第4話 生徒会役員様が来た。またも修羅場。凍てつく風紀委員が来る!

「やっと昼か……。長い、長かった」

「四季ってば、オリエンテーション中も心ここにあらずって感じだったね。どうしたの?」

「放課後がヤバいんだよ……。遺書を残すべきか、全力で逃げるべきか、悩む」

「それ本当に放課後の話なの!?」


 梅雨裏が、心配そうな顔で俺を見ていた。マジ天使。

 もうアイツらではなく、梅雨裏と付き合いたいまである。

 だが男だ。くそぉ!


「あ、そう言えば……。梅雨裏がお昼に誘ってたな」

「……? 桜ノ宮さんのこと? 来るかなぁ、四季にフラれたわけだし」

「空気なんて読まないし、相手の事情も考慮しないのが桜ノ宮春名だ。絶対来るぞ」


 問題なのは、桜ノ宮春名じゃない。

 夏涼先輩も放課後までは来ないだろう。

 いや、二人ともヤバイ奴だけど。それでも、残りの二人の方が問題なのだ。


「はぁ……」

「四季も大変だね。でも、あんまり修羅場ばかりだと、風紀委員が来ちゃうよ?」

「あの子が来たら余計に修羅場だ」

「え、そうかな? 雪ヶ原さんは真面目な印象なんだけど」

「風紀委員はあの子以外もいるし、来ないことを祈る。マジで」


 ちょうど、オリエンテーションで係員を決めたところだ。

 俺と梅雨裏は保健委員だった。

 そして去年から、風紀委員にいたあの子は、今年もそうだろう。


「というか、今更なんだが、学校で昼食べる必要あるか?」

「ないよねぇ……。だって、ボクも四季も、帰宅部だもんね!」

「何でお弁当作ってきたんだよ」

「いや癖でさ。四季も本当はお昼忘れたんじゃなくて、帰りに食べる予定でしょ?」

「ご明察だな。桜ノ宮春名が来る前に帰るか」


 オリエンテーションが終わった今、部活がない奴は帰宅する。

 桜ノ宮春名は多分、今日は普通に授業もお昼休憩もあると勘違いしてるのだろう。

 このクラスは決め事が早く終わったので、他所のクラスよりも早い放課後だ。急いで学校から去れば、夏涼先輩や、桜ノ宮春名に捕まる可能性は低い。


「佐藤、この秋歩あきほ様が来てあげたわ!」


 俺と梅雨裏が話していると、クラスの扉の前に奴が来た。聞き覚えがある声。

 自分のことを様付で呼ぶ、頭のおかしな女子生徒。

 だが悲しいかな。この子は学校でも、特にこの学年では絶大な影響力がある。端的に言えば、スクールカーストの頂点である。


「よし梅雨裏、一緒に帰るか。今帰ろう、さぁ帰ろう」

「え、四季。紅葉さんが呼んでるよ? 無視したら流石にヤバイよ。あの子その」

「知ってる。だが、俺と梅雨裏の邪魔はさせん。放課後デートが俺達を待っている。さぁ帰るぞ。今すぐ、ナウ」

「ど、どうしたの四季。そんな、で、デートなんて……ボク、照れちゃうよ」

「おいやめろ。何で赤くなる。冗談に決まってるだろ」


 冗談のつもりで言ったのに、なぜか真っ赤な梅雨裏。やめろぉ!

