虫とこぶし
ここは草ぼうぼうの平坦が広がる地、
上空の太陽は照りすぎることもなく三人ぶんの人影を、風にわずかに揺れる草たちの上に落としていた。
付き人の
役目を終えた
とはいえ彼女が転んだりする心配はないと思われる。
そんなに丈の高くない草が、とげすら持たない無害な草が、どこまでいっても生えている。
それだけの地だ。
注意すべき点があるとすれば虫が多いことくらいか。
歩いて草を揺らすたび、虫が飛び出すような場所だ。
だが虫たちは無害で、人を攻撃しない。
毒を持たず、かみつかず、ひっかきもせず、しつこくまとわりつきもしない。
無力な彼等……虫たちは驚き、逃げ惑っているにすぎないのだ。
自分たち
いま目指しているのは
そんな折、向こうから
こぶしをほおに当てている。
ほおづえの格好だが彼女のひじは浮いている。
右のこぶしを右のほおに、あてがっているようだ。
それは、
やはり
虫が散る。
散らばる虫の数は、
ひじとひたいのあいだに作られた隙間は髪の毛一本程度の幅。
当たりそうで当たらない位置にあるひじの先をみずからのひたいで感じながら、
「うわ、驚いた」
それを聞いた
「ごめん、無意識に近づきすぎてた」
どうやら
「いやわたしも、どうなるかなと気になって、よけなかったしお互い様ってことで」
そして
ちなみにその光景を
「このごろ」
草から飛び出して来た虫の一匹をすくいとり、右の中指に這わせる
「彼等が人間にみえて、切なくなる」
ここで
「なるほど、それでぼうっとしてたわけか。で、このごろっていつから」
「十日くらい前からかな……。それだけじゃなく、人間のほうも彼等にみえる。虫が人に、人が虫にみえるというより……存在が同じものと思われる。これをどう受け止めるべきかまだ答えが出せていない。だから、いまは仕事を休業してる状態。もちろん答えは自分のなかに見いだす」
「そう」
短い言葉ではあったが、
しかし
ここで
(
よって
「
つまり
「あいつが廃業するにしても、それは誰の責任でもない」
「分かってる」
自分の指を這っていた虫が草のなかに戻るのを確認してから、
「問題はそれをぎりぎりで明かしたことだ。最後の仕事の規模を考えればもっと前から
「
「いや、
「あれ? じゃあなんでおまえがそれ知ってんの」
「おととい
(確かにわたしは
なにやら集中している
「……もしかして
「いいや」
「そうだった、忘れてた。手紙を届けるついでに
という……嘘をついた。
続いて、
「
「
そう答えて
今度は左のほおに左のこぶしを当てている。
「ともかく、みんな、うちに来て」
なお、
そんな
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