代替瞑想
―
「筆頭、
いまはいったん屋敷の部屋を借りて休んでいる。
ただし当の
「話せた」
……と、くぐもった調子の返事をする。
一方、背中をさする
「
その体勢の原因は、泉にもぐるいつもの瞑想ができていないことですか。
やっぱり瞑想できないのって、つらいですよね。
思いのはけ口がないっていうか。
わたしは壁とかに貼り付いて、そういうのするんですけど……。
人にはそれぞれの『思い方』がありますもんね」
このとき。
部屋の戸があいた。
「
そう言って入ってきたのは
彼女は体を丸める
(大丈夫かな、
今朝もそうしてたような気がするけど)
しかし声に出せば、かえって本人を不安にさせるかもしれない。
よってその心配を心にとどめる
「ねーちゃんが、風呂に入らないかって言ってます。
うちでも例の瞑想を試してみてください!」
「入る」
「ぜーちゃんにも、おまえにも感謝しないとな」
「なに言ってるんですか。
同じ
じゃあ、早速いきましょう」
そして、その隣を見る。
「
「喜んで」
かくして彼女たちは
三人は湯につかった。
「月並みですが気持ちいいですね。
ちなみに、この『月並み』というのは風呂じゃなくて『気持ちいい』という感想について言ってます」
「解説しなくても分かるって」
なかば放心状態の
「そういえば
「ねーちゃんなら道場に戻って鍛練してる」
「稽古を一日休んだということで、そのぶんを取り戻すんですね」
「いや、これを機にもっと強くなるって」
「素晴らしい向上心です」
ここで。
なにを思ったのか。
そのまま風呂の底から足を離し、浮かぶ。
もともと
だから余計に迫力がある。
その光景に圧倒される
「……
頭頂とへそを結ぶ線を軸として。
すると彼女の別の半身があらわになる。
「うわっ、左半身でも怖いって!」
今度の
ここに笑い声が混じる。
笑っていたのは、
さっきまで放心状態だったが。
しばらく風呂につかって、調子が戻ってきたらしい。
「おまえらもっとはしゃげ。
わたしが許す」
そんな
「いやうちの風呂ですが」
―
ところで。
三人が同時に湯につかっていることや……。
かなり背が高いはずの
その広さは、通常の風呂の比ではなかった。
また、それは屋内にあるのではない。
庭にある。
つまり見上げれば空が目に入る風呂。
人工ではなく、天然の露天風呂だ。
とはいえ近くに火山を持つわけではないが……ともあれ。
ここで
あれは水たまり程度のものだった。
しかし
赤を帯びた透明の湯をたたえる。
まるで赤い池。
あるいは大きな紅の泉。
地名の由来を漢字から考察しようとすれば。
むしろこちらが
軽くさわると、ぬるぬるする。
しかし肌にこすりつけると、ざらざらする。
もしくは「温泉」と呼ぶのも間違いではないかもしれない。
―
……話を戻す。
放心状態ではなくなった
「それより
「あ、そういや忘れてた」
風呂の底へと沈み込む。
いつも
深さについては、やや浅い。
だからすぐに、底に達した。
水中で目をあける。
すきとおった赤い湯が、気泡のようにもみえてくる。
―
それからの夜。
あとのふたりは、借りている一室に。
部屋に入るやいなや寝息を立て始める
かたや
そっと布団に押し込める。
そこに座る影に話しかける。
「よろしいですか」
「構わないよ、
影……
「うちの筆頭、湯に沈んで落ち着けたみたいです。
気持ちよさそうに寝息を漏らしています」
「そう、
いや完全には日課どおりの瞑想を再現できなかっただろうが……。
気休め程度になったなら、それでいい」
「おかげさまで」
「
「お気になさらず」
……と言って
今度は背後に立つ彼女のほうが、
「これで
そのなかで
換言すれば。
結局その提案は採用しないことになったとはいえ、まだそういう思いが
それが
だから気休めだとしても。
そうすれば、良識を
「でも
「うちの三女さんがなにか」
「別に」
「そうですか」
「筆頭とわたしは
これからしばらく各地をめぐって歩くでしょう。
でも筆頭は最初に
「そう思うのは、『思う者』たる
「いえ、とくにそんなこと考えていませんでした。
思ったことをただ言っただけです」
そう淡々と口に出して渡り廊下に足を運び、屋敷に戻ろうとする
彼女に対して
だがそれは呆れをあらわすものではなかった。
「
「もちろん
わたしたち
そこを。
見失いはしない」
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