第3話 修羅場が始まった。学校生活がヤバい。本性が出た!
この学校の三年生にして、水泳部のエースである。
一言で表すのならアイドルだ。職業的な意味ではない。学校中の憧れという意味で。男女問わず、陽キャ陰キャ問わず、大人気だ。
「後輩くーん。おーい。聞こえてるっすか?」
「夏涼先輩……。ここ、二年の教室なんだけど。どうして」
「もっち、決まってるじゃないっすか! 後輩くんがアタシの彼氏だからっすよ!」
「いや、それ勘違――」
金髪碧眼、本人曰くDカップらしく、スタイルも抜群。語るまでもなく、顔も可愛らしく、肌も綺麗で健康的な印象をうける。
その上、人当たりも良く、運動神経も天才的なのである。
勉強が絶望的にできなくて、喋り方が独特なことを除けば完璧な人物。しかし、それにも事情があり、帰国子女とかで、日本語が得意ではないらしい。
ちなみに、都合が悪い時だけ、日本語が不得意なタイプである。
「四季君、説明してもらってもいい?」
「え、あ、はい」
ガチギレした顔で、桜ノ宮春名が俺の胸ぐらを掴む。
迫力が凄い……。思わず敬語で返事してしまった。
でもその額には、半額シールが貼ってあり、冷静になると笑ってしまいそうだ。
「こちら先輩の海梨夏涼さんで、俺の友人だ。彼女というのは間違いだな」
「彼女と間違いがあった?」
「そんなこと言ってねぇ! マジで友人なんだって、色々事情が」
「私をフッたのは、そこのおっぱいに目移りしたから、じゃないんだね?」
「断じて違う」
俺と桜ノ宮春名が話していると、先輩が膝から崩れ落ちた。
しかもめっちゃ泣いている。
相変わらずの演技力だ。感心してしまう。
「後輩くん、酷いっす。アタシに告白してくれたのは、嘘だったんすか?」
「いや、あの時は本当だったんだけど……。流石に去年の夏からキープされたら、気が変わるのは当たり前でしょう」
「……他に好きな子ができたんっすか?」
「あー。できたけど、もう全員好きじゃないんだ。終わったことだから」
やっと言えた。
少なくともこれで、先輩と桜ノ宮春名は納得するだろう。
去年の春頃と夏頃にキープしてた奴らが、今頃本命認定とか、流石に無理なのはこの二人でも分かるはずだ。
「つまり、ライバルはいないと、そういうことっすね?」
「え……?」
「そうだよ。四季君には私がいるんだから、もうゴールインしてるんだよ。ライバルなんていないんだよ」
「おい……」
先輩は諦めるどころか、目を輝かせ始めている。
桜ノ宮春名に至っては、現実逃避というか、言葉の解釈が違う。
こいつら、話を聞いていたのだろうか?
「さっきから、この子なんなんすか?」
「四季君のセフレ候補」
「違います」
もう桜ノ宮春名は黙っててほしい。話がややこしくなる。
「後輩くんは、アタシのこと嫌いっすか?」
「嫌いではないけど、友人で良いと思ってる。あの告白は忘れてくれ」
「分かったっす……。でも諦めないし、これからアピールしまくるっすよ。絶対アタシが彼女になるっす!」
「そこまで言うのに、何で俺をキープしてたんだ?」
そもそも、あの時に告白を受け入れていれば、済む話ではなかろうか。
恐らく、先輩は俺を軽く考えていたのだ。
他に言い寄る女などいない、と。自分だけを好きであり続けるに違いない、と。
「大事な大会が迫ってる時期で、恋愛をするか、悩んだんすよ。でもやっぱり、アタシには後輩くんが必要だった。今更なのは分かってるっす。けど諦められない」
「四季……。ちょっとくらい、考えてあげても良いんじゃない?」
梅雨裏が可哀想だとばかりに、そう言ってきた。
確かに、照れ隠しで気が向いたらとか、言いやがった半額セールの女よりはマシな理由だとは思う。
そう――それが本心だったなら、ではあるが。
「夏涼先輩。建前はいいから、本音は? 俺はアンタの本性知ってるんだぞ?」
「…………」
「え、本性……?」
梅雨裏が困惑しながら、俺に問いかけてくる。
気持ちは分かる。夏涼先輩は誰が見ても明るくて、良い人だからな。
可愛げがあって、可哀想な雰囲気を演出するのも上手い。天使な梅雨裏が同情してしまうのも仕方ないだろう。
「あはー。本性だなんて、嫌っすねぇ。アタシはこれが素じゃないっすか」
「そうでしたっけ?」
俺の言葉を聞いた夏涼先輩は、その可愛い顔を、俺の耳元まで運ぶ。
そして、笑顔のまま小さな声で――
「人前で本性言及すんなって言ったよな? しばくぞテメェ」
そう――この人、海梨夏涼は、家業が極道のヤベェ人なのである。
その秘密を知ってしまった俺に、彼女が接近してきたのが、全ての始まりで、本音でぶつかり合う中で、俺は気の迷いから告白したのだ。
そしてキープされて、今に至る。
「後輩くんは相変わらずやらしいっすね! 耳元で話してほしいだなんて」
俺から離れると、夏涼先輩は言う。
傍目には、恥ずかしい内容を、耳元で話したかのように見えているだろう。
夏涼先輩はもじもじとしていて、恥ずかしそうな顔だ。
当然、あれは演技である。
「今日の放課後、アタシの”家族”が迎えに来るっす。一緒に帰りましょっ!」
「え、いや、ちょ」
俺が拒否しようと口を開けると、再び耳元で――
「逃げられると思うなよ? 地の果てまで追いかけて、後悔させてやる」
そんなことを言って、クラスから立ち去った。
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