 こっちまで本気にしちゃうだろ。

 こいつは男、こいつは男。もう、本当に梅雨裏ルートで良いかもしれない。


「ふーん。無視とかするんだ。へぇー」

「秋歩様(笑)じゃないか。どうした? 俺達は放課後デートで忙しい、去れ」

「はぁ!? そいつとデートぉ? ……可愛いわね」


 紅葉もみじ秋歩あきほ――俺をキープしていた女子の一人にして、この学校の女王様である。

 梅雨裏に文句を言うつもりで、思いのほか可愛いから黙ってしまった。秋歩は正直者なのである。自分より可愛い女子には、ケンカを売らない。

 まぁ、梅雨裏は男なんだけど。


「で、でも。この秋歩様の方が格が上ね。だって、生徒会役員なんだから!」

「生徒会の奴が、初対面の相手に格付けすんなよ……」

「女子の格付けは初対面でこそ、するのよ。凄く可愛いし、先制パンチが必要よ」

「どうしてお前に友人がいるのか、謎すぎる」

「可愛くて、優秀で、恋愛強者だからよ。佐藤と違ってねー?」

「うぜぇ」


 赤く染められた髪をサイドテールにしていて、そこそこ整った顔立ち、出るところはそこそこ出て、引っ込むところもそこそこ引っ込んでいる美少女。

 自然に感じるメイクもしていて、努力の美という印象。

 この学年なら、四番目。いや、梅雨裏を含めたら五番目くらいの可愛さ。

 本人に、お前五番目くらいの可愛さじゃんと伝えたら、ビンタをくらわされたこともあった……。これに関しては俺が悪いけど。


「強がっちゃって、まぁ。この秋歩様に身の程も弁えないで、告白したくせに!」

「お前にも、可愛げがあったからな」

「え、そ、そう……? ふん、最初から正直に言えばいいのよ。メッセージは見たでしょう? キープから、本命にしてあげても――」

「あ、結構です。あの告白は気の迷いだから。もう終わった話だ。それじゃ」

「は、ハァ!?」


 秋歩の対応は最悪だった。

 俺をキープしていた女子の中でも、一番酷かったのだ。

 告白をしているのに、スマホをいじりながら、『うーん。しばらくフリーだったら考えるねー』とか、テキトーな返事でキープしやがった。


「四季……。なんか紅葉さんにだけ、対応が雑じゃない? 大丈夫?」

「良いんだ。俺には梅雨裏がいればそれで良いんだ」

「そんな……! 四季ってばズルいよ。ボク、本気にしちゃうよ……?」

「だから冗談だってば。赤くなるな、照れるな」


 俺と梅雨裏が予定調和の漫才をしていると、周りがザワザワし始めた。

 ヤバイ、そろそろ他のクラスも終わったのか。

 このままだと、桜ノ宮春名や夏涼先輩に捕まる。ド修羅場一直線だ。逃げよう。


「ちょっと! 待ちなさいよ!」

「俺達は帰る。まだ用があるなら、そっちが勝手についてくればいいだろ」

「佐藤、この秋歩様をコケにして、覚悟できてるの?」

「そもそもお前、まだ今年は正式には生徒会ですらないだろ。クラスも違うし、俺に及ぶ影響なんて、たかが知れている」

「このっ! うぅ……。なんでフラれたみたいに……」


 膝から崩れ落ちる秋歩様(笑)

 心なしか、目元に涙が浮かんでいる。だが、コイツにだけは情けなどかけない。

 ある意味では、俺が一番普通に接している相手とも言える。


「四季君が、また女の子泣かせてる」

「げ……」


 背後から、清楚系小学生男子の声が聞こえた。

 しぶしぶと振り返ると、やはり桜ノ宮春名だった。タイムオーバーらしい。

 夏涼先輩まで来たら、人生がゲームオーバーなので、急がねば……。


「よく分からないけど、ドンマイ。なーかーまー」


 桜ノ宮春名が、無意識に秋歩様(笑)を煽っていた。可哀想に……。

 人差し指を向けて、なーかーまーと言い続けている。

 しかも、酷いことに。親愛の証とか言いながら、半額セールのシールを秋歩様の額に貼り付けている。流石に酷くないか!?


「貴方っ! なんなの……やめなさいって!」

「私の方が可愛い。格付けは大事でしょ。ただの先制パンチ。なんて、冗談だよ」

「う、うぅ……」


 ガチ泣きし始めた秋歩様……。哀れすぎる。

 さっき自分が言ったことだから、余計に言い返せないらしい。

 桜ノ宮春名ヤバすぎる。本人に悪気はマジでなさそうなのが、余計に酷い。


「四季、流石に騒ぎが大きくなってきたし、早く帰ろ」

「そうだな」


 梅雨裏が小声で、俺に下校を提案してきた。

 これ以上この二人に付き合っていると、本当にヤバイ。


「あれ、風紀委員が来ちゃったかも……」


 周囲の人が、青い顔をしながら去っていく。誰かがこちらに歩いて来る。

 騒ぎが大きいから、梅雨裏の言う通り、風紀委員が来たのだろう。

 だが、普通の風紀委員なら、野次馬は消えないし、あんな怖がったりはしない。


「梅雨裏、走るぞ。ヤバイ、あの子とは会いたくないんだ。逃げよう」

「え、う、うん。雪ヶ原さん怖いもんね」

「四季君、逃がさないよ」


 桜ノ宮春名が、いつの間にか俺のズボンの裾を掴んでいた。

 しゃがみながら、もう片方の手でギャン泣きしている秋歩様を撫でている。

 泣かせたの、君だからね?


「騒ぎが、気になったから……来たけど。四季だった。ビックリ」


 小さい声で、でも聞き惚れるような綺麗な声。

 歩いて来た、学校一の美少女がいた。

 俺をキープしていた女子で、最後の一人。唯一、俺が諦めきれていない。そんな女の子であり、友達の――雪ヶ原ゆきがはら冬揺ふゆゆだった。

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