2





防衛省特別作戦局はまず局長の元に諜報部と武装班に分かれている。各部に部長が存在し、諜報部は第一課、第二課がある。

第一課は主に海外の諜報活動をしており、東側諸国やテロ組織の動向を探っている。

第二課は時には公安のように、テロの未然に努めるときもあるが、主な任務は桜田門こと警視庁や公安を監視し、機密保持についている。国内での活動が多いため、第一課よりは人数は少ない。

武装班は、戦闘に特化している部隊である。中隊、小隊規模で分かれており、テロ組織や過激派カルト教団、反政府組織との戦闘が予想されるため、隊員は元正規の自衛隊員で、レンジャー課程を良い成績で卒業していたら、声をかけられることがある。


嶋田の総理との回線要求はすぐに市ヶ谷のMSBに伝わった。


内閣総理大臣の多岐には焦りと怒りが混じっていると、MSB諜報部第一課長古久保将希はそう分析した。

おそらく総理にはいつかこうなるということは知らせれてなかったのだろう。

首相赴任時にさらっと局の存在を教えられるだけで今回のように余程のことがない限り局の話題が出ることはない。

夜にいきなり呼び出されて、聞いたこともないような組織のトップと話してください。なんて言われれば無理もない

わずか3gでも相当の破壊力を持つ反物質爆弾を仕掛けたなんて言われれば渋々付き合うしかないだろう。

しかし、多岐はそれすらも知っていなかった

「お、おいそこの君、反物質爆弾って一体何なんだ」

「反物質爆弾なんて架空の話です。この世には存在しません。」

「じゃあ何で....」

「自分の要求がうまいこと通るように強調させるためでしょう。」

「嘘だとすぐにバレることが気づかないそんな頭の悪い連中なのか?その日本革命団体とかいう奴らは。」

本当になにも知らずに飛び出してきたんだなと古久保は思った。

回線を繋ぐまでの間総理の話し相手を任され約30分が経つ。

「えー日本革命連隊を侮ってはいけません。非常に厄介な存在です。特に嶋田宗一郎に関してはこの国の政治機能を潰してしまうかもしれない。それに反物質爆弾は埋められてなくても、強力な兵器が埋められているかもしれません。」

「というと?」

一応局長から直々になにもかも話して良いという許可は得ているため、古久保は話してしまうことにした。

「中性子爆弾です。自動車の非破壊検査に使われている中性子線を米国の研究者が米軍に頼まれてできてしまいました。」

中性子爆弾は中性子による人員殺傷をする。

普通の核兵器は爆風による破壊,熱線による焼夷効果および中性子,ガンマ線による即時放射効果と放射性物質の降下による残留効果をもつが,そのうち即時放射効果を強調したものである

中性子爆弾「NB2024」はチグリス・アンダーソンが作った。

チグリスは放射線研究者であったが、米軍に今後の世界情勢を鑑みて、敵に攻撃された際の対抗手段となる大量殺人兵器をつくって欲しいと言われ、極秘で研究資金をもらい、開発した。

アンダーソンは米軍の要求を忠実に再現した。今まで米国が完成させた全ての核爆弾を上回るほどの威力のものを完成させた。

そして米軍がやってきて彼が作ったNB2024を極秘で回収、保管しようとしたが、アンダーソンは回収されることを拒んだ。

彼にはアメリカがこのような物をつくってしまった事を世界中に知られてしまい、批判される事、仮想敵の大国が集まっている東アジアでもしアメリカが攻撃された際にすぐに報復できるようにする、

