3



彼女は幼い頃、日本海沿いに住んでいた。

そこは海がよく見える場所で、夕方には毎日のように母親と浜辺で遊んでいた。


しかし、4歳になったある日母親と浜辺で戯れている沖の方から突如木材にモーターを乗っけたような粗末な船が現れた。

最初は気にせずいたが、人が降りてきてぐんぐんと自分たちに近づいてくる人たちに、彼女の母親は何か思い当たる節があったのだろう。

急いで彼女を抱いて逃げようとした。

だがその判断は遅すぎた。周りに朝鮮人風の大男に囲まれ、カタコトの日本語で

「ついてきてふねにのれ。したがえばわるいようにしない」

と言われた。母親は彼女を抱いて間をすり抜けて逃げようとしたが咄嗟にに掴まれ、腹を殴られ、気絶した。

訳もわからず、ただ泣き叫ぶだけだった彼女は気絶した母親と共に木造船に乗せられ出発した。

そのから、自分を捕まえた者たちは無線機に何やら日本語ではない言語を吹き込んでいた。

陸が見えなくなりそうなところで木造船が止まった。

すると潜水艦が現れ、彼女らを回収していった。

彼女と母親はある部屋に閉じ込められた。

数分後、母親が目覚め、彼女が何が起こったのか尋ねると、私たちは拉致されたんだよ。と言われた当時、その言葉の意味を知らなかったが自分たちはいつもの日常に戻ることは難しいと感じてしまった。

彼女はまだ幼いため、泣き出してしまった。

母にあやされ、彼女はいつの間にか寝ていた。

次に起こされたところは、母親が近くに見当たらず、窓がひとつもなく、光が電球から照らす少しの光しかないまさに牢獄と言ってもいい場所であった。


数分後、空腹感が彼女に押し寄せて泣き出してしまう。

それを聞きつけたかのように彼女を監禁している扉が開き、朝鮮人風の男が食事を持ってきた。

それを一口含んでみるが、今まで食べてきた母親の愛情のこもったものではなく、吐き出しそうになる程不味いものだった。涙目で男の方に向くが、それでもその男が食え。と不器用な日本語を発してくるのを聞いて食べた。

一口、また一口いれるたびに食物が喉をかけ上がってくる感じがするが、今食べないとこの先食べれないかもしれないという思いもあって、なんとか完食した。


それから約二ヶ月程が経ったことだろうか、

彼女はある一室に連れられていた。そこは灰色の空間にポツンと事務机とその両脇に椅子が置いてあり、加えてカメラが設置されているという簡素な部屋である。 まるでドラマによく出てくる取調室のようだった

数分待っていると彼女が入ってきたドアが開き、するとある女が入ってきた。

髪はボサボサで、疲れきった表情をしていたが、それが誰なのか一瞬で分かった。


「ママ!」

彼女は硬い椅子から飛び降りて、母親に抱きついた。

母親も返してくれて、泣きながらこう言った

「助かるからね。絶対助かるからね。必ず日本に帰れるからね。」




それから今までの思い出などいろいろ話して母親と別れた。

それから少し時間が経ち、彼女は朝鮮語を覚えさせられ、6歳くらいに夫が政治将校の夫婦の子にさせられてなんとか大ごともなく過ごしてきたが、彼女が17歳になった時にある事件が起こった。


彼女が街を歩いていたら、いきなり男に襲われたのである。何もわからぬまま車に乗せられ市街地から出たところだろうか、その時にやっと男に話しかけられた。

しかし、その男が発したものはもう十年以上聞いていなかった懐かしい響きがした。


「急に脅かしてすまない。私はあなたを日本に帰すためにやってきた」

「日本に...帰す?」

二ヶ月ぶりに母と再会した時に言われた言葉を鮮明に思い出す。

一瞬彼女は困惑したが直感的にこの男は正真正銘の日本人だと感じ、もしその男の話が本当なら、やった。こんな腐ったところから出てやっと自分の母国に帰れるのかという喜びと、もし日本もこの国と同じだったら、という不安が込み上げてきたが、拉致される前の微かな幸せだった記憶から、そんなことはないと一蹴した。


その男は嶋田宗一郎といい、彼女は彼の言うことに従い、脱北するための準備を進めた。

行く先々に銃を持った兵士が立ち塞がったが、嶋田は表情ひとつ変えずに散り散りにしていった。

しかし、全て順調に進んだと言うわけではなく、彼女にも危ない時があった。

続々とやってくる兵士にと彼が引き連れている者だけでは対処できずに、彼女に銃口が向けられ、弾丸が放たれた。

普通なら最低でも毎秒200メートル以上あるはずの弾丸を避けられずに体を破壊されているが、彼女はそうならなかった

突如、弾丸の軌道が読めるようになり体を捻らせて避けることができた。そして兵士の腹を殴り、気絶させた。

その場からそそくさと離れたあと、もう少しで韓国との国境で小休止を取ることになった。

その時に男があのことを褒めてくれた。

それだけではない。

ある誘いも入ってきた。



「実は私は日本革命連隊という組織の総長をやっている。ここにいる者は皆その組織の人間だ

心配するな。日本を暴力によって革命を起こして東側の奴らみたいになろうとしているわけではない。日本をもっと強い国にしようとする為に活動しているだけだ。

拉致被害者と思われる者が大量にいるのに政府は目立った行動はしていない。

それどころか、拉致されたとわかっているのに警察はそれを隠そうとした。

他には有事の際に法規制に晒されている自衛隊が素早く動けるのか。

お前は詳しく知らないかもしれないが、最近の世界情勢から鑑みていろんな所を支援している米軍が本当に助太刀してくれるのだろうか。

米軍がいるから安心だ。とか言ってる奴らもいるが、自分達の故郷を他の国の人間に守ってもらうという馬鹿げた話は嫌いだ。自分たちの国が侵されそうなら自分たちで守らなければならない。それが世の鉄則だ。我々はその手伝いをしている。」




あれからなんとか無事に脱出して日本にいる親族を探そうとしたが、父親は既にに自殺、そして祖父母も死んでいるかどこかに消えていると言う有様だった。

まだ未成年の少女を一人置いておくというのは酷な話だと言って嶋田の組織にしばらく置いてもらうことになった。

しかしまだ彼女に不安が残る。自分は一応北の国の教育は受けたが、日本の教育は一切受けていない。彼女がこれから日本で生きていけるかどうか、そして母親はまだ取り残されたままである、ということが気になって夜も眠られなかった。

ふと今まで色々な疲労でそっちのけにしていた嶋田からの提案を思い出す。

確か日本をもっと強い国にしようとするために活動しているんだったっけ?

そうだ。どうせなら嶋田さんからの提案を受け入れよう。そうすれば助けてもらった感謝になるかもしれないし、母親を助けてくれるかもしれない。












彼女は今、オートバイで田舎の県道を爆走している。

彼の命令でターゲットを生きてn捕まえろと言われた。

ターゲットはこの先のホテルにいるらしい。

彼に言われた命令だからこなす。ただそれだけだ。


そういえば、捕まえてこいと言われたターゲットはMSBの手に渡ってるんだっけ。

ターゲットがいると思われるホテルの前から黒いセダンが急発進していくのを見て彼女はそう思った。

逃がさない。という思いとともにエンジンをふかしてセダンの後ろに張り付く。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る