第10話 裏アカ風紀委員壊れる。桜だけは変わらず咲く。いつまでも修羅場!

「こっわ、何これ怖い」


 俺は修羅場をスルーしながら、スマホを眺める。

 雪ヶ原冬揺の裏アカだ。

 凄まじい早さで更新されており、その内容がヤバイ。とにかく怖い。


『許さない許さない許さない許さない』

『嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき』

『梅雨裏ちゃんが動いただけで、負けた。悲しい悲しい悲しい悲しい!』

『悔しい悔しい悔しい。殴る殴る殴る殴る』

『四季を殴る』


 結論が四季を殴るなの酷い。通常運転とも言えるが……。

 俺がスマホを見て震えていると、梅雨裏と桜ノ宮春名が覗いてくる。


「これは四季君大変だ。雪ヶ原さんヤンデレだったんだ。おもしろー」

「四季、これ大丈夫? 刺されないでね?」

「お、おう……」

「ボクに」

「ボクに!? お、おい梅雨裏、変な冗談言うなよ怖いだろ」


 桜ノ宮春名は面白がっているが、梅雨裏に関しては嫉妬しているらしい。

 雪ヶ原冬揺がヤンデレ気質なことも驚きだが、梅雨裏の方が怖い。なんか声がマジだった気がする……。


「これのどこに嫉妬の要素があるんだ……」

「四季が雪ヶ原さんの裏アカばかり見てること。ボクに構ってほしいな」

「私は正妻系セフレ候補だから、嫉妬なんてしないよ。四季君を信じてるから」


 ……ダメだ。梅雨裏と桜ノ宮春名が同時に喋ると、脳内で処理できない。この二人は個性がつよつよ過ぎる。

 梅雨裏は彼女だからまだ分かるが、桜ノ宮春名は言ってることがヤベェ。


「正妻系セフレ候補って、つまりは都合の良い女なのでは?」

「私、良い女だから。凄いでしょ? うっふん」


 えっへんみたいな顔で、桜ノ宮春名がそんなこと言った。やっぱりアホだ。

 どうして俺はコイツが好きなんだろうか?

 もう、梅雨裏とゴールインした方が良いだろ絶対……。何故なんだ俺。


「むぅ……。四季ってば、今度は桜ノ宮さんばっかり」

「痛い」


 梅雨裏が俺の頬をつねってきた。

 俺の一番が桜ノ宮春名なのがバレてるから、視線の意味を感じたのだろう。


「桜ノ宮さんはそれでいいの? ボクが彼女になってるのにさ」

「……? 肩書に意味あるの? 四季君は私が好きなはずだから、関係ないよ」

「――っ」


 梅雨裏がイラついた様子で、桜ノ宮春名に問いかけた。

 しかし、自分を好いているに違いない、という桜ノ宮春名の謎の自信に梅雨裏が黙ってしまう。

 桜ノ宮春名が言ったことは、事実だ。でもそれを本人は知らない。ただ自信家で、マイペースな願望を言葉にしただけ。

 だけど、梅雨裏は唇を噛んでいる。言い返せない。実際にそうだと知ってるから。


「彼女って言うけど、四季君に愛情表現されたことあるの?」

「……っ」

「私はいつも求愛行動だけど、ドヤっ」

「ウッざいなぁ……桜ノ宮さん。何でこんな子が」


 普段の梅雨裏からは信じられないような、暴言だった。マジで怖い。

 でも言いたくなるのも分かる。

 あのドヤ顔はとてもウザかった……。俺でもイラッとする。


「四季君は例えば、彼女にどんな愛情表現をする?」

「え……」


 桜ノ宮春名の質問に、俺は戸惑う。

 考えたこともなかった。恋人になってからの愛情表現か……。

 無難な考えだと――手をつなぐとか、キスをするとか、その先とか!


「やっぱり定番は、壁ドンとか台パンだよね!」

「その二つは大分違くないか?」


 いい雰囲気で台パンしてくる彼氏、嫌すぎない?

 頭大丈夫ですか桜ノ宮春名。大丈夫じゃなかったね桜ノ宮春名。

 どうやら壁ドンがご所望らしかった。


「残念だけど、彼女はボクだから。桜ノ宮さんがされることは無いよ」

「私がするんですけど?」

「えぇ……」


 梅雨裏が嫌味を言ったが、桜ノ宮春名がマイペースすぎて気が付いてない。

 お前がするんかい!

 たぶん、悔しいと台パンするタイプなんだろな、桜ノ宮春名……。


「梅雨裏さんは壁ドンとか、しないタイプでしょ?」

「そ、そうだね。ボクはそんなのしないよ。普通に四季を堕としてみせる」

「やっぱり、部屋に閉じ込めるタイプ。梅雨裏さんはメンヘラちゃんだー」

「ウッざいなぁ」


 梅雨裏の方はライバル意識で、ケンカを売っている。

 でも桜ノ宮春名は別に煽ってるわけでも、ケンカするつもりもない。

 この二人、相性最悪なのでは?


「四季君も大変だね。ヤンデレとメンヘラばっかりで」

「主に大変なのも、苦労が絶えないのも、お前だけどな」

「正妻に苦労は付き物だよ。私、良い女だから。分かってるから。我慢できるよ!」

「違う違うそうじゃない。俺が、苦労してるんだよ!」


 今の文脈で、なぜ自分の方が苦労が絶えないと解釈できるのか。


「でも面白いね。梅雨裏さんって、可哀想」

「は……?」


 桜ノ宮春名の言葉に梅雨裏がキレた。本気で怒っている。

 今にも殴り合いになり兼ねない雰囲気だ。


「彼女なのに、これから堕とさないとダメなんだ。私ならいちころなのに」

「……やっぱり桜ノ宮さんは性格悪いよ。だから友達いないんじゃない?」

「――っ! 梅雨裏さんが言ったらダメなこと言った! 私は友達を厳選してるだけだし? 種族値、個体値、努力値を考えてるだけだもん!」

「え、なにポケモンの話?」


 思わずツッコミを入れてしまう俺。あまりにも酷い言い訳だった。

 どう考えても可哀想なのは桜ノ宮春名だった。

 ぼっちだもんな、お前……。


「ボクは友達も、彼氏も、クラスでの人気も、全部あるけどね!」

「でも四季君の心だけは無いんだ。おもしろー」

「はぁ?」

「なに?」


 遂にケンカに発展してしまった。

 原因が俺なだけに、止めるのも難しい。どうしようコレ……。


「仲良くしようぜ」

「「……」」


 俺の言葉を聞いて、二人は顔を見合わせる。

 そして――


「四季君が教室で、3pを提案してきた!?」

「違う、そうじゃない」


 桜ノ宮春名はもう本当にちょっと黙っててほしい。


「四季、仲良くなんてできないよ。他の三人ならともかく、桜ノ宮さんだけは無理」

「私も仲良くできない。だって仲良くできるなら、既に友達がいるはずだから!」

「そうですね」


 もう肯定するしかない俺。

 彼女ができたはずなのに、今までよりも修羅場になってないか?

 完全に悪化している……。


「もう授業始まるし、お前ら解散!」


 俺は思考を放棄した――

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