最奥/まるで鏡を見るように
―
……
それは植物たちの生い茂る、湿り気を帯びた土地。
奥に進むほど、湿り気は強くなり。
植物たちの大きさも増していく。
その付き人、
案内役の
最奥を目指す。
計画としては。
その最奥でいったん休んで
平行して、
……という段取りになるだろう。
「全身がすごく、べとべとするな」
「植物もこれ以上ないくらい巨大化してますよ」
と
ふたりに対して苦笑いを作りつつ、
「それは、あと少しってことだからね。
もうひと頑張りだよ」
彼女の言葉どおり。
困難な道は、じきに途切れた。
さきほどまで肌に貼り付いてくるような湿り気だったものが。
いつの間にか。
さわやかな冷気に、変わっていたのだ。
それこそ彼女たちが。
水滴を吹きかけられる感覚はこれまでと同様だが。
もう方向感覚が狂うことはない。
そこに肥大した植物はなく。
足下には小石が敷き詰められる。
ここがこの地の最奥。
ここを中心に。
特別な
生きている。
―
「やっと最奥に着いたな」
「ですね筆頭。
出てます、出てます」
そう応えたのは
いったい、なにが出ているというのか。
解答を述べれば。
出ていたのは、噴水である。
そもそも。
なぜ
……この噴水のせいである。
最奥に関してだけは植物が生えていない。
そのため、その中心にあるものがよく分かる。
地面は、小石でうめつくされ。
そのような場所の中央から地下水が。
途切れることなく天に向かって飛び出している。
水は天上にて八方に分裂し。
植物の上に。
ふりそそぐ。
加えて。
地下水の噴出口がひとつの円となり。
円周上の小石たちが噴水の動きに連動して。
震えている。
横から見れば、それは。
一本の柱のかたちをなしている。
流動する水に阻まれ、そとからなかは確認できないが。
太さは、そのなかにすっぽりと人ひとりが余裕で入れるくらい。
そして。
その噴水のそばにたたずむ者もいるようだ。
彼女こそ、「みこ」とも呼ばれる
―
「お姉さーん」
噴き上げる水の柱から目を離さずに。
「
……と
ご無沙汰」
直接、目に入れずとも。
ここに足を踏み入れた時点で
それを聞いていた
しかし
その表面に。
よく見ると彼女たち
噴水のそばにいる
その噴水からやや離れたところにいる彼女たち……。
なお映った像は。
小石など、あたりの風景も含んでいるようだ。
聞こえてくる声に限らず、噴水の柱の表面に映る情報も加味して
訪問者の正体を判断したのだろう。
だが。
それだけではなく。
水の柱の揺らめく表面に。
この場にいない別の顔たちが混じっているように、みえなくもない。
そんな奇妙な柱を観察しながら。
ともあれ。
―
「……そう、
三人の
それは世界平和を意味する一方で。
この情報は現在、ここにいる者と
「
そう
「必要と思ったら今回の件を
彼女たちは
「こんな感じで、各地のみんなと情報共有を図りながら。
折悪しく消えてしまった
「
淡白に所感を漏らす。
その視線は。
噴水で出来た柱の表面に映った
そそがれたままだ。
ひととおりの話を聞いたあと。
なにかをつかむ仕草をする。
「筆頭」
「なに」
噴水に映った像のほうでなく。
かたや
「ワタシは平和を信じていなかった」
この「平和」とは、
「つまり」
「今回のことは、そとの者たちのおかげ」
……確かに
なかでも「みこ」とも呼べる希有な存在。
もし世界が平和になるとき
それは
しかし彼女自身が平和を信じず。
その未来が実現すると思っていなかったならば。
平和は
もちろんその仮説は。
ほかの
信憑性を帯びてくる。
なお
平和が実現すると思っていなかったのであって。
平和が実現しないと思っていたわけではない。
この違いは「思う者」たる
しかし
いや、それを思ったからだろうか。
ただ一言、つぶやくだけだった。
「あっそ」
―
やはり直接、相手の顔を見ているのではなく。
水の柱の像から像に、視線を移したのである。
「
さきほどの情報共有の際、
しかし
質問には、こう答えた。
「うん、全部かは知らないけど」
そのとき。
水の柱に映り込んでいる
ゆがんだ。
それだけで。
「……お姉さん、姉さんのこと心配してるでしょ」
本当の姉ではない
そして。
水の柱に差し込まれた
それが、ぴくりぴくりと動いた。
実は。
そこに潜む者が、
彼女もまた
ひとりの「みこ」であった。
その名は。
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