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顔は映ってはいないが、巨大モニターの向こうに我々の天敵、嶋田宗一郎がいる。そう思うと緊張してくるな...
と、MSB諜報部第一課長古久保将希は考えた。
嶋田と電話が繋がった直後数秒間気まずい雰囲気が流れたが、それを破ったのは怒りが滲み出ている多岐首相だった。
「い、一体何がしたいんだ。罪のない一般人を虐殺してまで一体....」
『私はただこの国を他国の言いなりにならないような強い国にしようと活動しているだけだ。』
「だからって近くを通りかかっただけの漁船を何故襲う必要があるんだ!?」
『我々が襲った船はただの漁船ではない。あの船にはこの国を売ろうとしていた連中が乗っていたから何も動かないMSBの代わりに排除しただけだ。』
声を荒げる多岐に対して嶋田が冷静な声で応じた。
嶋田の返答に対して多岐が驚いた目で知っていたのか?とMSBの職員達に問いかけた。問いかけに対し、古久保達は渋い表情で目線を逸らした。
『他国の工作員に密入国されていることを知っていたにも関わらず野放しにしていた結果だ。これが。』
多岐が何か言いたそうだったが、それを遮るようにMSBの神河局長が言った。
「総理、話の趣旨がずれています。奴の話は無視して進めましょう。」
「そ、そうだな。で、君は少し前に建設中だった中沖島を襲撃し、当時作業中だった作業員数名以外を燃料のない小型船で沖合にだして島を占領状態にした....」
その数十分後に漁船が襲われた。
「沖合に放り出された作業員は救助されたのか?」
「はい、つい先ほど」
近くの閣僚に聞いた多岐がモニターに映っている嶋田をまっすぐ見る。
「要求は、なんだ。」
『我々の要求は直ちに在日米軍を日本から追い出せ。そして中沖島に中性子爆弾が密かに配備されそうだった事を公表。そして日本国はアメリカの属国ではないという声明と国会の承認や投票をせずに憲法9条を改正、そして自衛隊を他国の軍と遜色のない法整備をする。それを24時間以内に行わなければ我々が占領した中沖島から東京に向け弾道ミサイルを発射する。
しかしその弾頭は.....NB2024だ』
会議室全体が静かになる。
それに耐えられなくなった多岐が再び叫んだ。
「無茶苦茶じゃないか!君は我が国の立場を分かってるのか!米国との関係を絶ったら、逆に落ちていくだけだぞ!?」
『ああ、分かっているから言っているんです。ドイツやイタリアなど欧州で米軍が演習を行うには厳しい規制に従う事や、その国の政府の承認が必要だが日本ではそんなものは必要ない。同じ先進国なのにこんな屈辱的な話がどこにある?』
多岐が俯いて黙り込む。
『我々はこの国が他国からの圧迫にも屈する事なく、一つの独立国として世界に認められる事を目標にして活動しています。それが達成されるまではどこまで経済が落ちようが構わない。この国には優秀な人材や企業がたくさん埋れている
ま、我々の要求に対してあなた方の前向きな判断を期待してますよ。では。』
そう言って嶋田は不敵な笑みを浮かべながら回線を切った。
本当に愛国心の高い輩だなぁ。そう古久保は心の中でつぶやく。
会議室の中ではまだ気難しい空気が流れている。
すぐにホテルから出て黒塗りの自動車に
乗ったが、後方からオートバイの運転手がずっとこちらを睨んできている。
この光景に鳩山仁志は胸苦しさを感じた。
しかし5年前と違う点は追手が大勢ではなくたった1人という事だ。それに少しだけ明かりがあるところで見えた事だがヘルメットの下から女の顔が覗かせていたのだ。
驚いている彼に村井智成が彼女はもともと母親と共に拉致されていて、嶋田が彼女を救出したが、なんやかんやあって嶋田の元についていると説明してくれた。
村井の部下が田畑に囲まれた一本道を爆走する傍ら、村井がテロリストが行った中沖島の占領方法を教えてくれた。
その説明が終わった頃、運転していた彼の部下が あっと声を出した。行き止まりだ。目の前に川が広がっていて、左右には畑が広がっていた。
後ろからはまだ追手は見えていないが、オートバイの音が聞こえるあたりまもなく顔を見せるだろう。
「村井二曹、あそこの茂みに隠れましょう」
「そうだな。そうしよう」
車から一旦降りて茂みの奥に隠れる。
すると間も無く追手がやってきて、止められている車の中を覗いている。
