第22話 消えた花嫁 その4
その日は雲ひとつない青空で、秋の日には珍しい暖かさだった。
教会前には人が十数名集まっており、皆正装をしていた。その中にビキニアーマーの少女とプレートアーマ姿の青年がいた。レイアとクロウだ。
「挙式に参加しなくてよかったんですか?」
「別に。わらわは『けっこんしき』とやらには興味ないのじゃ」
「まあこの格好じゃ、どのみち中には入れなかったですね。礼服用意すれば良かったです」
「だーかーら! わらわは興味ないと言っているのじゃ!」
レイアはフン、とそっぽを向いた。しかし本当は少しだけ興味があった。だからこうしてコームとメヨの結婚式を覗きにきたのだ。
2週間前ーー。
2人に救助されたメヨは、衰弱と足の捻挫だけで、意外にも命に別状はなかった。なんでも森を歩いていたら穴に落ちて、それから記憶がないそうだ。落とし穴をつくり、獲物を狩るのはグランドスパイダーの特徴だ。記憶がないのは幸いだった。メヨの他の行方不明者3名は残念な結果だったからだ。
しかし。
レイアから見れば雑魚だが、グランドスパイダーは強い部類のモンスターだ。魔王領から遠く離れたハリマジの地になぜいたのかーー原因は全くの分からずじまいだ。
と、その時。教会のドアが開いた。
ウエディングドレス姿のメヨとタキシード姿のコームが、中から出てきた。2人は互いの唇を合わせる。
レイアはクロウの腕を引っ張ると、
「うげー! 見たか、クロウ! 唇と唇を合わせたぞ。汚いのう」
「バッ……そんなこと言っちゃダメですよ! あれは『キス』と言って、愛する2人がする神聖な儀式なんですよ!」
「『キス』? 外の人間は妙なことをするのじゃなぁ。涎が付いて汚いと思わないのか?」
「……好きな人の唇は汚くないんですよ」
「ふーん。そんなものかのう」
ふと、クロウの唇を見る。薄く張りのある、血色の良い唇だ。なんだか気になってしまい、ジーッと見つめてしまう。
「女性の方は集まって下さーーい」
司会者の声で我に帰る。クロウはレイアの背を押すと、
「ほら、女性は前に集まるんですよ」
「……ん? ああ分かったのじゃ」
レイアは誘導され、新郎新婦の前にやってきた。レイアと同様に集まったのは、数名の10代から20代の若い女性達だ。皆僅かに上気している。それは狩りの前のアマゾネスがよくする表情に似ていた。
ーー何が始まるのじゃ?
レイアは首を傾げる。メヨが突然後ろを向くと、
「では投げます!」
メヨは後ろ向きのまま、ピンクの花一色のブーケを投げた。コントロールが狂ったのだろう、ブーケははるか上空に打ち上がってしまう。
このままではメヨの足元にブーケが落ちてしまう。ざわつく女性ゲスト達。しかしレイアは早かった。地面に落ちる寸前でブーケを拾い上げる。
レイアはメヨにブーケを差し出すと、
「ほれ、もう落とすなよ」
「いえいえ、それはレイアさんに差し上げます」
「はあ? こんな食べられない上に武器にもならないものはいらんのじゃ」
「知らないんですか? 結婚式で花嫁のブーケを取った人が次に結婚する、なんていうジンクスがあるんですよ」
「ますますいらんのじゃ。わらわは結婚などしないからな」
するとメヨはレイアにこう耳打ちする。
「クロウさんと結婚できるかもしれませんよ」
「なっ……何を言っておるのじゃ!」
「うふふ、真っ赤になっちゃって可愛い」
「いいか、わらわはなぁーー」
その瞬間、頭上から何かが降ってきた。新郎新婦を祝福するためのフラワーシャワーだ。ゲストは口々に祝いの言葉を述べ、花を撒く。花が舞う中で満面の笑顔を浮かべるコームとメヨ。
レイアには、2人はとても幸せそうに見えた。
脳筋戦姫の勇者育成計画 〜最強の子種を求め、レベル1の村人を鍛えることにしました〜 海老まみれ @ebimamire
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。脳筋戦姫の勇者育成計画 〜最強の子種を求め、レベル1の村人を鍛えることにしました〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます