第3話
今いる人間は誰も生まれていない頃、吸血鬼にとってはついこの前、最後の吸血鬼は誕生した。
最後の吸血鬼に最後に喰われる予定の吸血鬼は、見当違いの負け惜しみを吐く時間を与えられていた。
「思い上がらぬことだな……貴様が強いのは実力ではないわ……わしが負けるのは貴様が喰った同胞の力であって、決して貴様の……」
「これ以上どこに上がるんだい」
吸血鬼が吸血鬼を喰うこと、その力を引き継ぐこと、取り込んだ力に逆に喰われないこと。
それができることこそが実力と呼べる能力だとは思わんか。
最強の吸血鬼はより最強になった。
なぜ吸血鬼が人の血を吸うと言われてきたのか。
人の血しか吸えないからだ。
同族の血を吸えば狂うらしい。
私は知らんが。
さて、膝をつく目の前の吸血鬼が持つ力以外のすべてを我がものにし終えた。
「いかにも高齢のなりをしているが、あなたより私の方が長く生きているのをご存知か」
「なんと……」
我らは力がすべて。
力が衰えさえしなければ、姿形は永遠に変わらない。
人間を血肉にするうちに徐々に力を失っていく並の者の寿命は、長いだけであって永遠ではない。
同胞の力を、受け取るではなく奪う。
この魅力は捨てがたい。
なんといっても、相手の力だけを手に入れられる。
それを持っていた相手が消えるのだ。
自分に向かっていた悪意が取り払われた、純粋な力こそがこの手に残るのだ。
「さようなら我が同胞よ。貴様らの死に感謝するよ」
孤独になりたかったわけではない。
望んで喰い尽くしたはずがない。
だが貴様らが私を敵と見なしたから、私も応じた。
私を完全に葬るまで止めぬと言うから、私も徹底的に滅ぼしにかかった。
別に私は何もしていないのにな。
ただいるだけで問題にされるのが、最強という存在の宿命だ。
だがこれで、吸血鬼と呼ばれる者らが持っていた力のすべてを手に入れた。
これからは私だけが吸血鬼だ。
立つ地面から、この星に生きる者は他にいないことを知る。
同族を探しに行こうか。
同じように同胞から弾かれた、別の誰かがいるはずさ。
手に入れた力を少々使ってこの星を封印することが、故郷での最後の作業となろう。
そして、いつか星に染みついた悪意が消えれば、再び生き物を寄せつけるようになり繁栄もしよう、そういう力も与えておこう。
「ではこれで」
おそらく数世紀の末にはまた、話にも上るだろう我が故郷よ。
最後の吸血鬼に滅ぼされた、敗北の星よ。
かくもフツウは難しい @mrkk_
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