いないとわかったのか、あたりを見渡した。
そして鳩山らが隠れている茂みに目を止めた。
まずいと感じたが、懐中電灯を持っていないようだった。
少し手前の草を掻き分けてみた程度で諦めて、鳩山達が乗ってきた車の方に戻る。
追手はタイヤの前にいるようだったが、彼らにはよくわからなかった。
それからオートバイの音が遠のいて村井に車に乗るよう促され、彼の部下がエンジンをかけて車を走らせようとしたが、突然 バンと4回音が鳴った。そのまま走らせても急ハンドルを切ったりしてコントロールが効いていない様子だった。
「どうした!」
と鳩山が聞くと
「コントロールが効かない。まさか...」
と言うと、村井の部下が運転席から降りていった。
「おそらくタイヤがパンクするようにして行ったようですね。」
「流石嶋田の手下だ。よくわかってる」
不自然にタイヤの前に座っていた時、追手は少し細工をして去っていたようだった。
「もうこの車は使えません。それとさっきの音で気づかれたかもしれない。早くここから離れましょう。」
「わかった」
車を乗り捨て、3人で交差点に入ると少し遠くから光が見え、こちらに近づいてきた。
3人の前で急ブレーキすると同時に開け放たれた車窓から 乗って! と叫んでるのがわかる。
この人もおそらく村井の部下だろうと予想した鳩山は村井と共に後部座席に収まった。
再び車が動いた頃には、タイヤがパンクした音を聞きつけた追手が迫ってくるのが車内の反射鏡から窺うことができた。
あれから数分経ったが、追手のバイクとは未だ互角の戦いを続けている。
彼らが乗っている運転手のドライブテクニックは凄まじいもので体重は60キログラムを超える男4人を乗せたなんの変哲もない一般車という圧倒的不利な状況でもドリフトをしたり、急なUターンで相手を惑わそうとしていた。
ただ、車内にいる鳩山には地獄であった。
ドリフトやUターンで窓やドアに全身を打ちつけ、吐き気まで催してきた。
「おい、後ろ!」
「右に行け!そのまま行くと行き止まりになるぞ!」
他の3人はこの運転に慣れているのか、ケロッとした様子で指示を飛ばしている。
「このままじゃあ埒が明かない。港に行け!」
村井が言った。
「は?どういうつもりだ?まさか、このまま敵地に乗り込もうとでもいうのか?」
思わず言ってしまった。
「違います。沖合に潜伏している海自の潜水艦に行くだけです。」
彼の声は未だ冷静だった。
「待て、俺も連れてく気か!?今はもう一般人に成り下がった身だぞ!?」
「違う!今日から二曹に戻ったんだ!会社も辞めたことになっている。それに伴い復帰戦は中沖島にいるテロリスト達の鎮圧だ。」
「何を勝手なことを....体が昔のように動けるとは限らんぞ!それでも連れてく気か?」
「あなたはかつて、配属されてまもない頃、初任務で中東に送られ、ある過激派組織の情報を盗んでこいと命令を受けた。
しかしその情報は罠で、次々と仲間のベテラン達が倒れていく中、あなたは1人で襲いかかる敵を次々と倒して任務通り情報を回収して帰国した。派遣した部隊が全滅したと思い込んだ本部はもしかしたら組織ののことが世間に晒される、日本に報復の攻撃を受けるかもしれないということに恐れて荒れていたところにふらふらと現れたあなたを英雄扱いしたそうですね。その後もいろいろな任務を手こずることなく完遂していた。しかし5年前のようなことがあってそれから気力を失い、辞めてしまった。
そして今、未曾有の危機にさらされているが、貴方が出て行ったことをずっと後悔していた上がこの時を利用して取り戻そうというのが目的です。」
「世界各国のスパイ技術が向上していく今、日本が遅れを取らないためにも貴方が必要なんです」
村井が最後に締め括った。
呆然とする鳩山の体にドアがぶつかった。
今もカーチェイスを続けているということだろう。
そのうち県警に嗅ぎつかれ、追われることになるだろう。
「....わかった」
苦しい判断だったが仕方がない。もう二度と関わりたくはなかったがもしかしたら神がもう一度やり直すチャンスをくれたのかもしれない。と考えるとすんなり受け入れることができた。
村井がほっとした様子を見せている。
フロントガラスの前には広大な海が広がっているのが見えた。
中沖島 Runway22R @Runway22R
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