ミスで自国民が被害に遭わないように、保管場所を日本の排他的経済水域内に新たにできた中沖島にしようとしている事を匿名の電子メールを受けていたためわかっていた。


もし、条件としてNB2024という爆弾があり、その保管場所を日本を選定しているという事を公表し、処理する事を要求した。

もちろんそんなことはペンタゴンは受け入れることができない。

そうこうしているうちにNB2024は何者かに奪われてしまった。



とのことを多岐に話していた古久保は、一通り終わったところで自分の腕時計に目をやった。

嶋田と回線を繋ぐまであと20分程度。

すると多岐が

「だからホワイトハウスの人達はあんなに米軍と自衛隊共同の基地を作ろうとか言ってきたのか」

日本の島をアメリカ軍基地だけにするのは良くないと思い、自衛隊共同ということにしたのだろう

共同基地にすると発表した時、猛烈な批判が飛んできて、多岐政権の支持率が大幅に下がってしまった時を思い出している総理の傍ら、古久保は今後の展開について考えていた

通話の中で嶋田は一体なんの要求を突きつけてくるのか

MSBの武装班と一戦交えることになるのか。



総理と犠牲になった漁師達の遺体回収についてなど色々話していたら

突然応接室のドアがいきなり開き、高谷内閣情報官が入ってきた

「総理、そろそろ時間です。」

「わかった」


防衛省の中央司令所よりも下に下り、頑丈な鋼鉄製のゲートのカメラに職員証を古久保が見せる。MSBの施設に侵入するには、このゲートに設置してあるカメラに職員証を見せなければならない。

カメラのモニターの前では常に人員が見つめていて、職員証のチェックは大半は、ハッキングなどのセキュリティの観点から人力で行われている。

人がIDと職員証に貼り付けられている顔写真と立っている人の顔は同じかどうか念入りに確かめて侵入の許可が出るまでの間、常にカードを掲げながら立ち尽くしていなければならないのは、古久保にとっては億劫でこのシステムに根本から嫌っている


いかにもいかつい警備員が立っている一室のドアを開け二人に入室を促す。

最後に古久保が入ったところは横長に広い会議室のようなところであってその一つの端に巨大なモニターが設置されているところを長机で囲んでいるような部屋であった。

多岐内閣総理大臣を筆頭に内閣情報官、防衛大臣、統合幕僚長と監部から数名。

MSBの管理職達。

他に、陸幕長、海幕長、空幕長、米軍関係者で長机をほとんど埋め尽くしているの見て、古久保は、こんなに人が集まるのは初めてだ、と思いながら、晴崎瑛一諜報部長と同僚の若林辰永第二課長の間に座った。

中央のモニターには米軍の衛星から送られてくる中沖島の様子がリアルタイムで映されていた。

「神河局長。始めてくれ」

防衛大臣の一言により、MSBのトップ神河忠弘局長が立ち上がり咳払いを一つしてから喋り始めた

「これからの事案の概要は事前にお配りした資料に書いてある通りです。全ては機密指定になっているので他言無用です」

と神河が言い終わったところで部下がやってきて神河にメモ用紙を差し出した

それを開いた神河は目を見開き、言った。

「あっ 交信の準備が今整ったそうです」

その言葉と共に全員が一斉に巨大スクリーンを見る

そこにはすぐにでも通話ができるような表示がされていた。









「おい いつまでいる気だ。俺にも明日重要な仕事というものがあるんだ」

もう秘密裏に行われる防衛活動や、防衛省特別作戦局とは関わりたくないと感じ、ビジネスホテルのソファから戻って部屋に入った鳩山仁志はまだ自分の部屋に居座ってPCを開いているMSB職員村井智成と相変わらず壁スレスレで突っ立っている巨体の男に言い放った。

「重要な仕事? それは嘘の話ですよ。あなたがここに飛ばされた理由は私達に会わせるためだ」

「どういうことだ?」

いきなり頭が混乱し出した鳩山に対し、村井が冷静な顔でこう言った。

「貴方の不動産会社に我々が鳩山仁志さんがここに出張になるように差し向けた。ただそれだけです」

嵌められた。ということを理解し、その言葉から思いついた一つの疑問を投げかけた。

「ならなぜこんな田舎なんだ

都内でも良かったんじゃないか」

それは今から説明しますよと悠長な答えを返された鳩山はこれから恐ろしい事実を知る事になる



「貴方が呼ばれた理由は、簡潔に言うと敵の懐に入らないようにするため。他にも貴方の任務成績が全盛期の時を越える人材がまだ出てきていないから、協力してもらおうという理由もあったかもしれませんがね。」

