第16話 何がどうなれば……

 俺、ルーク・ルップルは困っています。


「う~ん……どうしたものか……」


 書斎に5時間も缶詰をしているというのに、俺にはこれといった打開策は見つかりそうにない。


 俺は数週間前のミルドでの戦いで華々しく初陣を勝利で飾ることに成功した。


 10000近い兵士をほぼこちらは無傷で捕縛することに成功し、彼らの装備も丸々鹵獲することに成功した。


 自分で言うのもなんだけど、今の戦況でここまで一方的に勝利を治めることができたのは奇跡と言っても過言ではない。


 が、今回の勝利は身内に多数の裏切り者がいてくれたおかげで成功したわけで、同じ手はもう通じないだろう。


 さて、次はどうするべきか……。


 たとえ10000もの兵士を捕虜にしたからといって帝国の劣勢がひっくり返せるわけではない。


 なにかまた有効な作戦を提案して、こちらからまた攻めることができなければ単なる延命処置に過ぎないのだ……。


 が、ぽんぽん作戦が思いつくのであれば、そもそも帝国はここまで追い詰められていないわけで……。


「ぬおおおおおっ!! どうすりゃいいんだよおおおおおっ!!」


 なんて一人で頭を抱えていると、コンコンと誰かが部屋のドアをノックする。


「ユナか? 飯だったらドアの前に置いておいてくれ」


 なんて返事をするがドアの向こうから応答はない。


「聞こえなかったか? 飯はドアの前に」

「はわわっ!?」

「は、はわっ!?」


 なんだ今の声は……。なにやら扉の向こうからユナのものではない声が聞こえてくる。


 ユナだったら俺の言葉に扉を蹴飛ばして返事をして、ドアの前に食事を置いてとっとと部屋の前を去って行くはずだ。


 ユナじゃないなら誰だ? もしかして刺客かっ!?


 なんて考えながら机に立てかけられた木刀を手に取ると、俺は恐る恐るドアの方へと歩いて行く。


「おい、誰だよっ!!」


 右手で木刀を振り上げながらゆっくりとドアを開いた俺だったが……。


「なっ…………」


 扉を開いた瞬間、俺の視界にはありえない光景が広がっていた。


 なにがありえないって?


 なんかもう視界に映る全てがありえないのだからありえないとしか言いようがない。


「で、殿下?」

「はわっ……はわわっ……」


 俺の目の前に立っていたのは見間違いでなければ皇帝ルイドン五世の愛娘であり、俺の脳裏に焼き付いて離れようとしない愛しの愛しのリルル殿下だった。


 よく見るとそばにユナも立っているのだが、それはどうでもいい。


 それとリルル殿下のメイドらしき女の子も立っている。


 ありえない……。


 なぜかこのボロボロで埃っぽい公邸に殿下がいるだけでもありえないのだが、そんな彼女が大きく肌を露出した薄ピンク色のトップスと、大きなスリットの入ったこれまた薄ピンク色のスカートを身につけており、体にシルクらしき薄いベールを巻いている。


 その衣装は遠い砂漠の国で使われている踊り子の衣装だ。


 彼女はそのあまりにも破壊力抜群な衣装が恥ずかしいのだろうか、頬が沸騰しそうなほどに真っ赤に染めて俺を見つめていた。


 …………いや、なんで……。


 …………いや、やっぱりなんでっ!?


 その想像力がまったく追いついてこない光景に思わず俺はユナへと顔を向ける。


「なにがどうなればこんなことになるんだよ……」


 そんな質問にユナもまた動揺したように首を横に振る。


「わ、私にわかるわけないじゃないですかっ!! 突然殿下が公邸にやってきて閣下にお会いしたいとおっしゃったのでご案内しただけです……」

「いや、ご用件ぐらい聞いておけよ」

「それはご自身で聞いてください」


 ということらしいので、とりあえず俺は彼女の目の前で跪くことにした。


 その結果、俺の視界にスリットから顔を覗かせる殿下の生足が入る。


 あ、これ……やばいわ……。


「そ、そ、そのようにかしこまる必要はございません。突然押しかけたのは私ですので、どうか跪くようなことは」

「ですが……」

「良いのです……」


 ということらしいので、俺は生足に少し名残惜しさを感じながらも立ち上がる。


 すると再び頬を真っ赤にしたリルル殿下の顔が現れる。


「と、ところで今日はどのようなご用件で……」

「そ、それは…………その……」

「それはその?」

「あ、あ、あ、遊びに来ました……」

「はあっ!?」


 思わずそんな失礼すぎる反応をしてしまう。


「遊びにこられたのですか?」

「それは……その……はわわっ……」


 ダメだ。なんだかよくわからないが意思疎通ができそうにない。


 と、そこで見かねたのだろうか彼女のそばにいたメイドが俺を見上げた。


「閣下、私は殿下の身の回りのお世話をさせて頂いておりますティファと申します」

「あ、どうもっす……」

「本日はリルル殿下が閣下のミルドでのご活躍を耳にされて、そのときのことを詳しくお伺いしたいとおっしゃられまして公邸までいらっしゃいました」

「な、なるほど……」


 それとこのけしからん衣装が全くリンクしないのだけれど、とりあえずはそういうことにしておこう……。


「とりあえずマグナ中尉、殿下がお越しになったのだ急いでデリダ城から料理人をお招きしておもてなしの準備を――」

「そ、その必要はございません……」


 俺の言葉を遮るように殿下が口を開く。そして、さっきよりもさらに頬を赤らめたまま俺のを顔を見つめてこう言った。


「で、できれば閣下の書斎で二人きりでお話がしたいのですが……」

「っ…………」


 殿下? なに言ってるの? 殿下?


 その爆弾発言に俺の思考は停止する。


 それからのことはぼーっとしていてよく覚えていない。気がつくとユナとティファはその場からいなくなっており、書斎は俺と殿下の二人きりになっていた。


「で、殿下、紅茶でも……」

「…………」


 気がつくと殿下はいつか俺がユナに運ばせた仮眠用ベッドに腰を下ろして頬を真っ赤にしたままうつむいていた。


 いや……なんで……。

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崩壊寸前の帝国の指揮官を押しつけられた俺、完全に諦めモードだったけど勝利すれば美少女王女と結婚できると聞きつけ覚醒する あきらあかつき@5/1『悪役貴族の最強中 @moonlightakatsuki

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