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通報を受け、応対に出た海上保安庁の職員及び周りの職員はひどく混乱した。

上に報告するべきか、それともただの迷惑電話と見るべきなのか、通報や救難信号もも出ていないが念のためコソッと上に行っておこうと結論しかけたが、その騒動が起こることを事前に知っていた、いや知らされていたここにいつもいる職員たちにとっては、とても位が高い者がはいってきた。

そして彼は言った

「君たちはなにも知らなくていい。見なかったことにしろ」

と混乱を黙らした。



近鉄山田線を走っている終電ギリギリ普通電車に飛び乗りいつの間にか寝落ちしていた鳩山仁志は思わず辺りを見渡す。

まだ鳥羽駅ではないということを知って安心した。

鳩山は東京から建築業の出張で来ていて予定では今頃もうホテルに着いているはずだったが、新幹線の線路上あちこちに積乱雲ができ、3時間遅延した挙句近鉄線も大雨で止まっていた。

こうなるのだったら会社によらずに朝からそのまま行くのであったと後悔した。

鳩山がもう一度目を目を閉じた矢先に電車が轟音と共にドアを開けまた目を開けてしまう

開いたドアから黒い薄い上着を着て細い1人の男がやってきた。

その顔を見て鳩山はある違和感を覚えるが、気のせいだろうと思い再び目じることはできなかった。

何故なら、どこかで見たことのあるような顔で男が入ってきた車両は鳩山以外誰もいなくて自由に座ることができるのに何故か鳩山の隣に座ってきたからだ。

不審に思うも、どうでもいい、とできるだけなにも考えないように努力する鳩山。

しかし、男は鳥羽駅の一駅前に着いたところで声をかけてきた。

「お久しぶりですね。鳩山二曹。」

”二曹“ この響きに5年前まで国防の極秘組織にいたことと人生最大の失態を思い出し、私を二曹ではない。と気づいたら言ってしまっていた。何故この男は自分の5年前から思い出さないようにしていたことを知っているのかというのは後から出てきた。

鳩山は焦る

「何故お前がそれを知っている!?というか誰だお前は!」

いつのまにか立ち上がって詰め立ている自分を落ち着かせこの男の正体を考える。

退役者の名前でも絶対に外部に流れ出ないようにしているあの組織が、簡単に一般人に知られるはずはない。

ということはこいつは組織内部の人間だ。

鳩山がそう結論づけたことに気づいたのか男がニヤけながら、立ち上がった。

「まさか、覚えてないんですか。俺のこと」

男が笑いながら言う。

「村井.....か?」

考えないようにしていた昔のことで忘れたのも多い中、微かな記憶をひり出す。

「ええ、そうです。先輩が大失敗して抜けるまで、ずっとあなたについていた村井智成です」

「う、うるさい。あのことを口に出すんじゃない」

顔をしかめる鳩山に対し、村井が気にせず受け流す

「ところで鳩山さん。鳥羽駅過ぎたけど大丈夫ですか?」

「あっ」

気づいた頃には電車は鳥羽駅から出ていた。

次の駅で村井の部下に車で迎えにきてもらい、鳥羽駅近くのホテルに到着する。

フロントで手続きを済ましてから部屋に行くためのエレベーターに乗るが村井とその部下であろう迎えにきてくれた大柄な男が乗ってきた。

「なんだ。まだついてくるのか」


部屋に着き、荷物を下ろして、ベットにどっさり座った鳩山がいう

「ところでなんなんだ。俺はもうあんたのところの組織の人間ではないから関係ないだろう。それにああなったのはお前のせいだ!乗り越し精算で飛んでった俺の金を返せ!!」

一気にまくしたてた鳩山に大柄な男が部屋の隅っこで少し警戒するのがわかる


腰に手を当てているあたり、おそらくもしものための拳銃でもベルトに挟んであるのだろう。

「まあまあ、そう焦らずに、落ち着いて聞いてください」

ゆっくりと喋る村井に対して、鳩山に嫌気がさした。この喋り方は、敵から情報を聞き出す時にはいつも村井の人たらしの喋り方(?)が自白剤と合わせると役に立っていた。

「5年前、思い出しましたね?」

「ああ、お前のせいでな」

嫌味のこもった声で鳩山が答える



5年前といえば鳩山はまだ30代だった

村井もまだ入って1年も立っていない

防衛省特別作戦局(MSB)は防衛省の管轄下にある。そのため、3自衛隊のどこにも所属していない

主任務は水面下で日本が侵されるという情報を入手し、できるだけその妨害をする。つまり日本を守るために世界中の飛び回り、公式の自衛隊がやってしまったら絶対に許されないようなことを非公式で、一般市民にバレないようにしている。

