虫とこぶし
―
……ここは。
草ぼうぼうの平坦が広がる地……
上空の太陽は照りすぎることもなく。
三人ぶんの人影を。
風にわずかに揺れる草たちの上に。
落としていた。
ここ
付き人の
役目を終えた
眠そうに目をこすりながら、
また、朝からずっと道案内をしていたので余計に疲れていた。
とはいえ。
彼女が転んだりする心配はないと思われる。
このうちで。
一般的にもっとも楽に歩き回れるのが、
そんなに丈の高くない草が。
とげすら持たない無害な草が。
どこまでいっても生えている。
それだけの、地。
注意すべき点があるとすれば。
虫が、多い。
小さな虫たちがあたりに散らばる。
歩いて草を揺らすたび。
虫が飛び出すような場所。
だが彼等は無害で、人を攻撃しない。
毒を持たず、かみつかず、ひっかきもせず。
しつこくまとわりつきもしない。
無力な彼等……虫たちは。
ただ驚き。
逃げ惑っているにすぎないのだ。
粒のような、あるいは点のような影をも。
生み落としていた。
―
一行は草を踏み、虫を散らし。
自分たち
仲間全員に知らせることが、
いま目指しているのは
彼女は
それを
確認する必要がある。
そんな折。
向こうから
こぶしをほおに、当てている。
ほおづえの格好だが。
彼女のひじは浮いている。
右のこぶしを右のほおに、あてがっているようだ。
それは、
くせである。
近づいて来る。
やはり
虫が散る。
そして。
虫が散る。
散らばる虫の数は、どうも
―
突き出された彼女のひじが
ひじとひたいのあいだに作られた隙間は。
髪の毛一本程度の幅。
当たりそうで当たらない位置にあるひじの先をみずからのひたいで感じながら、
「うわ、驚いた」
それを聞いた
あとずさり、ひじの先を下に向け、謝る。
「ごめん、無意識に近づきすぎてた」
どうやら
「いやわたしも。
どうなるかなと気になって、よけなかったし。
お互い様ってことで」
そして
ちなみに。
その光景を
ともあれ。
さきほどまでの心境を明かす。
「このごろ」
草から飛び出して来た虫の一匹をすくいとり。
右の中指に這わせる
「彼等が人間にみえて、切なくなる」
ここで
「なるほど、それでぼうっとしてたわけか。
で、このごろっていつから」
「十日前くらいかな……。
それだけじゃなく、人間のほうも彼等にみえる。
虫が人に、人が虫にみえるというより……。
存在が同じものと思われる。
これをどう受け止めるべきかまだ答えが出せていない。
だから、いまは仕事を休業してる状態。
もちろん答えは自分のなかに見いだす」
「そう」
短い言葉ではあったが、
しかし
なかなか言葉を続けない。
ここで
(
よって
「
―
つまり
問題は、いつそれを知ったか。
「あいつが廃業するにしても、それは誰の責任でもない」
「分かってる」
自分の指を這っていた虫が草のなかに戻るのを確認してから、
「問題はそれをぎりぎりで明かしたことだ。
最後の仕事の規模を考えればもっと前から
なのに、
わたしたちは、気付けなかった」
「
そうか……おまえも
……結局、その事実を
「いや、
「あれ?
じゃあなんでおまえがそれ知ってんの」
「おととい
そのときに
少し考えた。
(確かにわたしは
あくまで届けるよう頼んだだけで。
あいつも
実はわたしと
あるいは……)
なにやら集中している
「……もしかして
「いいや」
「そうだった、忘れてた。
手紙を届けるついでに
わたしが頼んだんだった。
そのとき、わたしの気もなんだかんだで動転していたからな」
という……。
嘘をついた。
―
続いて、
「
「
つまり、おとといのうちに」
そう答えて
自分のほおにあてがう。
今度は左のほおに左のこぶしを当てている。
「ともかく、みんな、うちに来て」
なお、
完全に目を閉じ、安らかな寝息を立てていた。
そんな
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