最後に向けて最初にやること




赤泉院せきせんいんめどぎ③―



 宍中ししなか御天みあめが去ってから、赤泉院せきせんいんめどぎは泉から完全に体を引き抜いた。


 水面に顔を出した直後と比べ、呼吸はだいぶ落ち着いている。


 泉の近くに構えてある屋敷で、濡れた衣装を取り替える。


 そして手紙を書き始めた。




刃域じんいき宙宇ちゅうう①―



 めどぎ刃域じんいき宙宇ちゅううという巫女ふじょに向けて手紙をしたためる。


 内容の一部を抜粋すると次のとおりになる。


 ……それで宙宇ちゅうう


 次で御天みあめの仕事が本当に終わるみたいだから、そとに出ていってほしい。


 わたしからの指示はふたつ。


 一、御天みあめの仕事が最後を迎えたあと、実際に世界が平和になったか確認すること。


 二、この手紙につつんであるもうひとつの手紙を世界一えらいやつに……。




赤泉院せきせんいんめどぎ岐美きみ①―



 書き終えた手紙に封をして、めどぎは大きな声を発した。


「きみー、いるー?」


「なにかな、お姉ちゃん!」


 反応が即座に返ってきた。


 返事をしたのは赤泉院せきせんいんの次女、岐美きみ


 めどぎの妹のひとりである。


 だが姿はみえない。


 彼女は遠くから大声を返したのだ。




赤泉院せきせんいんめどぎ岐美きみ②―



 大きな返事から時を経ずして、岐美きみめどぎの部屋に入ってきた。


「どうしたの、めどぎちゃ……お姉ちゃん。


 さっき御天みあめちゃんが来てたみたいだけど」


「それについて、宙宇ちゅううにこの手紙届けてもらえる?」


「……いいよ、仕事だもの」




赤泉院せきせんいん岐美きみ桃西社ももにしゃ鯨歯げいは①―



 赤泉院せきせんいん岐美きみは服のなかに手紙をしまう。


 そして姉に背を向け、屋敷から出ていく。


 その際、ある言葉を口にする。


めどぎちゃんをよろしく」


 誰に言ったのか。


 玄関のすぐそとに正座していた人影に言ったのだ。


 その影の持ち主も、岐美きみめどぎと同じく巫女ふじょであった。


 名は、桃西社ももにしゃ鯨歯げいは


 めどぎは玄関まで見送りに来なかった。


 にぶく小さい岐美きみの声を、ひとり鯨歯げいはが聞いていた。




桃西社ももにしゃ鯨歯げいは①―



 岐美きみの後ろ姿がみえなくなった。


 それを確認し、ゆっくりと桃西社ももにしゃ鯨歯げいはが立ち上がる。


 彼女は地面へとじかに正座していた。


 だからふたつのはぎに多くの小石が貼り付いていた。


 歩くたび、小石がひとつずつ落ちる。


 その都度、薄赤いくぼみが現れる。




赤泉院せきせんいんめどぎ桃西社ももにしゃ鯨歯げいは①―



 鯨歯げいは赤泉院せきせんいんの屋敷の庭を歩いてめどぎを探す。


 とはいえ本人はすぐに見つかった。


 赤泉院せきせんいんめどぎがいた場所は、彼女自身がもぐっていた泉のそばであった。


「筆頭。


 次女さんからよろしくって言われたから来たんですけど、なんかお手伝いでもしましょうか」


鯨歯げいはか。


 ありがと……だったら遠慮なく。


 これからすべらを探しにいくから同行を頼もうか。


 ちょっと重大なことが起こりつつあってな。


 それについて。


 筆頭蠱女ひっとうこじょには、筆頭巫女ひっとうふじょのわたしから伝えたいと思う」



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