終わり始めた彼女たち

 これは「彼女たち」の終焉しゅうえんまでの道のりを追った物語である。


 その前に彼女たちについて簡単に説明しておこう。

 我々われわれの住む地とは似て非なるその世界において、異端視いたんしされるふたつの存在があった。


 ひとつは「思う者」――巫女ふじょ

 そしてもうひとつは「思われる者」――蠱女こじょ


 彼女かのじょたちは巫蠱ふこ総称そうしょうされる。


 その目的はだれにも分からない。

 ずっと、を守り続けている。


 彼女らの守る地のひとつは赤泉院せきせんいんと呼ばれる。

 名前のとおりにいずみはあるが、けっしてその色は赤くない。


 水たまりにも見まがう、ほんの小さな泉。そこを中心としてまるを大きくえがくと……土地の輪郭りんかくに重なる。


 筆頭巫女ひっとうふじょがそこにいる。


* *


 ――筆頭巫女ひっとうふじょ赤泉院せきせんいんめどぎ


 彼女は、泉の底にしずんでいた。衣装いしょうをまとったまま、体を丸めている。気泡きほうも立てず、動かずにいる。


 水たまりのような泉ではあるものの、人ひとりがおぼれることのできる程度の深さはある。


 彼女はそこで瞑想めいそうするのだ。


 そうして泉の底に沈んだ赤泉院せきせんいんめどぎであったが、たいして息をとめられもしない。

 すぐ水面すいめんに浮上する。ちからきつつがっていく。変わらず気泡はらさない。


 顔を水から抜いてのち、ようやく激しく呼吸を始めた。


「いやほんとめどぎって息、続かないよね」


 泉から顔を出しためどぎに話しかけたのは、蠱女こじょのひとり、宍中ししなか御天みあめであった。


「あれ、御天みあめ? さっきまでいたっけ」

「いなかったよ、ただいま、ふってきたところ」


「変な表現だな。用は?」

「用というか報告」


 赤泉院せきせんいんめどぎ見下みおろしつつ、宍中ししなか御天みあめが問いに答える。


「次でわたしの仕事が終わる」

「そう……」


 泉にれ、体にり付く衣装。

 それをいじくりながらめどぎは質問を重ねる。


「……このことすべらには言った?」

「もちろんすべらにも伝えようとしたんだけど、どこにもいなくて。いちおう伝言はぜーちゃんに頼んである」


「マジであいつよく消えるよな。ともかく知らせてくれてありがと。すべらはわたしが探しとく」

「助かるよ、それじゃあ最後の仕事に向かうね」

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