鳩山は、トップである局長から中国の小さなカルト教団から武器が日本に密輸されてる可能性があるから調べてこいと命令され、村井と西原という部下を二人引き連れて、中国に入った。

ただそれだけならよかった。

幹部クラスの人間とっ捕まえて村井で情報を聞き出して成敗するだけのはずだった。

状況が一変したのはカルト教団に潜伏し、西原と鳩山が幹部クラスの人間を拘束し人気のない路地裏に連れ出した時だった

村井が話を切り出そうと口を開きかけた途端銃声がなり、銃弾が空気を引き裂く感覚が鳩山の頭皮から感じた。

少し上でを通過したらしいと思い、すぐに腰のベルトからグロック17を抜き出し弾が飛んできた方向に銃口を向ける。

しかし、暗闇で敵が見えない事がわかると

近くの物陰に隠れた。

ふと二人の部下を思い出し、見るとすでに隠れていた。鳩山が目で逃げると合図し、

銃弾の火線がと切れたところを見計らって三人がここまで乗ってきた自動車に向かって走り出す。追撃の火線を避け、途中手榴弾が張り付いてきたが、西原が追っ手に蹴り返したりしながら自動車に飛び乗る。

その後急発進させ北京郊外を抜け、都市部の道路を走り続け、防衛省の本部にこの事を連絡する。

防衛省もただの小さなカルト教団にこのような武装があることは驚いていたが作戦続行とまた何かあれば連絡をという言葉が返ってきた。

一通り西原が運転する自動車の中で済まして、少し肩の荷が降りたと思った矢先、村井がとんでもないことを言い出した。

「二曹。何故か同じ車がついてきてます。」





「あのカルト教団は一体なんだったんだ?

何故あの北京郊外にひっそり佇む宗教があれほどの武装と戦闘員を持っている?」

ベットに座って鳩山がつぶやく






村井の言葉を聞き鳩山は正直驚いたビルが立ち並び、車も多い北京なら撒けるだろうと考えていたがうまくいかなかった

ならこのまま追いかけっこを続けるのもありだが、そうすればいつか燃料が尽きてしまう。そうなると向こうの思い通りだ。

本当ならどこかで車を乗り捨て、姿をくらませるのが最善の行為なのだろうが、鳩山の取った行動とは違った。


今の人生に焦っていたのだろうか、休暇をもらい両親のもとに顔を出したと思ったら早く孫が見たいと言われたが、この時の鳩山はすでに40近い。

高校を卒業し、自衛隊に入り、そこで結構優秀な成績を取りレンジャー隊に誘われ、その訓練もなんとか耐えたと思ったら、もっと日本の防衛に肩入れしてみないか?などといわれ、試験を受け、合格後もう自分は国家の守る生き方をすると思っていたものだが。

しかし、この頃はつい余計な事を考える癖が出てきた。




何故あの時は馬鹿みたいに追っ手をたったの三人で蹴散らそうと考えたのだろうか。

鳩山は5年前をじっくり思い出そうと部屋から出てロビーに備え付けてあるソファに身を潜めていた。

あっさり村井が了承してくれているあたり逃げ出さないように見張りが敷いてあるのだろう。




北京の郊外に戻り、車を降りて念のために積んであったサイレンサー付きMP5を持ち出して射撃する。しかし、いくらSMGを使っても相手は十人以上いるのに対して、こちらは三人、しかも容赦なくカラシニコフの爆音を響かせているので勝敗は決まっている。

自分がした判断を悔やんでいると良いところに仲間の装甲加工したバンが到着すると急いで飛び乗り、村井も続く。

一息つけたと思ったら追っ手がバンの目の前に来ており、西原が入る道を確保しようと担いできたMP5を構えた時、駆けつけてくれた味方のドアを閉めようとしている行動が目に入った。

叫んだ時にはもう遅く、完全に閉まり、発車していた。

閉めた仲間の胸ぐらを掴んで揺さぶるが仲間の目は一向に動じず、その目からはここにいる者を守るためという返事がきた。


鳩山たちは即座に帰国し、一ヶ月間の処分を受けた。その間に鳩山は局長に退局届を出してそそくさと去っていった。




MSBは何故自分に話を聞かせようとするのか。ついに人手不足でもなってしまったのか?

どちらでもいい自分はただの不動産業に成り下がった人間ださっさと話をつけて出ていってもらおうと思った鳩山は自分の部屋に歩いていった



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