美しき日々

はる

第1話 「寂しいから恋愛したい」

 私はエレベーターに乗り込んだ。エレベーターは音もなく上昇していく。最近就職したこの会社は、大きなビルに入っていた。扉が開く。私は一歩を踏み出した。


 常々、恋人がほしいと思っている。なぜかというと、楽しそうだからだ。恋人がいると、毎日忙しくなるし、心を傾けることができる。空虚な日々を埋めることができる。寂しい気持ちを消すことができる。絶対欲しい、恋人。


「そうかなぁ」

 目の前の友達が眼鏡の奥の目を閉じた。

「そんな恋人、ほしい?」

「だってぇ、絶対楽しそうじゃん!」

「そうかなぁ」

「絶対そうだよ!」

「可奈、誰かと付き合ったことある?」

「知ってるくせに〜、3人と付き合ったことあるよ」

「なのにそのテンション保てるのか……」

「だって、その人たちみんな好きじゃなかったもん!相手が付き合いたいって言うから付き合ってあげてたんじゃん!慈善事業だよ」

「そんな慈善事業すな」

「はぁ〜、好きな人と付き合いたい……」

「それは正しいと思うけど」

「正しい?」

「好きになってくれる人と付き合うんじゃなくて、好きな人と付き合うってこと」

「だよね! 私が好きじゃない人とだと面白くなかったよ!」

「でも、寂しいから付き合うってのは違うと思う」

「そうかなぁ……きっと楽しくなって、寂しくなくなると思うんだけど」

「そうやって寂しくなくなることってあるのかな」

「……わかんないよ。美紀の話はいつも難しい」

「そうかしら。私には、可奈が真相から目をそらしているように見えるわ。わざと私の話を難しいということにして」

「えぇ〜?」

 私は目の前のオレンジジュースを飲んだ。美紀は小学生のときからの友達。ストレートボブで大きい丸眼鏡をかけている、知的な美人だ。いつも冷静で、私の相談に乗ってくれるし、話していてとても楽しい。カウンセラーばりに受容力がある。

「美紀はどうなの? 恋愛は」

「してるよ」

 美紀はよそ見をして言った。

「へぇ! どんな人!?」

「可愛い人」

「へぇ……男の人を可愛いって思えるって沼だね」

 美紀は何も言わずに冷コーをストローで飲んだ。

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美しき日々 はる @mahunna

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