。

 この後、現代文の授業を真面目に受ける気になれない……。

 早退しようかな……。


「やぁ、無事だったかな?」

「え、あ、はい」


 部屋に入って来た生徒会長は、マジで救世主だった。

 凄まじいイケメンなので思わず恐縮してしまう。なんというか、生物として格上だと感じさせる凄みがある人だ。

 こんな男に生まれたかったぜ……。


「君がついて行くのを目撃してね。あの教師には違和感があったから、余計なお世話かもしれないけど、様子を覗きに来たわけさ」

「ありがとうございます。助かりまし――」


 俺がお礼を言おうとすると、カチッという音が響いた。

 扉の鍵が閉められた。


「授業を受ける気にもなれないだろう? 少し、僕と話でもどうかな?」

「は、はぁ? 良いですけど、鍵」

「あの教師が戻って来たり、他の誰かが来た時の対策だよ。サボりだからね」

「なるほど」


 それはそうだ。とても納得のできる理由だ。

 セツキちゃんの後だから、よからぬ想像をして警戒してしまった。

 冷静に考えれば男同士だし、鍵くらい問題ないだろう。


「人違いなら申し訳ないのだけど、君は秋歩ちゃんの応援演説をする予定の佐藤君で合ってるかな?」

「俺は佐藤四季ですけど、応援演説はまだ決まってません」


 どうやら秋歩が既に話をしていたらしい。

 それで俺を見かけて、違和感に気が付いてくれたわけだから、今回ばかりは秋歩に感謝するべきかもしれない。


「……個人的には、秋歩ちゃんよりも君が欲しいかな」

「ん?」

「佐藤君が欲しい。僕はどんな美少女よりも、君が欲しくなってしまったよ」

「生徒会のメンバーとして、ですよね? そうなんですよね?」


 生徒会長は、目をそらした。

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