第34話 (…………エッロッ!!)



   ◇◇◇



 バッ……!!



 慌てて洞窟の中のリリアに目を向けたが、スヤスヤと可愛らしい寝顔。



(はぁあぁっ……)



 心の底から安堵する。


 ってか、俺。何してんだ?

 なんでこんなことになってんだ?


 なんか、俺までめちゃくちゃ恥ずかしいんだが?



 グザッ……



 俺がユアンの縄を切ると、ユアンは一目散に自分の身体をまさぐり、「んんっあっ!!」と声をあげる。




(…………エッロッ!!)



 それは認める。

 それは認めるし、いい目の保養になるが、リリアが起きたらめんどくさい感じになりそうな気しかしない。



 グッ……



 俺が勢いよくユアンの口を手で押さえると、トロントロンの翡翠の瞳と目を合わせる。



「……忘れろ。リリアには絶対に言うな!!」


「ひゃ、“ひゃぃ”……“ごしゅじんしゃま”……」


「それも辞めろ、殺すぞ……」


「ぁっ、んんっ!! ぅうゔっ!」


「このクソド変態がっ……!!」


「んんんんっ! ぅゔっ!!」



 冷静な俺の視線は洞窟内とユアンを行ったり来たり。散々、抱きまくったすぐあとにこんなことをしている場合じゃない。



「い、いい子にしてたら、また遊んでやるから黙れ!」


「…………はぃ」



 ポーッ……



 ユアンは「あはっ……」と力無く笑う姿に顔を引き攣らせる俺は……、



「ルーカスが気づいてないはずないだろ。まともに会ってくれるとは思えねぇけど……」


「リリア殿とルーカス殿には獣国の者たちを共に助けると伝えてあるんだ。心配しすぎなんじゃない? バロン」


「カッカッ! ワシもバロンの意見に賛同するぞ? ナニカあると思ってええじゃろぉの」


「あたしも同意見さね。一筋縄じゃいかないとみていい」


「……レイア、ルーカス様が怖いんですけど、なんでみなさんは平気なんですか?」



 マジで上がって来やがった帝国連中の声が聞こえ始める。



「……まったく。ユアンリーゼは何をしているのだ」


「ユアン様は奔放なお方ですが、頭が悪いわけではありません。きっとユアン様にはユアン様のお考えがあるのでしょう……」


「…………ね、姉さん。な、なんだか、身体がおかしい気がするんだけど……。“鑑定眼鏡”、持って来てる……?」



 エルフ共は、この変態を入れて4人か……。

 オークウェルの“バカリーダー”たちは、やっぱり死んだ……いや、殺されたのか……。



「じゃ、じゃあさ。ユアン、君のことなんて呼べばいい……?」


「……んなこと言ってる場合か! もう来るぞ!! また氷で塞げ!! 俺とリリアは籠城……」


「……?」

 

 ま、待て待て。コイツ、縄の痕が全身にあるじゃん。


 白い肌だから余計にクッキリと……。

 

 このままだと騒ぎになって、さっきのがリリアにバレる可能性が……? クソッ……。ま、まず、コイツに自分の体を治させて……、



 ガシャ、ガシャ、ガシャ……



 帝国の重騎士ヤロウの足音が鼓膜を揺らす。



(ああ!! めんどくせぇええ!!)



 グイッ!!



「お前も中にはいれ!! すぐ氷で塞げ!」


「ひぁいっ。ご主人様……」



 コ、コイツ……、もう殺しちゃおっかなぁあ!!



「《冥界の氷剣(ハデス)》……」



 ピキキキキッ!!!!



 入り口を塞ぐと、外からこちらに駆けてくる足音が聞こえるが、俺は水を生成する魔道具をユアンに渡す。



「あの奥に入って冷水で正気に戻って来い。その“痕”も消せ。リリアの裸は見るな。騒ぐな。喋るな。邪魔するな。わかったな?」


「……はぃ」



 ユアンはまだトロンとした表情のまま、ふわっふわっとヘンな歩き方をしながら奥に消えていく。



「ユアンリーゼ!! なにがあったのです!?」

「ほらみろ。おぉーい!! ルーカス!!」



 またうるさいヤツらが戻ってきた。



「《聴覚凪(ヒアリングカーム)》……」


 俺はガン無視を決め込み、スヤスヤと眠っているリリアの横に添い寝をする。



「ふっ……」



 疲れ果てた可愛らしい寝顔を見つめながらサラサラの頭を撫で、「ふわぁあっ……」と大きなあくびをしてから目を閉じた。


 すると、リリアと求め合って、乱れまくった光景が浮かんできてムラッとしたが、



 シィーン……



 あまりに心地よい“静寂”に、気がついたら意識を手放していた。



 

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