鳩山の頭はまたもや一瞬にして暴れ出した。

「敵.....?」

そう呟くと村井が答えた

「西原です。」

「はあ?」

危うく鳩山の思考が完全に停止しかけた。

西原が敵だと⁉︎

そんなはずはない。なぜなら西原はれきっとした防衛省特別作戦局職員だったし、何より西原は5年前に死んだはずだ。

いや、死んでいるのは思い込みかもしれないが彼も珍しい日本の間諜の人間だ。

あの時に捕えられて、激しい聴取ときつい拷問を今も受けている可能性がある。

しかし、鳩山の考えていることを見透かしたのか村井が言う。

「携帯電話ですら監視されている中国で反社会的なあの教団が生き残れるなんて不思議な話でしょう?

実はあれはカルト教団なんかではなく、日本革命連隊。腐敗した日本をもう一度作り直すとか言っている連中だ

無論そこの幹部は全員日本人、そして中国共産党内部にも、一応中国人だが今の政権を覆ることを望む者が彼らに協力している。そしてあなた部下であるはずだった西原幸太郎はそこの幹部の一人」


馬鹿な....信じられん。というのが鳩山の口からポツリとでた一言だった

まだ彼が入ってから一年目に初めて仕事でペアになって以来、鳩山のことが気に入ってくれたのか先輩、先輩とついてくるようになり見事な笑顔を見せてくれて、任務には忠実だった西原にそんな裏の顔があるとは思わなかった。


そんなことを考えている鳩山を無視して村井はPCにあの島の衛星写真を出しながら続ける

「今から約一年前、太平洋にいきなりポツンと出現した中沖島があったでしょう?

実は政府はそこを買い取っていた。

それはそこに日米軍の共同基地を作る予定だったのです。

しかし実際に工事を始めるとそこには単なる飛行場や演習場ではなくミサイルサイロ

を建設するようになった。

それはなぜだかわかりますか?」

”中沖島“この響きに去年に入社2年目なのに営業でかなりの好成績で部長に褒められて浮かれているところにニュースを見ると、EEZ内に突然島ができたと、世間が騒いでいた事を思い出す。

中国やロシアなどの脅威に対抗するので一番手っ取り早いのは、沖縄、日本海側の警戒を固めることだ。なぜ太平洋にある島に今更米軍が駐留する必要があるのか。

色んな機密情報や軍事関係のことに触れた経験のある鳩山には容易に理解することができた。





それから数分後、NB2024のことや、中沖島が嶋田宗一郎らに占領されたこと、近くを通りかかった漁船の乗組員を惨殺したこと、全て聞かされたが鳩山にはまだ理解できないことが一つあった。

「だがな、なんで俺がそんな事知っておく必要があるんだよ。敵に入らないようにしたいなら遠くから監視してりゃあいいじゃないか」

「いや、こちらが先手を打ってない必ず嶋田はあなたを味方につける

それほど強いという事です。防衛省もそれだけ困惑しているということもわかる。」





「それで、俺は何をしたらいいんだ。」

まだ腑に落ちないとこ鳩山は一応聞いておいた。

「あなたは私のいうことを聞いていればそれでいい。そうすれば安全を保証できますからね」

そう言い終わった村井のポケットからバイブレーダーが走る。

彼が携帯電話を取り出し何やら話す。

すると顔をしかめて鳩山の方に向く。

「嶋田の部下がこちらに向かっているそうです。早く撤退しないといけない。ついてきて!」


巨体の男がもし何かあれば追っ手にぶっ放せとでもいうかの目つきで陸自の拳銃SFP9を鳩山にも渡してかけ出す。

それをしまって、もうどうにでもなれという思いで彼は突っ走った。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る