第二章「『みこ』と呼ばれる者たち」
その「みこ」の住む場所/案内役
―
次は、
この地を守るのは、思う者……
長女、
次女、
三女、
彼女たち
各名字ひとつにつき姉妹が三人ずつ。
ここまでは、
すなわち。
ほかの
たとえば
彼女は「ひっとうふじょ」ではあるが「ひっとうみこ」ではない。
なぜ「みこ」ではなく「ふじょ」と言うのか。
それは、
なお
彼女たち
事実、「みこ」と呼ばれてもおかしくない者たちだ。
しかし「みこ」とは具体的になにか。
それはまだ説明する段階にない。
だから、いまは。
なにより「思う者」たる彼女たち自身が、自分たちを「みこ」と思っているというその一点により。
さて。
そんな彼女たちの守る地は、当然ながら一筋縄ではいかない。
―
足を踏み入れた瞬間、肌と服とがひんやりし、少しばかり重くなる。
見回せば、上下左右前後……どの方向にも植物が繁茂し、人の移動を妨げる。
生長というよりは肥大した植物が水気を含みながら。
濡れた皮膚へと貼り付いてくる。
霧はないものの、全方位から水滴を吹きかけられているようで、方向感覚が狂う。
―
「迷いました」
植物と植物のあいだを何回も抜けたあと。
「やっぱりか」
その台詞は、存外はっきりしていた。
「おまえ何回ここ来たことある?」
ここ……すなわち
たとえば
しかし
なお
ともあれ。
距離だけを見れば
「数えてませんよ」
と答えた。
「わたしもだ」
果たしてそれは、数える必要もないほど訪ねていないという意味か。
もしくは数えられないほど来たことがあるだけなのか。
その答えは、本人たちのみが知る。
なんにせよ。
そんな調子で植物のあいだをさまよう
ここで。
彼女たちの前に、木陰より人影が現れる。
それは、ひとりの
「げーちゃん、
やっと来たね」
湿った空気に溶けた声音が、
「あ、
―
どうやら近くの植物から、もいだ葉っぱらしい。
彼女が葉っぱをすべらせるたび、髪がしっとり浮き上がる。
「……『なんでこいつが、ここに』って顔だね、
実は、ぜーちゃんに頼まれたのさ」
きのうの深夜、
妹の
そこでは「ぜーちゃん」こと
自分の道場で眠っていたはずの
そして
さらに
方向感覚を狂わせてくる
ちなみに
しかし
深夜というより未明の時間帯のころであった。
その前に
(あしたはわたしが
お姉ちゃんは
「本当は
隠れていた手前、出づらくて。
ま、ぜーちゃんの道場も再開されたし、姉さんのところに戻るついでにね」
「え、その話からするとおまえ……」
―
「……家出してたの?」
「なんで、そうなるのさ」
「なんとなく、そう思って……ごめん」
「別にいいよ」
「そもそも、どうして
「
それから
なにかがぽろっと落ちるように思われて、やってきたと。
「それで、ぜーちゃんが道場を休んだことに気付いて駆け付けたのか。
誰から聞いたわけでもないだろうに」
さすがに「喪失」を感じ取れると思われている
「てかおまえと
「え、ほんと?
りゅーちゃんもぜーちゃんも分かってたんだけど」
ちなみに。
ここでは少々生意気に振る舞い、わずかばかりの意趣返しをおこなっていた。
かわいいものであるし。
もともと勘繰った自分が悪いと分かっているので。
笑ってみせる。
「もしかして、わたしだけが知らなかったりして」
―
「げーちゃん気付いてた?」
「妹さんのほうなら」
「直接見たわけじゃないですけど。
紙をこする音が夢心地に聞こえたような気がしたので」
―
三人は
奥に進めば進むほど、湿り気の感覚が増す。
植物たちのあふれさせる水気の量も多くなり。
その肥大ぶりに拍車がかかる。
空気自体がべっとりしていて、肌に吹く汗と区別がつかない。
だがそれは、最奥までの辛抱だ。
もうすぐ抜ける。
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